第4話:小さな贈り物 ― 気づかれない優しさ
翌朝。
アメリアは、机の上に置かれた編み地を見つめていた。
昨夜、眠気が訪れるまで、ただ無心で編み続けたもの。
形は整っているけれど、装飾も工夫もない。
――小さな、短めのマフラー。
(……どうして、これを)
使う予定はない。
誰かに見せるつもりもない。
けれど、捨てるのも少しだけ惜しくて、
アメリアはそれを畳み、腕に抱えて寮を出た。
廊下は、朝の冷気がまだ残っている。
そのとき――
角を曲がった先で、ひとりの少女が小さく身を縮めているのが目に入った。
下級生だ。
制服のサイズが少し合っていない。
両腕を抱え、唇を噛みしめている。
(……寒いのかな)
そう思った瞬間、
アメリアは自分でも驚くほど自然に、足を止めていた。
考えるより先に、体が動く。
「……あの」
少女がびくっと肩を揺らす。
アメリアは慌てて視線を逸らしながら、
腕に抱えていたマフラーを差し出した。
「これ……。
もし、要らなかったら……捨てて」
声は小さく、早口だった。
少女は一瞬、何が起きたのか分からない顔をしていたが、
差し出された布を見て、目を見開く。
「……え?」
アメリアは、それ以上説明しない。
(断られたら……それでいい)
善意だと自覚したくなかった。
理由を問われるのも、怖かった。
けれど――
少女は、そっとマフラーを受け取った。
「……あ、あの……ありがとうございます」
震える声。
けれど、その表情は、はっきりと明るくなっていた。
アメリアはそれを直視できず、
軽く頭を下げると、その場を離れた。
(……変なこと、したかな)
胸の奥が、少しだけざわつく。
誰にも知られず、
評価もされず、
ただの衝動。
それなのに――
翌日。
講義室に向かう途中、
アメリアは昨日の少女を見かけた。
首元には、見覚えのある色。
小さなマフラーが、きちんと巻かれている。
少女は友人と話しながら、
昨日より少しだけ、背筋を伸ばして歩いていた。
笑っている。
ほんの、小さな変化。
(……気のせい)
アメリアはそう思うことにして、視線を伏せた。
自分が何かをした、なんて考えない。
ただの偶然。
ただの一時的なもの。
それでも。
胸の奥に、
昨夜とは違う、静かな温かさが残っていた。




