第38話:王宮祝賀 ― 戦わない結末
王宮の大広間。
そこは本来――
誰かを裁くための場所だった。
高い天井。
ずらりと並ぶ貴族たち。
視線が交差し、噂と嫉妬が渦を巻き、
剣が抜かれなくとも、言葉が人を傷つける場所。
アメリアは、知っている。
前世の記憶の中で、
ここは「断罪舞踏会」が開かれる舞台だった。
糾弾。
嘲笑。
そして、破滅。
だからこそ――
足を踏み入れた瞬間、無意識に息を止めていた。
(……ここ、だ)
*
だが。
違和感は、すぐに気づくほど、はっきりしていた。
壁際には、確かに剣が並んでいる。
しかしそれは、抜かれる気配のない装飾品のように静かだ。
参列者たちの装いも、どこか柔らかい。
胸元に編み紐。
肩に小さな布。
手首に、控えめな編み飾り。
豪奢ではない。
誇示でもない。
ただ、身につけているだけ。
誰かを打ち負かすためではなく、
自分を落ち着かせるためのように。
空気が、やさしい。
囁き声も、笑い声も、
どこか低く、穏やかで、尖っていない。
アメリアは、戸惑う。
(……こんな、はずじゃ)
*
やがて、中央にアルベルト王子が立つ。
剣は持っていない。
正装はしているが、威圧する気配はない。
静かに、会場を見渡し――
短く、はっきりと告げた。
アルベルト
「本日は、剣も、競争もない」
会場が、しんと静まる。
「ただ……皆で祝福を分かち合う日とする」
その言葉に、派手な歓声は上がらなかった。
代わりに――
ほっと息を吐くような拍手が、広がっていく。
誰かを称えるためでもない。
勝者を讃えるためでもない。
「争わなくていい」という事実への、安堵。
その音に包まれながら、
アメリアは、ゆっくりと息をする。
*
胸の奥が、じん、と熱くなった。
アメリア(心)
(……戦わなくても)
(物語って、終われるんだ)
誰も倒していない。
誰も論破していない。
誰も、犠牲になっていない。
それでも、ここにいる全員が、
「終わり」を受け入れている。
優しい終わり方を、
世界そのものが選んでいる。
アメリアは、そっと会場を見渡す。
編まれた糸。
柔らかな布。
静かな笑顔。
――世界は、もう決めていた。
争わない結末を。




