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悪役令嬢は世界で一番あたたかい糸を紡ぐ  作者: 南蛇井


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第38話:王宮祝賀 ― 戦わない結末

王宮の大広間。


そこは本来――

誰かを裁くための場所だった。


高い天井。

ずらりと並ぶ貴族たち。

視線が交差し、噂と嫉妬が渦を巻き、

剣が抜かれなくとも、言葉が人を傷つける場所。


アメリアは、知っている。


前世の記憶の中で、

ここは「断罪舞踏会」が開かれる舞台だった。


糾弾。

嘲笑。

そして、破滅。


だからこそ――

足を踏み入れた瞬間、無意識に息を止めていた。


(……ここ、だ)



だが。


違和感は、すぐに気づくほど、はっきりしていた。


壁際には、確かに剣が並んでいる。

しかしそれは、抜かれる気配のない装飾品のように静かだ。


参列者たちの装いも、どこか柔らかい。


胸元に編み紐。

肩に小さな布。

手首に、控えめな編み飾り。


豪奢ではない。

誇示でもない。


ただ、身につけているだけ。


誰かを打ち負かすためではなく、

自分を落ち着かせるためのように。


空気が、やさしい。


囁き声も、笑い声も、

どこか低く、穏やかで、尖っていない。


アメリアは、戸惑う。


(……こんな、はずじゃ)



やがて、中央にアルベルト王子が立つ。


剣は持っていない。

正装はしているが、威圧する気配はない。


静かに、会場を見渡し――

短く、はっきりと告げた。


アルベルト

「本日は、剣も、競争もない」


会場が、しんと静まる。


「ただ……皆で祝福を分かち合う日とする」


その言葉に、派手な歓声は上がらなかった。


代わりに――

ほっと息を吐くような拍手が、広がっていく。


誰かを称えるためでもない。

勝者を讃えるためでもない。


「争わなくていい」という事実への、安堵。


その音に包まれながら、

アメリアは、ゆっくりと息をする。



胸の奥が、じん、と熱くなった。


アメリア(心)

(……戦わなくても)


(物語って、終われるんだ)


誰も倒していない。

誰も論破していない。

誰も、犠牲になっていない。


それでも、ここにいる全員が、

「終わり」を受け入れている。


優しい終わり方を、

世界そのものが選んでいる。


アメリアは、そっと会場を見渡す。


編まれた糸。

柔らかな布。

静かな笑顔。


――世界は、もう決めていた。


争わない結末を。



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