第37話:答えをくれた人たち ― 救いの言葉
王宮からの呼び出しは、簡潔だった。
理由も、用件も書かれていない。
ただ、「至急」とだけ記された紙。
その文字を見た瞬間、
アメリアの胸の奥が、きゅっと縮んだ。
(……来た、のかな)
足音が、やけに大きく聞こえる。
長い廊下。高い天井。
白い壁に反射する光が、どこか冷たい。
――前世の記憶が、一瞬よぎる。
華やかな舞踏会。
集まる貴族たち。
向けられる視線。
そして、断罪の言葉。
アメリアは、無意識に手を握りしめていた。
(大丈夫……まだ、何も言われてない)
そう言い聞かせても、心は落ち着かない。
扉の前で立ち止まり、深く息を吸う。
静かに、扉が開いた。
*
そこにいたのは――
剣を持たない、アルベルト王子。
そして、その隣に立つ、ミラベル。
誰も、壇上にはいない。
裁くための席も、糾弾するための列もない。
ただ、二人が、まっすぐにこちらを見ていた。
「アメリア」
ミラベルが、先に口を開く。
いつもの、親友としての声。
「あなたは――悪役じゃない」
その言葉は、あまりにも迷いがなかった。
否定でも、慰めでもない。
事実を告げるような、断言。
アメリアは、言葉を失う。
続けて、アルベルトが一歩前に出る。
「あなたは、この国を静かに救った人だ」
理由は語られない。
功績も、数字も、証拠も並べられない。
ただ、それだけ。
アメリアの中で、何かが――崩れた。
*
ぽろり、と。
気づく前に、涙が落ちていた。
「……っ」
声を出そうとしても、喉が詰まる。
否定しようとした言葉も、反論も、浮かばない。
これまで――
感謝を求めなかった。
評価を期待しなかった。
名前を呼ばれなくても、続けてきた。
それが、初めて。
「言葉」として、返ってきた。
アメリア
「……そんなふうに、言われるの……初めてです」
声は震え、涙が止まらない。
ミラベルが、そっと近づき、何も言わずに寄り添う。
アルベルトは、それ以上、何も付け加えなかった。
説得もしない。
未来も語らない。
ただ、答えだけを置いていく。
*
しばらくして、涙が落ち着いた頃。
アメリアは、ふと静かになる。
胸の奥に、温かいものが残っている。
確かに、救われた感覚があった。
けれど――
アメリア(心)
(みんなは、救ってくれた)
(でも……“未来”までは、決めてくれない)
それは、当たり前のことだった。
誰かが代わりに生きることはできない。
誰かが代わりに、結末を選ぶこともできない。
恐怖は、まだそこにある。
完全には消えていない。
けれど。
答えは、確かに受け取った。
アメリアは、ゆっくりと顔を上げる。
――他者は、答えをくれた。
――次に選ぶのは、自分自身だ。




