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悪役令嬢は世界で一番あたたかい糸を紡ぐ  作者: 南蛇井


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第23話:王国の会議 ― 剣よりも先に

王城の会議室は、

いつもより静かだった。


重厚な円卓。

並ぶのは、

騎士団長、文官長、財務官、教育監督官。


そして――

玉座の脇に立つ、アルベルト王太子。


議題は、本来なら

重く、硬いもののはずだった。


治安の悪化。

貧民区の拡大。

学園での衝突。

孤児院の運営難。


「騎士団の増員が必要です」


最初に口を開いたのは、

騎士団長だった。


「巡回を強化し、

 抑止力を――」


「少し待ってください」


その言葉を遮ったのは、

アルベルトだった。


騎士団長は驚いたように

口を閉じる。


王太子は、

机の上に置かれた資料を指でなぞった。


「……最近、

 王都での小競り合いが減っています」


「はい。しかしそれは――」


「騎士団の働きではありません」


会議室が、

一瞬、凍りついた。


アルベルトは続ける。


「巡回の回数は、

 実は変わっていない」


「剣を抜く回数も、

 減ってはいない」


「それでも、

 “争い”が起きていない場所がある」


財務官が眉をひそめる。


「……どこでしょう」


アルベルトは、

答えなかった。


代わりに、

教育監督官が、

慎重に言葉を選ぶ。


「学園、ですね」


「ええ」


アルベルトは頷く。


「本来なら、

 身分と競争で衝突が起きやすい場所」


「ですが――

 最近、問題が“長引かない”」


「原因が、

 報告に上がってこないのです」


文官長が、

低い声で言った。


「……不自然ですね」


「はい」


アルベルトは、

少しだけ微笑んだ。


「だから、調べました」


彼が合図すると、

侍従が資料を配る。


そこに書かれていたのは――

編み物。

孤児院。

学園祭。

市井の変化。


どれも、

小さな報告だった。


英雄譚はない。

敵もいない。


ただ、


・人が落ち着いた

・言い争いが減った

・夜、眠れるようになった


そんな、

理由にならない理由。


騎士団長が、

困惑したように呟く。


「……それで、争いが減ると?」


アルベルトは、

まっすぐに答えた。


「減ります」


「剣を構える前に、

 息を整える人が増えたから」


「怒りを吐き出す前に、

 手を動かす人が増えたから」


沈黙。


誰も、反論できなかった。


アルベルトは、

ゆっくりと言葉を続ける。


「もちろん、

 剣は必要です」


「でも――

 剣は、最後でいい」


「先に整えるべきは、

 人の心と、暮らしです」


財務官が、

恐る恐る口を開く。


「……つまり、

 福祉と教育を、

 “治安対策”と見なす、と?」


「はい」


アルベルトは頷いた。


「争いを減らす方法は、

 力じゃない」


「“争わなくて済む状態”を

 作ることです」


会議室の空気が、

少しずつ変わっていく。


剣の話をしていたはずなのに、

今、語られているのは

毛糸や、布や、

静かな時間のことだった。


最後に、

アルベルトは言った。


「誰かを持ち上げるつもりはありません」


「英雄も、

 象徴も、

 必要ない」


「ただ――

 この流れを、

 止めないでほしい」


その場に、

アメリアはいない。


名前も、

正式には出なかった。


それでも、

王国の中枢で、

確かに一つの認識が生まれた。


剣よりも先に、

針がある。


命令よりも先に、

ぬくもりがある。


この日、

王国は――

“力”の定義を、

ほんの少しだけ、書き換えた。

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