第14話:孤児院の冬 ― あたたかさの配布
冬の風は、学園の外では容赦なかった。
石造りの孤児院の廊下は冷え切っていて、
夕暮れが近づくほど、吐く息が白くなる。
その日、院の門にひとつの木箱が置かれていた。
中身は、毛糸の匂いがする小さな包み。
丁寧に畳まれた、マフラーや手袋、膝掛け。
送り主の名前は、どこにも書かれていなかった。
「……寄付、かしら?」
院長は首をかしげながらも、
子どもたちにそれを配った。
誰かが説明したわけではない。
特別な言葉も、演出もない。
ただ、寒い子に、編み物を渡した。
その夜。
孤児院は、いつもより静かだった。
誰かが泣く声も、
寒さで寝返りを打つ音もない。
子どもたちは、
編み物を抱えたまま、すう、と眠りに落ちていた。
夢中ではしゃぐこともない。
奇跡だと騒ぐこともない。
ただ――
夜が、穏やかに流れていく。
見回りをしていた院長は、
ひとりひとりの寝顔を見て、足を止めた。
(……ああ)
それは、救われた、という感情ではなかった。
懐かしい感覚。
昔は、こうだった。
安心して眠ることが、当たり前だった。
それが、戻ってきただけ。
翌朝。
子どもたちは特別な話をしなかった。
「寒くなかったね」
「よく眠れた」
それだけ。
名前のない編み物は、
誰かの話題になることもなく、
ただ、使われ続けた。
学園の外で、
街の片隅で、
ひとつの冬が、少しだけやわらいだ。
それは“奇跡”ではない。
戦いも、劇的な変化もない。
――“当たり前”が、静かに戻っただけ。
そしてその夜、
遠く離れた工房で、アメリアは何も知らないまま、
次の糸を選んでいた。
世界が、ほんの少し、
彼女のいない場所でもあたたかくなっていることを。




