表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は世界で一番あたたかい糸を紡ぐ  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/3

第1話:目覚め ― 悪役令嬢の記憶

目を開けた瞬間、違和感があった。


天蓋付きのベッド。

白と金を基調にした天井装飾。

柔らかな陽光が、重厚なカーテンの隙間から差し込んでいる。


――知らない部屋だ。


そう思ったはずなのに、身体は不思議と落ち着いていた。

まるで、ずっとここで眠っていたかのように。


アメリアは、ゆっくりと上半身を起こす。

視界に入ったのは、華奢な指先と、淡い色のナイトドレス。


「……え?」


喉から漏れた声は、聞き慣れないほど柔らかい。

低すぎず、高すぎず――貴族の令嬢らしい声音だった。


心臓が、嫌な音を立てて跳ねる。


(待って……)


その瞬間だった。


――記憶が、溢れ出す。


石畳の学園。

王太子の隣で微笑む少女。

周囲の非難の声。

「悪役令嬢」「嫉妬」「断罪」という言葉。


そして、画面いっぱいに表示されるエンディングテキスト。


《アメリア・フォン・ローゼンハイン

 その罪を以て、国外追放とする》


「……あ」


小さく息が漏れ、指先が震えた。


理解してしまったのだ。


ここは、前世でプレイしていた乙女ゲームの世界。

そして――


(わたし……アメリア……?)


鏡台に映った自分の顔を見て、確信する。


淡い金髪。

整いすぎた顔立ち。

気位の高そうな青い瞳。


間違いない。


彼女は、ヒロインではない。

選択肢を間違えれば救われる“隠し攻略対象”でもない。


ヒロインを妬み、

王太子に執着し、

自分の立場と感情を制御できずに破滅する――


悪役令嬢。


(……嘘でしょ)


喉の奥が、きゅっと締めつけられる。


ゲームの中のアメリアは、いつも苛立っていた。

自分が選ばれないことに怒り、

他人の幸せを認められず、

最後には、誰からも味方を得られなかった。


その結末を、アメリアは知っている。


断罪。

婚約破棄。

国外追放。


――バッドエンド。


「……生き残りたい」


思わず、そう呟いていた。


声は震えていたが、願いははっきりしていた。


(悪役にならなければいい)

(目立たなければいい)

(ヒロインにも、王太子にも、近づかなければ――)


そうすれば、きっと。


ゲームのイベントさえ起こさなければ、

この世界は、何事もなく流れていくはずだ。


アメリアは胸に手を当て、深く息を吸う。


(大丈夫……まだ、始まっていない)


断罪は、まだ先。

今はまだ、物語の序盤だ。


「……静かに生きよう」


誰にも愛されなくていい。

誰にも期待されなくていい。


ただ、破滅しなければ――それでいい。


そう自分に言い聞かせながら、

アメリアは再び、静かな部屋を見渡した。


だが、その胸の奥では、

小さな不安が、確かに芽吹き始めていた。


――この世界は、本当に“ゲーム通り”なのだろうか。


その疑問には、まだ答えはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ