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どこにも逃げ場がないかと思えるような量の魔法から、針の穴に糸を通すように活路を開いていく、そんなことを続けてどれくらいが経ったのだろうか。一瞬も油断できないこの状況で脳は焼き切れるくらい熱いし、最善を選択していても被弾は完全には避けられていないから身体もボロボロだ。
ここは魔王城の王座の間。今、私は魔王と対峙している。
「そろそろ終わりにしてやろう」
話す余裕すらない私に対して余裕そうな笑みを浮かべている、ように感じられるだけでもう、視るために必要なものなんて使い物にならないんだけれどもね。攻撃の火力はそれに比例して強まっていく。明らかに被弾が多くなっているし、足の限界はとっくの昔に超えている。
「確かに、そろそろ潮時かな」
王座へと続く廊下が少しざわめく。どうやら私よりも、もっと、ずっと、優秀な弟子達が到着したらしい。となると私の役目はそろそろ終わりなようで、ほっと息をつこうとしたその時、鼻先がくっついてしまいそうな距離に魔王が転移してくることを感じ取る。
「ああ、そうだな」
そっと撫で下ろそうとした胸が貫かれる。いや違う。私の魔力を吸収して、これまで削ってきた分を帳消しにしようとしているんだろう。上手くかかったようでなによりだ。
「ねえ、知ってるのかな。最近の流行りなんだけれども。もう止められないよね、魔力を吸収するの。」
ある1人に魔力を半分以上吸収させる。それを起点にして残りの魔力と記憶をそのままにあの世とこの世とんぼ返り、死んだ瞬間に転生する、そんな脱法めいた禁術が。
焼ききれそうな脳の熱さと痛みが、管理して大事に使っていた魔力が無くなる喪失感、そして欠乏による貧血のような寒気に塗りつぶされるようにスッと引いていく。さっきまでの破壊音や風を割る爆発音が嘘のように鼓膜の震えを認識出来なくなる。
でもそれが少し心地よく感じるくらいには疲れていた。
私はもう休みたかったのかもしれない。
何も成し遂げてなんていないし、やりたいこともたくさんあった。でも後悔はない。
禁術は公にされているはずもなく、成功確率がどれくらいなのかもわからない。というより、そもそもこんなものが実在しているのかすら怪しいんだ。誰かが物語の読みすぎて吐いた妄言なのかもしれない。
それでも、賭けてみたかった。
自分が自分の道を歩める未来を信じたい。ただそれだけ。
掠れきって、血に溺れた喉を絞りきって。
『 』
私はわたしのままでいられるのかな。
地面から伝わる音なのか衝撃なのかはわからない震えで意識が舞い戻る。
重力に逆らって地面から頭を離せない。
肺の上手な膨らませ方すら覚えていなくて息をすることすら難しい。
それでも、少しでも明るく温かいところへ行かなければいけないということは本能的に感じ取っている。
手足があることが久しぶりだという違和感に引きずられながら這いずる。
頭の中で輪唱して何倍にもなる耳鳴りと共に、何かを警告する理解できない強い音が聞こえてくる。
それでも止まれない。今、この機会を逃したらきっと起き上がることが出来なくなってしまうから。
そんなどこから湧き出たかもわからない不安と使命感を糧に眩しい方へ、もっと身体の先まで力をこめて進む。
上半身が光に照らされたそのとき、一瞬で全てが暖かな光に包まれる。
やっと地面以外の景色を目に映すことができた高揚感、さっきまでが嘘のような浮遊感、私を祝福しているのか振り注ぐ声、そして自分が生きていることを実感する痛み。
強い衝撃と共に宙に舞ったことを理解するのに、時間はかからない。
長い眠りから叩き起こされたような不快感と頭痛が、また、視界を少しずつ黒く塗りつぶしていく。




