101号室(?)
怨霊っていうのは、物質にある程度干渉できるようになった魂が、更に恨みとか後悔とか、そういうのが残ってる奴だ。
ここで面倒なのが、怨霊は人間を呪い殺したりし始めること。
別にそこまで厄介じゃないけど、殺した人間の魂とか喰ったりするので、流石に対処する必要がある。
そして、その怨霊がある程度力をつけ、人間に認識されることで形が歪み、歪んだ形に応じて相応の力も着けた輩。
ここまでくるとちょっと厄介だけど、ここ最近の人間に手こずるってのはあまりない。
時代かな。
怨霊と言えば。
俺は昔、一回だけ結構放置して噂が流れて有名になるまで待ち、その噂を聞きつけて肝試しに来た人間の魂を喰って、それなりに大きくなってから回収したことがある。
魂の回収に他のに取り込まれたのは駄目とかないし、いい手かと思ったんだけどね。
でも駄目だな、あれは効率が悪すぎる。
何十人喰ってても数は一つってカウントされるし、力を付けた奴は抵抗してくるし、厄介なのを相手して疲れるだけだからやめた。
後あんまり放置しすぎると他の死神が横取りされるし。
呪いは人が自力で作り出した術の一種だったはず、人間の子々孫々を殺すのから軽い不幸まで、結構種類がある。
呪術の他にも魔術とか色々あるらしい。
正直俺が扱うことはないからよく知らないんだよな、術とかなくても色々出来るし。
でもそういうのに嵌ってる知り合いは使えてるから、真面に学べば俺も使えるんだろうな。
俺はやらないけど。
なんせ、俺たちがそう言った術を覚えるのはつまり、自前の足があって歩けるのに、わざわざ車椅子を一から作るようなものだ。
個人の趣味やこだわりの領域の話だ、マァ人間社会で生活するのだって意味のない、趣味に近いけど。
『おっはよ、オーヤさん』
「……」
そんな田籠についてる呪い、通り過ぎる時偶然そいつと目が合い、おどけたように笑いながら挨拶してきた。
嫌そうにちらっとみた田籠にも見えてるんだろうけど、普通の人は見えてないらしいので無視した。
呪いは、見た目は二十ほどの人間の男の姿だ、赤い靄がまとわりついて、ふよふよ浮いてる。
田籠の背負ってる刀から紅い紐が伸びていて、首とか腕とか胴に巻き付いてる、その紐の所為で刀から離れられないらしい。
別に、俺は田籠が色々引き寄せるから出て行って欲しいわけじゃない、あんなもんどうとでもなる、むしろこのまま田籠でも誰でも殺してくれていい。
というか、呪いが勝手に襲ってきたのを喰ってるからな、おやつかなんかだと思ってる。
あそこまで呼び寄せるのは、そういうのを引き寄せる呪いが施されてるかららしい、人間だった頃にかけられたものだそうだ。
それと、怨霊は俺がそのまま魂を回収してる、もうどんどん呼び寄せてくれって感じ。
さて、ではなぜちょっと出て行って欲しいのかだが。
単純に、色々ぐちゃぐちゃに混ざってて、対処に困るのだ。
まず、あの呪いを呪いのようなって怨霊のような形容したが、そんな言い方をしたのは単純にどれとも区別できないから。
人間が死後怨霊になる事はある、生物が呪いになるのも、蟲毒とか狗神みたく有り得る。
そして、あれは呪いとして作られ、人を核にしているから怨霊でもあって、けれど色々混ざっているようだ。
俺としては人間の魂の部分を回収したいけど、他の部分と切り離すのが難しいくらい混ざってるし、その上無駄に力もついてるから相手するのは面倒だし。
しかも彼奴、封印が解けたら田籠をこのまま喰うつもりなのだ。
やめて欲しいな、俺が目を付けてるんだぞ。
相手するのは苦労しそうだし、苦労しても何にもならないし、でも放置するのは何か嫌だし。
だからもう、いっそのこと俺の視界に入らないところに行って欲しいって思うのも、無理はないだろ。




