101号室
俺は楽に魂を回収したい、そう思ってアパート経営してる。
今の入居者は全然死なないけど、それでも入居させたままでいる、だって人間はいつか死ぬし。
だけど、それでも正直出て行って欲しいような欲しくないような、複雑な心境にさせられる住人もいる。
それが101号室に住んでいる田籠、大学生。
うちは家賃やすいし、駅にも近いから学生の一人暮らしにはいいだろうな、実はもう一人学生が住んでいる。
「あれ大家さん、掃除ですか?」
「まー、そんな感じ」
竹ぼうき持って立ってたら田籠に声かけられた、リュックと竹刀袋背負ってるから、これから大学かな。
この箒は掃除用じゃないし、でも肯定した方が楽そうなので、ひとまず肯定しておこう。
それに、俺は掃除をしない、掃除という手段を取らなくともこの辺りを綺麗に出来るし、やるだけ無駄な行動だろ。
この箒は俺がちょっと必要になって生み出したものだ、見た目通りに掃除にも全然使えるけど、今の用途としては鎌の代わりみたいな。
死神が大鎌を持っていないとは言ったが、魂の回収に道具が必要ないわけじゃァない。
別に素手でも出来るけど、魂魄を切り離すのには素手より道具を使った方が楽だし、抵抗してくる奴にも使う。
でも大鎌とかはハロウィンの仮装とでも言い訳しなきゃ目立つ、後単純に邪魔だし、なので他の何かいい感じの道具を生み出している。
因みに、箒の形には特に意味はない、アパート経営し始めて最初に使ったのがこれだったから、今もこの形にしているだけ。
昔は普通に刃物を使ってたけど、ある日気付いたのだ、俺が生み出した道具なら鈍器でも効果あるってことに。
そこから色々試してみたけど、当てれば何でもいいらしい、小石作って投げても刃物と変わらない結果だった、重要なのは形ではなく意味なのだろう。
「頑張ってくださいね」
「ん~」
「おぉ、気のない返事……」
さてこの田籠、別にそこまで特別な何かがある訳ではない。
否、正確には本人は何もない、だな。
田籠本人は、本当にいたって普通の人間なのだ。
正直うちに入居させるか迷ったくらいには、人格精神趣向その他、つまりは人間性的な面での問題はない。
問題があるのは、田籠に取り憑いてる呪いの方だ。
呪いというか、怨霊というか、怪異というか。
判断に困る奴だから、全部ひっくるめて魔物とか妖魔、ここは日本だからあやかしかな、そう呼んでもいいだろうけど。
ひとまず呪いってことにしておこう、多分一番本質に近いし。
とにかく、そんな感じの大分珍しい呪いに取り憑かれている田籠。
マァ本体はいまだ封印されたままみたいだけど、依り代に使ってる刀を毎日担いでる大変そう。
封印が機能してるからこそ、田籠が生きてるんだろうな、中途半端に主従関係が出来てる。
あの刀、元は田籠の実家の蔵にあったらしい。
こいつの家って古かったのだろうか、それとも刀が色んな所を渡り歩いた結果辿り着いたのか、マァどうでもいいか。
それに、今となっては確認する術もないし。
なんせ、人も家も物も、もう燃え滓しか残ってないし。
あの刀が封じている呪いは、どうやら色んな怪異とかの人外を引き寄せるらしい、事実このアパートも田籠が入居して以来良く襲われる。
そして子供の頃に、好奇心で入り込んだ蔵の、奥の奥に置かれてた刀に興味本位で触れてうっかり中途半端に封印を解いた田籠。
それ以来自分は呪いに取り憑かれ、実家は呪いに引き寄せられた魑魅魍魎に襲われ家族は全滅。
以上、全部田籠に憑いてる呪いに聞いた話。
愉快な半生を送ってきた割に、精神は実に健全だ。
もう少しガタついててもいいと思うんだけど、図太いというか、面の皮が厚いというか。
メンタル強いんだろうな。
とはいえ、出て行って欲しいのは別に、こいつのメンタルが強いからでも呪いが色々引き寄せるからでもないけど。




