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どうも大家です、最近の悩みは住人が死なないこと  作者: 小城穂


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病院

 稀によく、死神が魂を回収し忘れ、それを放置した奴が心霊現象起こしたりするんだよな。


 それにしても、この病院妙に綺麗というか、未回収の魂がないというか。

 正直歩き回ってれば一つくらいは残ってると思ってたけど、全然ないな。


 なんというか、俺の経験上こういうのは死神が居着いてることが多い。

 というか俺の医者時代がこんな感じだったから、多分看護師か医者か、入院患者かな。


 病院をざっと見回して魂が残ってないだけなら、他の死神が通った後かなって納得できるけど、それにしては綺麗すぎる。

 この感じは多分、死者が出たらすぐに聞きつけて、その足で回収してるくらいの綺麗さだ。

 前にこの病院来た時はこんな感じじゃなかったから、最近入って来たのか。

 そうなると、すぐに出ていくべきかもな。


「なぁ」

「ん?」


 そんなことを考えてたら、声を掛けられた。

 その方向を向くと、見事に予想通り、白衣着た男がいた。


「お前同業か」

「あぁ、うん」

「そうか」


 確認するように聞いてきた男に、取り敢えず頷いておいた。

 やっぱり、俺と同じ死神だったらしい、予想が当たってたな。

 でも何というか、この場合の同業というのは死神の事だとはわかってはいるが、相手が医者の恰好をしているからか医療関係者か聞かれてる気分になる。


 そしてこの短い会話で分かった事。

 こいつ生まれたの結構最近だな、人間的な感情や情緒が薄い。

 人間に混ざってある程度時間がたつと、なんだかんだで多少はそういうのが沸くから、生まれて直ぐは結構わかりやすい。

 何というか、個性というか、そういうのが出て来るのだ。


 後多分医者じゃない、恰好をそれっぽくして紛れ込んでるだけみたいだ。

 さっき隣を通った看護師が声を掛けようとして、一瞬戸惑ってたから間違いない。

 名前が思い出せなかったんだろうな。

 マァ流石に医療技術はないし、変なことして死なせたら駄目だし、紛れ込むだけなのは悪い手じゃない。


 人間の記憶くらい操れるから、違和感抱かせないように問題なく溶け込める。

 さっきだって、あの看護師はすぐに何事もなかったように通り過ぎた、多分普通に挨拶して通り過ぎたつもりになっているのだろう。


 俺も昔はやってた、詰まんないからもうしないけど。

 ただそこにいるだけって、ある程度人間社会に慣れてくると退屈って感じるようになるんだよな。

 薄っぺらくても関係を築いてみたくなるし、人間がやってる事にも興味を持つようになる。

 こいつは、まだその段階じゃないのだろう。


「ここは綺麗だな」

「そうか」

「お前の縄張り?」

「縄張り?」


 不思議そうに聞き返してきた相手は、やっぱり生まれたてらしい、一番最近生まれたのいつだっけか。

 二十年位前、だっけか。

 否、五十年かな。

 今まで関わりなかったから気にしてなかったからよく覚えてない。


「自分のテリトリーって決めてる場所、そこの魂を勝手に回収されたら文句言える」

「そんな決まりがあるのか……」

「否、決まりではない、気付いたらそんな感じになってただけ、いつ誰が始めたのかは知らん」

「そうなのか」


 縄張り、本当に誰が始めたんだろうな。

 因みに、他人の縄張りで勝手に魂回収した場合、代わりに何をさせるかは人による。

 好きにこき使われたりとかね。

 でもおかげでうちのアパートの住人とその関係者には手ぇ出されないし、自分にも益があるから、俺は従うことにしてる。

 そんなの関係ない、目の前にある魂を回収して何が悪いって感じで回収する奴もいるけど、スタンスの違いだから気にしないことにしてる。

 争ってもなんにもならないし、争う意味もないし、無駄な事はしない方がいい。


「文句……」

「俺はまだ何もやってないだろ」

「そうか」

「そうだろ」


 良く分からない、というかあんまり興味なさそうな様子で、そのままじゃぁと別れた。

 今まで特に恩恵とか感じたことないんだろうな、生まれて間もないと魂の回収以外に思考が割かれないんだよな。

 そしてある程度長くやってると、段々飽きてくるから色々手を出したりし始める。


 マァ別に、病院にずっといることは悪い事じゃない。

 むしろ魂が回収されないまま時間がたった方が問題だし。


 放置してた魂が心霊現象を引き起こす、と言ったが、肉体を亡くした後、魂と魄が外に出てしまった場合って方が正しい。


 魂魄(こんぱく)

 魂は精神、魄は肉体を司り、二つが結び付くことで人間を形作る。

 東アジアにおいて言われている思想だ。


 さて、その概念をベースに、(死神)としてもう少し踏み込んで説明をするなら。


 魂とは形のないもの、魄は形のあるものを、それぞれ司る。


 形のないもの。

 生物の根幹的な部分。

 それがそれであることを意味するもの、情報と言ったわかりやすいかな。

 生きる上で形成される全て、人格、記憶、記録などの根本であり根底。

 それが(たましい)であり、俺たち死神が回収しているものだ。


 形あるもの。

 その形とはつまるところ、肉体だと思えば早い。

 肉体に由来しその生物を形作り、崩れれば当然、生物はその形を保てなくなる。

 こっちは俺たちは別に回収していない。


 魂だけなら意思があっても形がないし、魄だけなら形があっても意思がない、故に問題はないんだけど。

 死んだ後に魂魄が肉体から離れた場合、形と意思が揃っちゃうから問題なんだよな。

 そもそも魄は肉体に付随して生まれ、基本肉体が生命活動を停止して、分解されていけば釣られて自然と消えるのだ。基本的には。

 昔は魂が魄を引きずって体外に出たりとか、力のある魂が魄の代わりを自力で形成したりとか、そういうのが色々あったけど。そういうのはちょっと面倒だったな。

 時代が進んだ今はあまり聞かないけど。


 けれど今の時代にも心霊現象とかある様に、死んだ後も物質的に干渉することは可能だ。

 もう少し具体的に言うと、魂魄が残ったまま少し放置しても、すぐなら問題はない。

 肉体から離れていくくらいで、物質に干渉することは出来ないし。

 マァ死んだからか、俺たちについて何かを察してる逃げ始めるけど、追いつくのは別に苦じゃない。


 そこからさらに放置すると力を持ち始めて、所謂心霊現象とかを引き起こすようにある。

 まだそこまで害はない状態だ、ちょっと悪戯する程度。

 人間は過剰に恐れるけど、別に害せる程の力はないから気にしなくてもいいのに。


 そこから更に放置するとちょっと面倒な事になるから、さっさと回収できる環境にいるのは悪い事じゃない。

 病院とか、人が良く死ぬけど居着いても違和感ないし。

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