201号室
そんな風に死神やってる俺を、絶賛困らせてる住人達は今日も人生を満喫しているらしい、素晴らしい事だな。
してない奴もいるけど、それでも生きてるだけで俺を困らせるんだからいいだろう、無意味な生じゃないぞ。
本当に、何で死なないんだろうな彼奴ら。
日常的に自殺未遂してる奴もいるのに。
血管に沿って丁寧に太もも切ってる奴とか、普通に死ねる怪我だろ、何で死なないんだろ。
自力で縫合してるからだな、知ってる、そんな技術を無駄に使うなよ。
隣の部屋から偶に凄い血の匂いするんですってクレームが来てるんだよな、ジビエでも作ってるんじゃないかで騙されたけど、お裾分け貰いに行ってたけど、馬鹿が隣でよかったな。
このアパートの住人に碌な奴いないから、死なないとただの迷惑な奴らなんだよな、改めて思ったよ。
「ちょっといいスか?」
「……どーぞ」
そして、俺は今、借金取りに声かけられてる。
ノックされて出たらガラ悪い金髪が立ってたんだよな、偶にある。
住人の誰かに用がある奴って、ガラ悪いのが多いんだよ。
そして、俺はこいつを知ってたりする。
顔なじみの闇金事務所の奴だ、俺は借りたことないのに顔見知りになった。
前にうちに住んでた住人の何人かの元にも、訪ねてきては金返せって言ってきてたので。
他にも何人か同じ事務所の人間がいるが、よく金の回収に来るこいつ。
このアパートの治安がどんどん悪くなる、素晴らしいね。
今俺がこいつの顔を覚えてるように、向こうにも顔は覚えられてるらしい、挨拶とかされるし、世間話とかもするし。
なので、こいつらが死んだら魂の回収に向かおうと思っている、後ろ暗い仕事してる奴は早死にするからね、目を付けておこう。
さて、今回は201号室の前多に用かな。
彼奴はギャンブル好きだから、友人知人とは縁が切れ、色んな所に金を借りて回り、そして今は闇金事務所の常連。
前に闇金から金借りてた住人は取り立てに耐え切れず四か月で首括ったのに、その前も船に乗って大海原に沈んだのに、前多は何故か三年も耐えてる。
闇金は死なさず生かさずで金を絞り取るのが仕事なのは理解してるから、殺すのは最初から期待してないけどさ、精神をすり減らしたりはしてくれよって感じ。
「前多の部屋の鍵借りたいんスけど」
「彼奴なら今パチ行ってますよ」
「マジすか」
「部屋入って待ってるんなら鍵開けますけど」
「あ~、否今日は他に回るところあるんで、終わったらまた来ます」
やっぱり前多に用があったらしい借金取りは、相手がいなかったので今日は素直に引いていった。
普通はこのままパチンコ店まで行くんだろうけど、前多は血の気が多いからか喧嘩普通に買うからなぁ。後先考えずに恫喝されたらし返すし、殴られたら殴り返す、その所為で前科付いて真っ当な職にもつけないらしいし。
パチンコ店で取っ組み合いの喧嘩したことがあるからか、以来素直に待つようになった借金取り、話は一応出来るから金ある時は返済されるもんな。
闇金より行儀悪いのはどうかと思うぞ。
ボロ雑巾になって戻ってくること数十回、それでも死なないんだからしぶといというか、悪運が強いというか。
その筋の奴らに海外に売り飛ばされないのは、どういうわけかギリギリのところで金作って返済するからだろうな。
その後またすぐ借りに行くけど。
彼奴、今日このままバナナの皮で滑って頭打って死なねぇかな。
死なないんだろうな。
クソぅ。




