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どうも大家です、最近の悩みは住人が死なないこと  作者: 小城穂


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11/12

同期

「103号室は?」

「入居者募集中」

「人気ないの?」

「中々いい人間が居なくて」


 ふぅん。

 特に興味のなさそうな生返事を返して、少女は桃色の瞳を細めた。

 自分からこのアパートの住人について聞いてきた癖に、いざ説明してやったらその返事はどうなんだ。


「アパート経営って大変なんだね~」

「そうか? 基本見てるだけでいいぞ」

「見るしかしてないんだねぇ」


 そうまとめて、目の前の少女はホールのケーキに直接フォークを刺し、掬った欠片を口いっぱいに頬張った。

 これでもう四号ケーキのワンホールが半分ほど消えた、びっくりの速度だ。

 こいつ、手土産として持ってきたケーキを、自分一人で平らげるつもりじゃないだろうな、仕方ないので俺もホールに直接フォークを刺して食べる。


 しっとりとしたスポンジに滑らかなクリーム、スポンジの間の苺の酸味、中々悪くないな。

 流石、手土産は自分で食べる為に買うとまで言っている奴が、持ってきただけある。

 ちょっと味わって、もう一度ケーキに視線を戻したら四分の一程度しか残っていなかったけど。


 前を見ると、頬をハムスターみたいに膨らませた少女と目が合った。

 お土産とか言ってたくせに、残ったケーキを皿ごと抱えて威嚇してきやがった。

 野生動物並みに威嚇してきてる、分かったよ、もうケーキを食べるのは諦めることにするから。

 こっちガン見ながらケーキを頬張るなよ。


「どうしてそうも食い意地が張っているんだ? 特に食事が必要なからだでもないだろ」

「美味しいから」

「そうか」


 美味しいかららしい。

 ケーキをワンホール全部食べ終わった少女は、ほんのり笑みを浮かべながら答えた、頬にクリームついてるけど。


「食に喜びを見出して何が悪いのさ」

「悪いとは言ってない」

「人間観察キット作るよりはよっぽど健全な趣味じゃん」

「だから悪いとは、ちょっと待て、人間観察キットって言ったか?」

「このアパートだよ、どう見ても人間観察キットでしょ」

「酷い言いようだ」

「お前は昔からこういうの好きだったよね、悪趣味とは言わないで上げるよ」

「言ってるようなもんだな」

「うん、ホントお前悪趣味だなっていつも思ってる」

「とうとう言った……」


 にこやかに言い切る少女は、俺と同じ死神、見た目は十五、六ほど。

 ケーキを食べ終わって、ちょっと満足したのか真面に会話が出来るようになった。

 今までは俺の言葉にケーキを頬張りながら適当に相槌打つだけだったからな、自分から押し掛けてきた癖に。


「お前だって趣味がいいとは言えないだろ」

「どこがさ」

「いまだにあのとんちきステッキ使ってるんだろ」

「何が悪いのさ、可愛いじゃん」

「ステッキは兎も角、振り回してる奴と使用目的が可愛くない」

「むぅ」


 むくれたように俺を見て来るが、魂の回収にファンシーなステッキを使うのは可愛くないからな。


 とんちきステッキっていうのは、アニメの魔女っ子とかが振り回してるタイプのアレだ。

 こいつには昔そのアニメ見て大層気に入ったらしく、以来そのステッキを模した奴を作って振り回してる、ついでに音とか光とかも出してる自前で出してる。

 アニメの鑑賞会に付き合わされて、挙句デザインを考えるのも手伝わされた身としては、可愛いステッキを振り回すにはお前は可愛くないって感想しか沸かない。

 特に鑑賞の時、ルドヴィコ療法みたいなことしようとしやがって、俺たちはそういうの意味ないって自分でも知ってるくせに何故やったんだホント。


「それで、えぇっと、25632番」

「最近はルシアって名乗ってるよ、お前はまだハイト?」

「否、今は黒木」

「黒木ね、呼ぶ機会あったら呼ぶよ」

「そうか」


 死神には名前、というのがない。

 だから死神同士だと作られた番号を呼び合ったり、人間相手には適当な名前を名乗ったりしている。

 ルシアを25632番と呼んだが、俺は25081番だ。

 死神は基本、千ずつ作られる、なので同じ時期かつ同じ生物担当として作られた相手は、人間でいうところの同期みたいなものだろうか。付き合いも長いし。


 今回、お互い人間相手の名前を名乗ったが、次呼ぶ機会が出来た頃には、この名前が変わってることが多い。

 なので正直あまり意味はないが、一応お互い名乗るべき名前があるのなら名乗っておこうって感じだ。


「それで、何しに来たんだ?」

「別に、近く通ったから顔見とこうかなって思って」

「へぇ、お前暇なの?」

「失礼な、最近はお菓子作りに精を出してるから忙しんだよ」

「お菓子、作る方なのか」

「うん」

「数百年間食べる専門だったくせに」

「ちょっと興味沸いてね、中々いい出来だったでしょ」

「あの手土産手作りだったのか」

「そうだよ、美味しかったでしょ」

「一口しか食べれてない」

「お前がノロいからだよ、世の中は早い者勝ちなんだよ」

「おぉう、そういうこと言うか」


 好き勝手言ってくれやがったルシアに、仕方ないから取り出したクッキーを出してから、ルシアが手を出すより早く皿ごと抱えて一人で食べることにした。

 うん、さくっとしてバターの香りが豊な甘い焼き菓子、美味しいね。


 一人で菓子食い始めた俺に、気に入らないのかルシアが飛び掛かってきたので避ける。

 世の中早い者勝ちなのだ、自分の動きのノロさを恨むことだな。

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