死神
俺は死神だ。
死神というのは死者の魂を回収する存在だ。
とはいえ、全ての生物の魂を回収するわけではない。
生物別に担当が違っていて、俺の担当は人間。
死神と聞くと、黒いローブに大鎌担いだ骸骨、みたいなイメージがメジャーらしいけど、実際はそんな明らかに異形な姿ではない。
基本は担当してる生物と近い姿で生まれてくる。
人間担当の俺は人間、その中でも比較的若い男の姿をしている。
俺たち死神は生物のだって普通に見えてるので、魂を回収するために近くにいて可笑しくない姿、ということなのだろう。
生物に見えているが、勿論見えないようにも出来る。
自分の魂を回収していく存在なんて、生物からすれば見えない方がいいだろうし。
けど、そうすると単純に暇なのだ。
死神がやる事と言ったら、定期的に与えられるノルマ通りに魂を回収するだけ、それ以外にやるべきことは何もない。
その上、死神には寿命というのがない、それこそ俺は人間という種が滅びるまで存在し続けることになる。
その長い時間を、一切なんの干渉もせず過ごすというのは、いささか退屈過ぎる。
それなら人間社会に紛れて、退屈を紛らわしながらの方が幾分この生業にもやる気が出るだろう。
そんな感じで、人間社会に紛れ込み適当に魂を回収する日々を送る俺は、ちょっと前からアパート経営をしている。
完全に思いつきで始めたけど、土地の購入から建物を建てて入居者を集めるまで、意外とあっさり話が進んでいった、やっぱり俺は優秀だな。
入居審査はひたすら甘く、というかほぼなしだ、入りたいっていえば入居させている。何かあっても俺に被害が出る事なんてない。
そして敷金はなし、どっか壊れても俺が直せるし、家賃も安くしてる。儲けなんてなくても俺に害はない、元々金目的でやってない。
土地があればアパートを一晩で建てれるし、俺に関する人間の記憶とか書類とかをちょっと弄るくらい簡単だ。
死神というのは案外、大抵の事はできちゃうから。
それからしばらくは上手く行ってたけど、最近は全然思うように行かない。
具体的には、入居者が三年近く一人も死んでない。
「もうやめようかな……」
気分が落ち込んで、そんな考えが過る。
だって仕方ないだろう、だって今年のノルマが達成できてないんだから。
否色々あって結構回収できて入るけど、ノルマにはまだ届かない感じだ。
死神にはノルマが与えられている。
我ら死神を生み出した父から、担当する生物の数や死神の数、寿命とかを考慮した一人が回収するべき魂の数として課されている物だ。
このノルマは三回連続で未達成だと消滅することになる。
そして俺は既に一回未達成だったりする、今年も駄目だと消滅にリーチがかかった状態になる、胸が高鳴るな。
マァ俺は結構長く死神やってるので、正直消滅リーチくらいは経験してるからな、この状況は全然問題ない。
適当な病院を回るか、それこそ海を渡ってどっかの戦場にでも行けば達成できる感じだ、地球上で人が死なない日なんてないんだから。
そう、このアパートにこだわらなければ、達成できるんだよな。
だけどなぁ、この生活をやめたくないんだよなぁ。
寝てるだけで住人が死んで、その魂を回収してノルマ完了の生活、勝手に家賃も入ってくるから人間の作った娯楽品も買える。
もう四十年はこの生活続けてるからか、真面に働く気がびっくりするくらい起きない、人間のニートってこんな気分なのかな。
最初は、本当にうまくいっていたのだ。
一年に平均三人、多い時は五人死んでた、そこまで行ったらあとはそこら辺散歩してればノルマ分が集まる。
もう俺が驚くくらい上手くいった。
結構気まぐれで始めて、成功しなくてもいいやって感じだったのに。
くそぅ、こんなにうまくいったから俺は真面に働く気を失ったのだ、もっと失敗してたらこんな事には。
いつもそうだ、藪でも医者を名乗ってたら何とかなった時代に医者をやってたら上手くいった時は良かった。
デカい戦争とか始まって、軍人として潜り込んで、死者が溢れる戦場を駆けまわった時も。
けど医者は、時代が進むと医療技術が上がっていったから死なせないことが前提になり始めてやめたけど。
目の前に意識の無い人間がいて、手には刃物があるのに、そのまま首を掻っ捌けず延命させるしかないもどかしさと言ったら。
だから俺は医者をやめた。
軍も、流石に誰も殺さないままように前線に立ち続けるのは面倒になっちゃったんだよな。
生きてる人間を殺すの駄目だし。
致命傷を本人の治癒力を超えて治したり、勿論死んだ人間を蘇らせるのも駄目なのだ。
生物の生死に直接介入しちゃダメなのだ、父さんに怒られちゃうし。
死神は大抵の事はできるけど、やったら怒られることはある、やり過ぎるとそのまま消滅。




