第四話 本物の“愛”って、こんなに見つからないものなのか
紹介会の夜、宮殿の大広間は宴で沸き返っていた。
ワインの香り、音楽の調べ、色とりどりの料理。俺の隣にはラミナが優雅に座り、並びにはツンデレ猫耳のルナ、年上サキュバスのミレーヌ、妹系妖精のナリがにぎやかに話しながら寄り添っている。
「王としての威厳もだいぶ板についたわね」
「透様、今日もとっても素敵よ♡」
「ねー! あとでお兄ちゃんのお部屋いってもいい?」
彼女たちは俺を笑わせようとしてくれる。会話を合わせて、甘えたり、褒めたり、俺を“満たして”くれる。
……そう。俺がかつて、現実世界で渇望してやまなかったものを。
(でも、なんだろうな)
満たされてるはずの胸の内に、妙な“乾き”がある。
たとえば、俺が明日「金なんていらない」と言ったら。
「王様なんて辞める」と言ったら。
「チートの力なんてなくても生きていきたい」と言ったら。
……それでも、彼女たちは俺のそばにいてくれるだろうか?
「透様?お顔が……疲れていらっしゃるようです」
ラミナが小声で囁く。白くて細い指先が、俺の手にそっと触れた。
「今日はお休みになられても……お疲れではありませんか?」
優しい、気遣いの言葉。完璧な笑顔。
でも、その言葉の裏にある“感情”が、どこかで薄っぺらく感じられてしまう。
俺は無理やり笑って答える。
「大丈夫だ、ラミナ。気にしないで」
(こんなに優しいのに……どうして、俺は疑ってしまうんだ?)
自分で作った世界なのに、自分で招いた理想の女性たちなのに。
「透様ー! ワインおかわりはー?」
猫耳のルナがグラスを掲げる。
「私が注ぎますわ」
「いえ、私が!」
「ん~、じゃあ私がキスしながら注いじゃうっ!」
ハーレムは騒がしく、にぎやかで、幸せに包まれていた。
なのに、俺は――
(“孤独”って、こういうことか?)
騒がしさの中で、自分だけが取り残されていく感覚に襲われた。
夜が更け、宴が終わり、部屋に戻ると。
俺は一人、広すぎるベッドの上で天井を見つめていた。
隣にラミナはいない。今日は「王様の安らぎの時間を尊重して」と、彼女のほうから下がってくれた。
その配慮もまた、完璧すぎて――
(……俺の事、本当に心配してくれてるのは誰なんだろうな)
ふと浮かんだのは、あの少女だった。
転生したばかりの草原で、最初に声をかけてくれた、地味で、平凡で、冴えない女の子。
あのとき、あの子だけは、何の下心もなく、俺に「大丈夫ですか?」と手を差し伸べてくれた。
俺は、その手を――払いのけた。
(……なんで、今になって気になってるんだ?)
寝返りを打ち、目を閉じようとする。けれど、まぶたの裏に浮かぶのは、豪華な美女たちではなかった。
地味で素朴で、でも――あのときだけは確かに、“誰か”として見てくれていた気がする、あの娘のまなざし。
(もしかして、俺が……一番、欲しかったものって……)
胸の奥の“乾き”が、答えを告げるのを、俺はまだ、恐れていた。
俺はまだ、このハーレムの中で、自分が“愛されている”のかどうかすら、分かっていなかった。
でも、気づいてしまった。
――この楽園は、俺が作った「ごっこ遊び」にすぎないのかもしれないと。