第二話 美女に囲まれて、童貞卒業して、人生大勝利!
初夜は、夢みたいだった。
銀髪エルフの名前はラミナ。俺が想像して異世界のどこかから召喚されてきたけど、彼女は自分の意志で微笑み、語り、俺を優しく抱いてくれた。
「透様が、私の初めてのお方です……大切にしてくださいね」
透様――そう呼ばれた瞬間、心の奥がジワッと温かくなった気がした。俺のことを“誰か”が“必要としてくれる”。そんな感覚に包まれた。
童貞、卒業。
俺の人生で、こんなことが起きるなんて思ってなかった。
翌朝――
朝陽の差し込む宮殿の寝室で、ラミナは俺の隣で穏やかに微笑んでいた。スベスベの肌、優しい手の温もり、そして何より「ここにいていい」という安心感。
これこそが、異世界転生の醍醐味――俺の人生、大逆転だ!
……だけど。
「ラミナ、異世界一の美女だけあって最高に可愛いけど……ハーレムって“ひとり”じゃないよな?」
俺は欲張りだった。だってチートがあるんだ。だったら、理想を全部手に入れなきゃもったいない。
「“俺のもとに、ツンデレ美少女が現れる!”」
「……べ、別にアンタのために来たわけじゃないんだからねっ!」
ちょっと意地悪な猫耳少女ルナが、尻尾をふわふわさせて登場。
「“清楚系だけど大胆な年上美人が嫁ぎにくる!”」
「フフ、よろしくね、坊や。全部、教えてあげるわ」
妖艶なサキュバス系美人ミレーヌが甘く微笑んで寄り添ってきた。
「“元気いっぱいな妹系美少女も追加!”」
「お兄ちゃんっ! いっしょに寝よ〜!」
妖精の羽をパタパタさせながら天真爛漫な精霊ナリが膝に飛び込んできた。
もう止まらない。俺の理想を、次々と現実にできるんだから。
そして宮殿には、美しさも性格も異なる多種多様な美女たちが次々と現れ、俺を慕い、褒めて、甘えて、尽くしてくれる。
「透様~」
「だ~いすき♡」
「王様、今夜は誰のお部屋に?」
……これが、ハーレム。
勝ち組の人生ってやつだ。
美女に囲まれ、美酒を飲み、美食に舌鼓を打ち、ベッドの上では夢のような夜が繰り返される。まさに酒池肉林。地獄のようだった現実世界とは真逆の、楽園。
「最高すぎる!!!!!死んで良かった!!!!!」
でも――
(……なんだ? この、ほんのちょっとした違和感は)
胸の奥に、針の先で突かれたような、小さな、かすかな空白。
気のせいだ。きっとそうだ。
俺は異世界で勝ち取ったんだ。最強のチート、金、権力、美女、そして愛……。
そのすべてを、手に入れたんだ――よな?
ラミナがそっと俺の袖を引いた。
「透様、今日はどこに行かれますか? 庭園? それとも、ハーレムの女の子たちの紹介会?」
「……ああ、そうだな。紹介会……で」
微笑みながら答えた俺の脳裏に、ふと浮かんだのは――
転生直後に出会った、地味でおとなしいあの娘の姿だった。
(……なんで、今さらモブの事なんて思い出したんだ?)