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第70話

大介は激しく麺を口に送り、心の中でその外国人カップルの「食に対するセンス」に感心した。2 口麺を飲み込むと、口の中の辛さが和らぎ、「また頑張れる!」と再び気合いが湧き上がった。


食事が終わり、エコバッグを提げて家に向かう途中、大介は先ほどもらった鴨肉の喜びを思い出した。以前の自分は「運が最悪」だと感じていた。傘を持たない日に必ず雨が降り、コートを着ない日に急に寒くなり、きちんと並んでいるのに割り込まれ、真剣に仕事をしているのに不当なクレームを受ける……


日々の不運によって、人生は本来の輝きを失い、暗く鈍くなっていった。


しかし、「福気」に迷い込んだあの夜から、すべてが変わり始めた。近所との関係が和らぎ、新たなパートタイムが見つかり、仕事で先輩に褒められ、2 人の子供の先生からも「徐々に明るくなり、他の子供たちと一緒に遊ぶようになった」と言われた。人生は良い方向に進み、大介は自分の「埃にまみれた人生」が日々光り出しているのを感じることができた。


良い気分で 3 階に上がると、階段の入り口にうずもっている影にほとんど転げ落ちるほど驚いた。危急の瞬間、まずエコバッグを守るために体をかしげ、弁当箱がこぼれないようにした。


「谁…… 誰だ!」


「大介哥、是我、隼人。」


大介が立ち止まり、月光を借りてその影が確かに隼人であることを確認した。「隼人???何で階段の入り口に蹲もってるの?びっくりさせるぞ。」


「俺、大介を待ってたんだ。」


この真剣な言葉に、大介は太い腕に鳥肌が立った。


「普通に話せよ。『哥』なんて呼ばないで。一体何の用だ?」


隼人はそれを受け入れ、実の年齢で言うと大介より 2 年上だが、話を進めた。


「大介、助けてくれ!」


隼人の悲鳴に、大介は再び足を滑らせそうになった。「あ??」


「今日、君が食事を届けてくれたのを同僚たちが見たんだ。」


「それはそうだが、どうした?」


「みんな『昼ごはんの香りが良い』と言って分け合わせを強要された。食べ終わったらみんなで囲まれて質問攻めにされ、気が付いたら『大介に頼めばいい』と勝手に約束してしまった……」


大介は沈黙し、しばらくの間無言にした後、呆れた声で言った。「だから、俺の役割は『一人分持ち帰り』から『会社全体の配達係』に昇格したわけか?」


「ええと…… 半分くらいの社員か…… 合計で 10 人ぐらい。でも、みんなに『配送料を支払う』と伝えておいた。いくらにするかは君が決めてくれればいいんだ。」


大介は頭を下げて考えた。午前中のパートは早く終わるので、昼休みの時間が長く、遠くまで配達する時間は十分ある。ただ、大量の弁当を運ぶには、大きな袋が必要だろう。


10 人ほどの分量は多いと言えば多いが、少ないと言えば少ない。2 つのエコバッグなら大丈夫だろう。


「ま、いいか。ティップは卓也と同じにしろ。1 件 5 元、注文したいものは事前に教えてくれ。」


隼人は頷いて承知した。廊下の中間に設置された感応式の電灯が突然点き、階段の入り口もちらほらと光りを浴びた。卓也がその光の中をゆったりと近づいてきた。「お前ら、ここで密談してるの?」


大介が隼人の同僚たちの弁当を届けるという「大注文」を受けたことを聞いた卓也は、彼のために喜んだ。収入が増えるのはいつも良いことだ。3 人は「福気」の料理についてさらに話し、週末に一緒に楓浜通りの店に行く約束をしてから、それぞれに帰った。


翌日の正午、大介は仕事を終えた後、急いで「福気」に向かった。店のドアを開けると、手前の席に若い客が数人座っていた。どうやら昼休みに食事に来たらしいが、なぜか同じテーブルに座りながら、互いに気まずい表情を浮かべていた。


この数人こそ、前日「福気」で自分の言葉にバカにされた男たちだ。前日のランチを食べた後、彼らはその味に夢中になってしまった。夜に連続して来店すると「他人に目撃される」と心配し、我慢して一晩を過ごし、ようやく正午になってマスクと帽子を身に着けて、こっそりと店に入ったのだ。


友達になれる人は、似た思想や性格を持っているものだ。彼らは「一晩我慢してから行く」という同じ判断を下したが、同じ時刻に店で偶然再会してしまった。その場面の空気の重さに、薄葉夕夏は台所に逃げ込んでしまい、秋山長雪さえ 2 分間ほど店の前に立ち尽くした末、ようやく落ち着いたという。


「え?また持ち帰りですか?」秋山長雪は大介が店に入ったのを見て、自然に聞いた。


「はい。これらを持ち帰りたいんです。」大介はリュックサックから手のひらサイズのノートを取り出し、あるページを指差した。「多分少し多いですが、早めに準備できますか?」


ノートには、一見すると 15~16 品目の注文が書かれていた。秋山長雪の表情は驚きから緊張へと変わり、大介を防備するような目で見つめた。「そんなにたくさん?食べきれるの?まさか…… 売り倒しでは?」


大介は一瞬沈黙した。確かに、1 品目につき 5 元の利益を得ている以上、「売り倒し」に該当するかもしれない。


「別に…… 友人の会社が遠すぎて、時間がないんです……」


説明するほどに「作り話」に聞こえてしまうが、幸い秋山長雪は深く追及せず、台所に入って薄葉夕夏に「大注文を受けた」と喜びを伝えた。


「夕夏!夕夏!いいことがあるの!」


「何なの?」薄葉夕夏は前のテーブルの注文を処理しながら、ついでに聞いた。


「毎晩持ち帰りに来るお客さんが、今超大注文したの!概算すると 15~16 品目くらいよ!」


「15~16 品目?そんなに?」


「友人のために買うらしいわ。」


「注文リストはある?何を注文したの?」


リストを受け取って見ると、注文内容は多岐にわたり、メニューの新商品がほぼ全て注文されていた。ここ数日の低迷した商売に耐え、台所では食材の準備を最小限に抑えてきたため、突然の大量注文に備えた食材は足りなかった。


薄葉夕夏は手元の作業を急ぎ、秋山長雪に「客に料理を届けたら、早く戻って手伝いをして」と頼んだ。2 人が同時に作業を進めたにもかかわらず、大介の注文を全て準備し終えるのに 1 時間以上を要した。


「すみません、初めての大注文で台所の準備が足りず、時間がかかってしまいました…… お待たせしてごめんなさい」


薄葉夕夏と秋山長雪がそれぞれぎっしりと詰まったエコバッグを抱えてフロントに戻ると、大介はすでに席をたたきながら待ちきれていた。彼も初めての「大注文」で、何かトラブルが発生しないように必死に気を配っていた。


「大丈夫です!」


大介はエコバッグを受け取って現金を払い、あわてて店を飛び出した。冗談を交わす暇もなく、ただ必死に時間を追った。


なんとか客たちの昼休みに間に合わせ、隼人の職場の前に到着すると、すぐに中から声が上がった。


「隼人!お兄さんが皆んなの昼ごはんを届けてくれた!」


静かだったオフィスが一気に沸き立ち、「空腹の狼」たちが次々とドアに飛び付いて、大介を熱心にオフィスに誘った。


「隼人の兄さん、どうぞ入ってください!」


「お疲れ様です!ちょっとここに座って休んでください!」


「こちらにエコバッグ置いてください!水飲みますか?」


大柄で健筋肉の大介が人だかりの真ん中に囲まれると、かすかに小さく見えて戸惑っていた。幸い隼人が早速立ち上がって助け舟を出した。


「みんな、落ち着いて!キチンと並んでお金を準備して、順番に受け取ろう」


隼人が秩序を取り戻すと、「狼たち」は素直に列を作り、金を渡して弁当を受け取るスタイルになった。


昼ごはんを手にした人たちは喜びながら集まり、空いた席を探して早速食べ始めた。


それぞれ異なるメニューを注文したため、お互いに料理を分け合いながら楽しく話している。オフィスの空気は意外にも和やかだった。


濃厚な料理の香りがオフィス中に漂う中、自分で弁当を持参した同僚たちは苦しんだ。においに誘われながら、味気ない自宅弁当を食べると、「朝から一生懸命働いても、熱い食事すら食べられないなんて……」と不満を募らせた。


賢明な人たちはすでに人だかりに紛れ込んで「味見」をしていたが、ずっとケンカを挑起していた数人は、周りの同僚を腹立たしそうに睨んでいた。


「呵呵、オフィスでこんな匂いの強い料理を食べるなんて……。このにおいがいつ消えるかわからないのに、午後もずっとこれを嗅いで働かなきゃ?一体どうやって仕事するんだ?」


「まさに!こいつらに公共のマナーがない!オフィスでの昼食を禁止するように、何とかしないと!」


数人が頭を寄せ合って、自ら「絶妙な計画」を立てた。


ゆったりとした昼休みの後、忙しい仕事の時間が訪れた。おそらくランチが大満足だったせいか、作業能率はゲンキングを打ったように急上昇し、平素最も「のまる」ことを好む幾人の「油断したベテラン」さえ、真剣に仕事に取り組んでいた。


広いオフィスでは、たたき続けるキーボードの音と、ささやかな会話のみが響いていた。


突然、オフィスの扉が開かれ、一行人が入ってきた。先頭の男は 50 歳ほどの見た目で、背が低く、お腹がふくらんでいた。髪は真っ黒で豊かに見えるが、よく見ると毛質が粗く、まるで動物の毛皮を染めたような「ウィッグ」らしいものだった。


彼が近づくと、席に座っていた全員が仕事を中断し、立ち上がってお辞儀をした。


「部長、こんにちは。」


「ふふ、ふふ、皆さん座ってください。続けて仕事してください。たまたま立ち寄っただけですから、気にしないでください」


男は笑いながら皆に座るように促し、手を後ろに回してのんびりと周りを散策したあと、「偶然」のように質問した。「おかしいな、オフィスに匂いがするわ。掃除係が怠けたのか?窓際の同僚、窓を開けて匂いを払ってください」


真夏の時期、全員がエアコンに依存していた。


窓が開くと、外の熱気が一気に室内に流れ込み、まず窓際の同僚たちが災難に遭った。熱風が冷気を一瞬で払いのけ、全身に薄汗を誘発した。


「嗯、これでだいぶ良い。同僚の皆さん、少し我慢してください。匂いがなくなるまで窓を開けたままにしてください。最低でも 30 分間ね」


30 分?!


この猛暑の日に、10 分間でも窓を開けるのは「命を削る」ほどだ。何況 30 分とは……


皆は心の中で苦しみを叫びながらも、顔に不満を表すことはできなかった。部長を丁寧に見送った後、ようやく「この出来事の正体」を考え始めた。


部長が入ってきた瞬間、風間は「摩擦を起こした」小島が普段とは異なる「勝者の微笑み」を浮かべ、同僚たちの苦しみを冷たい目で見つめているのに気づいた。オフィスの噂を連想すると、この部長が間違いなく小島の親戚であることがハッキリとわかった。


そして、部長が去る前に残した命令は、明らかに「今日中華料理を食べたグループ」を狙ったものだった。


「今後は、ランチタイムにはできるだけレストランや 1 階のリラックスルームで食べてください。オフィスは仕事の場です。自分の家のように大切にしてください」

これでもう、何が起こったのかは明らかだった。


風間は小島を敵意をこめて見つめたが、「背景のある彼」に対して、「素人の自分」には抗う術がなかった。


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