第1話
※作者は中国人です。
※この小説は中国語で書かれ、翻訳機を使って日本語に翻訳されています,文法に問題がありましたらご容赦ください。
※この小説の中国語版は中国の小説サイトで公開されています。
※この小説の中国語版は添付されている。
薄葉夕夏は病院の廊下にぐったりと座り込み、ぼんやりと床のタイルを見つめていた。彼女は雨に降られた落ちぼうしのようで、全身びしょ濡れで、髪の先には絶えず水滴がたまり、すでに雨がかかっているチェックシャツに一滴一滴と落ちていた。
窓の外は黒雲が太陽を覆い、雷鳴と稲光もあるが、それに伴う涼しい風はまさに真夏の蒸し暑さを吹き飛ばしてくれた。
喉をこする薄葉夕夏は、自分が今この瞬間、泣き叫ぶべきだと知っていた。でも、なぜか、彼女はまったく涙が出なかった。心が死んでしまう以上の哀しみは、今の自分の状態だろうと思った。顔にべたついている液体が汗なのか雨なのかわからず、視界を曇らせていた。彼女は手を上げて拭おうとしたとき、腕もぬれていることに気づいた。
「薄葉勝武、薄葉香月さんの家族はいますか?」
「います!私は彼らの娘です!」薄葉夕夏は医者の尋ね声を聞いて、急いで立ち上がった。
「申し訳ありません。ご節度ください……」
「節……」
薄葉夕夏は血気が上湧し、足がつかずに倒れそうになった。幸い医者が手を差し伸べて支えてくれたので、人前で転倒することはなかった。
「お見送りに入ってもよろしいです。」
「あ?ああ…… ああ…… はい…… ありがとう……」
薄葉夕夏は自分の頭がごたごたしていることを感じた。あまりにも多くの出来事が次々と起こり、前の出来事を整理する余裕もなく、次の出来事を受け入れるしかなかった。自分が何をすべきかわからず、ただ周りの人の指示に機械的に従うしかなかった。
病室に入ると、隣り合わせの二つのベッドにそれぞれ大きな白い布がかけられていた。盛り上がった輪郭から、白い布の下にはすでに亡くなった人たちだとわかった。
ベッドのそばに立っている医療スタッフは薄葉夕夏が近づくのを見て、皆頭を下げた。その残念な表情、無力な視線はすべて薄葉夕夏に今から両親を失った孤児になったことを告げていた。
悲しみが病室に覆いつくしている。両親が白い布で覆われる姿を目の当たりにしたインパクトは間違いなく大きかった。
薄葉夕夏は口を開いたが、一つの言葉も吐き出せなかった。
しばらくしてようやく彼女は意識を取り戻し、そっと尋ねた。「これから私は何をすればいいんですか?」
看護婦のお姉さんにカウンターまで連れて行かれ、薄葉夕夏は両親の死亡診断書を受け取った。
薄い一枚の紙には白地に黒字ではっきりと書かれていた。この瞬間、薄葉夕夏はやっと両親が去ったという現実を実感した。涙が糸が切れた玉のように次々と紙の上に落ち、紙の文字が見えなくなってしまった。
「遺体はしばらく病院に預けておくことができます。まず葬儀屋に連絡して場所と時間を予約してください。それからあなたの住んでいるコミュニティで関連する手続きを済ませて、その後葬儀屋のスタッフと一緒に病院に来て遺体を引き取って葬式をするんです。あなたの家の近くの葬儀屋を探してもいいし、直接当病院と提携している葬儀屋に連絡してもいいですよ。電話番号が必要なら、受付にありますよ。」
「はい…… はい、ありがとうございます……」
「でも、まずは家の親戚や年配の方に連絡したほうがいいですよ。こういうことは彼らのほうが経験があるからね。」看護婦のお姉さんは同情のまなざしで薄葉夕夏を見た。この女の子は自分よりわずか数歳若いだけで、見た目では 20 歳ちょっとで、まだ世間知らずの清純な大学生らしい。
彼女がぼんやりとした表情を見ると、恐らくまだ両親の死を受け入れていないのだろう。それにしても、両親の葬式を手配するなんて、彼女にとっては到底できそうにない。
言うまでもなく、突然こんな大きな変化に遭ったら、自分だったら死ぬ気でもなってしまうだろう。
看護婦のお姉さんは思わず憐れんだ気持ちになり、もし手伝えることがあれば、助けてあげようと思った。何とか自分に善い行いをしておこうという気持ちもあった。
看護婦のお姉さんの助けを借りて、薄葉夕夏はぼんやりと携帯電話を取り出し、親戚たちの電話番号を探し出したが、かけるボタンを押さなかった。
薄葉夕夏は思い出した。彼女の両親は若い頃に故郷を離れ、この見知らぬ国にやって来て苦労して、何十年もかけて家業を築いた。やっと故郷に帰って実家を光栄にするつもりだったのに、故郷の親戚たちは彼女の家を ATM のように思っていた。用事があるとなんとなくお金を借りに来た。息子の結婚式だったり、娘の大学進学だったり、借金の理由は様々だったが、借りていったお金は一度も返さなかった。
もし借金を断ったら、それらの親戚は顔を変えて他人同然になった。
薄葉夕夏の両親は何度か騙されて、このお金は返ってこないことを理解した。だからここ数年、祝日になっても故郷に戻らなかった。
薄葉夕夏が動きを止めるのを見て、看護婦のお姉さんは少し疑問に思ったが、深く尋ねることはしなかった。「両親の友人に連絡してみましょうよ。あなたの家はこの辺でレストランを開いているそうですから、地元の古い友人の中にはあなたを助けてくれる人がいるはずですよ。」
「そう…… そう…… 古い友人!」
薄葉夕夏はまるで夢から覚めたかのように、父親の携帯電話を取り出して、彼女にとって見知らぬけれどもなじみのある電話番号にかけた。彼女は今、自宅の事情を知っている誰かの助けを切望していた。そうしないと、本当に精神を崩してしまうだろう。
「冬木おじさん…… 私は夕夏です…… 私の両親が…… うーん、うーん…… 彼らは亡くなっちゃったんです!朝に私に隣の市へ二日間旅行に行くって言って、途中で車の事故があったんです…… 警察から私に連絡があったんです…… 私はどうしたらいいかわからないんです…… 私が病院に駆けつけた時、彼らはまだ手術を受けていたんです…… でも…… うーん…… 医者に入らせてもらったんです…… 私は二枚の白い布を見たんです…… 冬木おじさん、私はどうしたらいいんですか……」
「…… 私は中央病院にいます…… 死亡診断書はもう受け取りました…… 葬儀屋にはまだ連絡していません…… はい…… 私はここにいて、おじさんが来るのを待ちます……」
薄葉夕夏の口から出る冬木おじさんとは、彼女の両親の長年の友人、冬木雅弘のことだ。地元の華人で、冬木家は古代の貴族の末裔だと言われている。社会が発展して今では貴族というものはなくなったが、祖先から受け継いだ気骨はまだ残っている。
冬木雅弘の家系は元々冬木家の分家で、彼の先祖は若い頃毅然として他国に向かい、自らの努力でこの見知らぬ国で少しずつ根を下ろしていった。冬木雅弘の世代になると、家族はすでに地元で少し有名になっていた。
家の次男として、冬木雅弘は自らの努力で相当な家業を築き上げ、地元で有名な起業家になった。彼には特に他の趣味はなく、唯一の楽しみは美食を食べることだ。街に新しくオープンしたレストランの味はどうか、どの店が新しい料理を出したか、彼はいつも最初に知る人物だ。
薄葉夕夏の両親と知り合ったのも、食べ物のおかげだった。
それはレストランが新しくオープンした当時のことで、商売はまだあまりなく、しばしば来店する客は冬木雅弘だけだった。何度か来店して、雑談やあいさつの中で自然と友人になった。
もし不運な出来事が突然起こらなければ、彼らの友情はもっと長く続くはずだった。
薄葉夕夏は病室に戻ったが、近づく勇気がなく、廊下のベンチに座って冬木雅弘の到着をじっと待っていた。
今日起こったすべてがあまりにも混乱して衝撃的で、彼女はずっと頭が真っ白な状態になっていた。脳の中はまるでコンクリートが流し込まれたかのようで、これからやるべきことをしっかりと考えようとしても、頭を使うことができなかった。
幸いなことに、冬木雅弘はすぐにやってきた。薄葉夕夏が彼を見たとき、彼は汗をかきながら病室の場所をあちこちで尋ねていた。あの様子を見ると、明らかに急いで駆けつけたことがわかった。
「冬木おじさん......」
「ああ!夕夏だね...... お父さんとお母さんはどこにいるの?」
「この中に......」薄葉夕夏は隣の病室を指さした。
「いい子だ...... まず私が中に入って彼らを見てくる。」
冬木雅弘が病室に入るのを見送り、薄葉夕夏は自発的にドアを閉めて廊下に戻って座った。しばらくすると、部屋の中から冬木雅弘の抑えきれない叫び声が聞こえてきた。それに伴って、薄葉夕夏の涙も流れ出した。
長い時間が経って、やっと冬木雅弘が病室から出てきて、薄葉夕夏の隣に座り込んだ。「いい子だ...... これからのことは私がやるから、心配しないで。」
「ありがとうございます、冬木おじさん。」
「何を謝るんだ。私がすべきことだ。この時には絶対にくじけてはいけないんだ、わかる?」冬木雅弘は心配そうに薄葉夕夏を見つめた。
この子の様子はとても悪い。かつて輝いていた瞳が今は全く光彩を失い、目の中にはまるで薄い布がかかったようで、ぼんやりとして生き生きとした表情がない。
薄葉夕夏は無力にうなずいた。本当に聞き取ったのかどうかはわからない。
冬木雅弘はまた心配そうに何かを尋ねた後、そっと傍に行って葬儀屋に連絡した。すべてを手配し終えて、彼は振り返ると、薄葉夕夏が後ろに仰向けになり、頭を壁にもたせ、目を閉じて、まるで眠っているかのように見えた。
そうだった。薄葉夕夏はただの大学卒業生にすぎない。小さいころから甘やかされて育ち、苦しみを少しも味わったことがない。多分警察からの通知を受けて、隣の市から急いで駆けつけたに違いない。彼女の足にはまだスリッパが履いてあり、上着のシャツとズボンは同じチェック柄で、広くて快適そうだ。明らかに家居着を着替える余裕もなく出かけたのだ。
長い道のりと両親を失うという打撃のために、薄葉夕夏の精神状態はずっと崩壊の寸前にあった。幸い自分が来たのだ。でなければ、この小さな女の子が一人でどうしたらいいのか、本当にわからなかった。
冬木雅弘はため息をついた。薄葉夕夏がこの一日中あまり食べていないに違いないと思い、席の上のかばんを持って外へ出て食べ物を買ってきようとした。思いもよらず、薄葉夕夏が先に目を開けた。「冬木おじさん、あなたは帰るんですか......?」
「あなたが眠っているのを見て、食事をしていないだろうと思って、外へ出て買ってきようと思ったんだ。」
「ありがとうございます、冬木おじさん。お腹が空いていません......」
「一日中何も食べていないんじゃないですか?お腹が空かないはずがない。私には遠慮しなくていいよ。」
「本当にお腹がすごく空いていないんです...... あ、冬木おじさん、私はさっきあなたが電話をしているのを聞きました。葬儀屋は連絡しましたか?」
「うん。お父さんとお母さんが急に亡くなったので、早く彼らを安らかに眠らせたいと思って、できるだけ早く手配したんだ...... お父さんとお母さんの生前の友人や古いお客様のほとんどは私が知っているから、私が葬式に参加するように連絡しよう。あなたは時間を見つけて家に帰って、遺品を整理して、お父さんとお母さんと一緒に埋葬するものを決めなさい。」
「じゃあ、私は今帰ります。冬木おじさん、私の両親を見守っていただけませんか。」
冬木雅弘に手を振って別れを告げ、薄葉夕夏は家に向かう道を歩き出した。
数年前、彼女は隣の市の大学に合格した。家の近い大学を選んだから、よく家に帰って見ることができるだろうと思っていたのに、授業が多く忙しく、卒業後は仕事探しに追われ、一年生の時以外は、その後ずっと暇がなかった。
前回家に帰って以来、もう大きく半年が経っていた。
懐かしい 2 階建ての小さな家の前に戻った。この家は薄葉夕夏が 5 歳の時に両親が土地を買って建てたものだ。それまでは、アパートに借りて暮らしていて、狭くてこんじんでいた。一生懸命に店を経営して、何年もかけて貯めたお金で、やっと自分たちの家を持つことができた。薄葉夕夏の両親は異国の地で半生をさすらって、ようやく根を下ろしたのだ。
家には小さな庭が付いていて、白い壁と灰色の瓦で、自分の家のレストランから近い。庭には薄葉夕夏の両親が手植えした様々な野菜や果物がある。初夏の時期には、キュウリ、ヘチマ、トマトが一番よく育っている時期で、そのそばには桃の木もある。あと少しで、旬の桃を収穫して食べることができる。
ポケットから鍵を探し出して、薄葉夕夏は家のドアを開けた。大きく半年も家に帰っていなかったけれど、家のインテリアはいつもの通りで、様々な物がそれぞれの場所にきちんと並んでいて、家全体がきれいで、ほこり一つない。
薄葉夕夏は 2 階に上がり、両親の部屋に入った。彼女は一周してみたが、部屋には日常の着替えの服以外に、両親に供えるに値する物は何もなかった。彼女の両親は素朴な夫婦で、店を経営することと畑を耕すこと以外に、他の趣味はなく、芸術についてはまったく知識がない。
もし彼らが一番大切にしている物があるなら、間違いなくレストランと庭の野菜や果物だ。
薄葉夕夏はため息をついた。振り返ると、ベッドサイドテーブルの収納ボックスの中に一つの鍵が入っているのを見た。これは自分の家のレストランの玄関の鍵だ。
[店に行ってみよう]
どこからか来たような声が薄葉夕夏の耳元に響き、彼女に鍵を持ってレストランに向かうように促した。