酒場に残された者たち
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1章の続きを書いてください。
ルークが酒場から立ち去った後の勇者アルヴィン、エレナ、ガルドの会話。
エレナはルークに対して好感度が低いです、理由はアルヴィンがルークに対して特に優しいから嫉妬です。ガルドはルークに関心が低いですが、パーティーでの仕事はしっかりみています。アルヴィンは昔ルークに対して恩を感じる出来事があり、彼が無能でありながらも魔王討伐という志を持っていたのでパーティーに加入させていた。会話や人間関係を丁寧に書いてください。
ルークが酒場の扉を閉め、冷たい夜の闇に消えた瞬間、酒場の喧騒が再び活気を取り戻した。冒険者たちの笑い声やグラスがぶつかる音が響き合い、まるで何事もなかったかのように場は温まる。だが、勇者パーティーのテーブルには、微妙な空気が漂っていた。
勇者アルヴィンは、ルークが去った扉をじっと見つめていた。銀の鎧に映るランプの光が、彼の端正な顔を照らし出す。普段は穏やかで落ち着いた彼の表情に、ほんのわずかな影が差していた。隣に座る聖女の召喚獣、ユニコーンのたてがみが、静かに揺れる。
「ふん、ようやくあの荷物持ちがいなくなったわ」
魔法使いのエレナが、鼻で笑いながら口を開いた。彼女の肩に止まる炎のフェニックスが、まるで同意するかのように小さく鳴く。エレナの赤いローブがランプの光に映え、彼女の鋭い緑色の瞳が、どこか苛立たしげに揺れる。
「正直、ルークって足手まとい以外の何者でもなかったわよね。アルヴィン、なんで今まであんな奴をパーティーに置いてたの？」
その言葉に、戦士のガルドがエールの入ったジョッキをテーブルにドンと置いた。筋骨隆々の巨漢は、短く刈り込んだ髭を指で撫でながら、ぶっきらぼうに言った。
「まぁ、確かに戦力にはならなかったな。だが、荷物運びとしては悪くなかったぜ。あいつのおかげで、俺たちが戦闘に集中できた場面もあった。そこは認めなきゃな、エレナ」
エレナがガルドを睨みつける。
「は？ 荷物運びなんて、適当な召喚獣を雇えば済む話でしょ？ なんで人間がやる必要があるのよ。アルヴィンが甘やかすから、ルークも調子に乗ってたんじゃないの？」
「甘やかす？」
アルヴィンが静かに口を挟んだ。声は穏やかだが、そこには普段の彼にはない、ほのかな鋭さが混じっていた。エレナの視線が一瞬、怯んだように揺れる。
「エレナ、ルークはパーティーの一員だった。彼を甘やかしていたつもりはないよ。必要な役割を果たしてくれていた」
エレナの頬が、わずかに紅潮する。彼女はフェニックスの羽を指で弄びながら、声を低くした。
「必要な役割？ アルヴィン、冗談でしょ。あいつ、召喚術も使えない、ただの落ちこぼれよ。なのに、いつもあなたが優しく話しかけて、まるで大事な仲間みたいに扱って……それが、なんか、ムカつくのよ」
その言葉に、ガルドが小さく吹き出した。
「おっと、エレナ、嫉妬か？ 勇者様がルークに優しいのが気に食わないってか？」
彼は豪快に笑い、エールを一口飲む。
「まぁ、確かにアルヴィンはあいつに妙に気を遣ってた気はするな。なんでだ？ ただの荷物持ちに、そこまでする理由が何かあるのか？」
アルヴィンは一瞬、黙り込んだ。ジョッキを手に持ったまま、ゆっくりとそれをテーブルに置く。彼の視線は、どこか遠くを見るように揺れていた。やがて、静かな声で話し始めた。
「……ルークには、昔、俺が助けられたことがあるんだ」
エレナとガルドが、同時にアルヴィンを見た。エレナの眉がわずかに上がり、ガルドは興味深そうに身を乗り出す。
「助けられた？」
エレナが疑わしげに言う。
「あのルークに？ どういうこと？」
アルヴィンは小さく息をつき、過去を振り返るように語り始めた。
「俺がまだ勇者に選ばれる前、ただの冒険者見習いだった頃だ。ある日、魔物の群れに襲われて、死にそうになった。仲間は皆逃げ出し、俺一人でどうしようもなかった時……ルークが現れたんだ」
「ルークが？」
ガルドが驚いたように目を丸くする。
「あの気弱な奴が、魔物と戦ったってのか？」
「戦った、というより……彼は自分の魔法で時間を稼いでくれた。火の魔法で魔物を牽制し、風の魔法で俺を逃がす隙を作ってくれた。あの時、ルークは自分の命を危険に晒してまで、俺を助けてくれたんだ」アルヴィンの声には、どこか温かみが宿っていた。
「あの後、彼は『魔王を倒したい』と言った。召喚術の才能がないのに、大きな志を持っていた。それが、俺が彼をパーティーに誘った理由だ」
エレナが唇を噛む。彼女の指が、フェニックスの羽を強く握りしめる。
「……それだけで？ 昔の恩だけで、あんな無能をパーティーに置いてたの？ アルヴィン、魔王討伐はそんな甘いものじゃないわよ。あなたが優しすぎるから、ルークもつけあがってたんじゃない！」
「つけあがる？」
アルヴィンの声が、わずかに厳しくなる。
「エレナ、ルークは決してそんな人間じゃない。彼はいつも自分の役割を懸命に果たそうとしていた。確かに、彼の魔法は戦闘では役に立たなかったかもしれない。でも、彼の努力や志は、俺にとって価値あるものだった」
エレナは言葉に詰まり、顔をそむける。フェニックスが小さく鳴き、彼女の肩に寄り添う。ガルドはそんな二人を見ながら、肩をすくめた。
「まぁ、過去の話はどうでもいいさ」ガルドがジョッキを手に持ち、軽い口調で言う。
「ルークはもういない。これから魔王戦が本格化するんだ。新しい荷物持ちを雇うか、召喚獣で代用するか、さっさと決めようぜ。アルヴィン、いつまでもルークのこと引きずってても仕方ねえだろ」
アルヴィンは小さく頷いたが、その目にはまだ、ルークの姿が焼き付いているようだった。
「……そうだな。次のクエストの準備を進めよう。エレナ、ガルド、頼むよ」
エレナは不満げに髪をかき上げ、「わかったわよ」と吐き捨てるように言った。ガルドは「よし、じゃあもう一軒行くか！」と笑い、ジョッキを掲げる。
酒場の喧騒が再び彼らを包み込む中、アルヴィンの心には、ルークの気弱な笑顔と、かつての恩が静かに残っていた。だが、勇者としての使命が、彼を前へと突き動かす。ルークのいないパーティーは、新たな一歩を踏み出そうとしていた。
