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レベル25

 アルフレッドたちがゼイドーアン王国の王都セルゼリッカに拠点を移してしばらくの時が経過した。これまでの冒険を通じて、彼らの実力は確実に向上し、パーティのレベルは確実に上がっていた。もはや初級冒険者ではなく、中堅の域に差し掛かっている。


「さて、ここからが本番だな」


 バルトが腕を組み、ギルドの掲示板を見上げる。


 王都セルゼリッカにある 冒険者ギルド「銀狼の牙」 は、この地域で最も規模の大きいギルドの一つだ。仕事の依頼は多岐にわたり、単なるモンスター討伐から、王宮や貴族からの特別任務まで、幅広い案件が寄せられている。


 ギルドのカウンターに立つと、受付の女性がアルフレッドたちに微笑みかけた。


「お待ちしていました、アルフレッド様のパーティですね? 過日の、マリネリージ王国での活躍がこちらにも伝わっております。王冠の探索、そしてセイセス=セイセスとの戦い……大変な任務でしたね」


「そのことがもう広まってるのか」


 セレナが驚いたように呟く。


 受付嬢は微笑みを崩さず、テーブルの上にいくつかの依頼書を並べた。


「セルゼリッカでも、皆さんほどの実力者を求める声は多いです。ちょうど中級以上の冒険者向けの案件が出ていますので、ぜひご検討を」


 アルフレッドはざっと目を通し、仲間たちと相談する。


選択可能な依頼


「古代遺跡《黎明の塔》の探索」

内容: かつて栄えた魔法王国の遺跡を調査する任務。内部には未発見の魔導具が眠っているとされる。

報酬: 金貨300枚+発見した魔導具の一部持ち帰り可。

難易度: 中〜上級


「黒狼団の盗賊討伐」

内容: 近隣の交易路を荒らしている盗賊団「黒狼団」を討伐する。

報酬: 一人につき金貨200枚+戦利品の一部。

難易度: 中級


「邪竜の影」

内容: 北の山岳地帯で巨大なドラゴンの影が目撃され、村が壊滅したという報告がある。討伐、もしくは調査が必要。

報酬: 金貨500枚+ギルドからの推薦状。

難易度: 上級


「どれも骨のある依頼ばかりだな……」


 バルトが腕を組んで唸る。


「《黎明の塔》の探索は、古代魔導文明に関する手がかりが見つかるかもしれないわね」


 ミリアが興味深げに呟く。


「盗賊討伐も悪くないけど、今の俺たちならもっと大きな挑戦ができるはずだ」


 アルフレッドが依頼書をじっと見つめ、考えを巡らせる。


 クレアが静かに呟いた。


「邪竜の影……ドラゴンが本当に現れたのなら、ただの目撃情報では済まされないかも」


「どれを選ぶにせよ、しっかり準備しないとな」


 セレナが剣の柄を握りながら言う。


 こうして、新たな王国での冒険が幕を開けた。


 アルフレッドたちはどの依頼を選び、新たな戦いへと足を踏み入れるのか――。



 改めて依頼書を確認し、アルフレッドたちはゼイドーアン王国の冒険者ギルド「銀狼の牙」で、最も難易度の高い依頼「邪竜の影」を引き受けることに決めた。


「ドラゴンの影が目撃された、という報告だけじゃはっきりしないな」


 バルトが依頼書を見ながら呟く。


「実際にドラゴンがいるのか、それとも別の強大な魔物なのか……調査する必要がありそうね」


 ミリアが慎重な表情を浮かべる。


「まずは詳細を聞こう」


 アルフレッドが受付嬢に視線を向けると、彼女は書類を手にしながら説明を始めた。


「この依頼は北の山岳地帯《ダルグリス山脈》 からの緊急要請です。ここ数週間、山間の村々が何者かに襲われ、数カ所が壊滅しました。生き残った村人の話によると、空に巨大な影が舞い、灼熱の炎が降り注いだとのこと」


「灼熱の炎……となると、ただの大型飛行魔獣じゃなく、竜種の可能性が高いな」


 セレナが低く呟く。


「はい。そのため、王国軍の偵察隊も派遣されましたが、未だに実態は掴めていません。ただ、一つ確実なのは《ダルグリス山脈》の奥地に異常な魔力が発生していることです」


 クレアが眉をひそめる。「異常な魔力……何か封印が解かれたとか?」


「それを確かめるのも、皆さんの仕事になります。報酬は金貨500枚と王国からの推薦状。万が一、本当にドラゴンが生存している場合は、その討伐が最優先となります」


 アルフレッドは剣の柄を握りながら静かに頷いた。


「分かった。装備を整えたら、すぐに出発しよう」



 翌日、一行は準備を整え、ダルグリス山脈へと向かった。王都セルゼリッカから北へ三日間、険しい山岳地帯を進むことになる。


 道中、山の斜面にはかつての村の焼け跡が残されていた。家屋は崩れ、焦げた柱が無惨に転がる。


「ひどいな……」


 バルトが歯を食いしばる。


「確かに、炎の魔法ではなく、何か巨大なものが空から吐いたブレスによるものね」


 ミリアが焼け焦げた地面を調べながら呟く。


「それにしても……この静けさはおかしいわ」


 セレナが周囲を見渡しながら警戒する。


 村の周囲には野生動物の気配すらなく、不気味なほど静まり返っていた。


「何かがこの土地を支配している」


 クレアが震える声で呟く。


「奴がまだこの付近にいるのかもしれないな……」


 アルフレッドが剣を構えた瞬間、空から轟音が響いた。


 ――ゴォォォォォォ……!


「来るぞ!!」


 一行が身構えた直後、黒い影が雲の中から舞い降りた――。


 霧のかかった山岳の空を裂くように、巨大な黒き翼が広がった。


 その姿は紛れもないドラゴン。漆黒の鱗を持ち、赤黒く光る瞳が獲物を見定めるかのように一行を睨みつけた。


「ドラゴン……いや、ただの竜じゃない……!」


 ミリアが魔力の波動を探る。


「邪悪な力を感じる。こいつ、普通のドラゴンとは違うわ……!」


 クレアが息を呑む。


「……我を呼び覚ましたのは貴様らか?」


 低く響く声が、直接頭に響いてくる。


「喋った……!」


 バルトが驚きの声を上げる。


「お前は何者だ?」


 アルフレッドが剣を構えながら問いかけると、ドラゴンはゆっくりと口を開いた。


「我が名は《邪竜ヴォルグリス》。かつてこの地を焼き尽くした災厄の王よ。そして今、再び目覚めた――この世界を闇へと導くためにな」


 次の瞬間、ヴォルグリスの喉元が紅く輝いた。


「来るぞ!!」


 轟音と共に、灼熱のブレスが放たれる――!


「散開しろ!」


 アルフレッドの指示と共に、一行は左右に飛び散った。


 ヴォルグリスのブレスは、かつて村があった場所に直撃し、地面ごと抉り取る爆発を引き起こす。


「とんでもない威力ね……! まともに食らったら消し炭よ!」


 セレナが焦りながら剣を握る。


「迎え撃つしかない!」


 バルトが戦斧を振りかざし、ヴォルグリスの足元へと駆け込んだ。


 しかし――。


「バルト、下がって!」


 ミリアが叫ぶ。


 ヴォルグリスの鋭い尻尾が横薙ぎに薙ぎ払われる!


「ぐっ……!」


 バルトは間一髪で盾を構えたが、吹き飛ばされる。


「バルト! すぐに回復する!」


 クレアが急いで回復魔法を展開する。


「落ち着け……弱点を探るぞ!」


 アルフレッドがヴォルグリスの動きを見極める。


 ヴォルグリスは上空へと舞い上がり、爪を鋭く光らせながら降下してきた。


「迎撃する!」


 セレナが剣を構え、ミリアが魔法を詠唱する。


「氷結せよ、アイスランス!」


 空中に無数の氷槍が生まれ、ヴォルグリスへと突き刺さる――!


 ヴォルグリスは絶叫の咆哮を上げた。


 氷の魔法に反応し、ヴォルグリスの翼が凍り始める。


「氷が効くのね……!」


 クレアが神聖魔法と氷の魔法を組み合わせて攻撃を準備する。


「なら、一気に決める!」


 アルフレッドが剣に魔力を込める。


「聖剣の一閃――!!」


 閃光の如き斬撃が、ヴォルグリスの胸元へと放たれる――!



 アルフレッドの聖剣の斬撃が、ヴォルグリスの胸元を深く切り裂いた。


 氷の魔法が絡みつく傷口から黒い瘴気が吹き出し、邪竜は苦しげな咆哮を上げた。


「グ……グォォォォォ……!!」


 ヴォルグリスの巨体が揺らぎ、地面に向かって墜落する。


 その衝撃で大地が震え、辺りの岩が崩れ落ちた。


「やったのか……?」


 バルトが息を切らしながら斧を構え直す。


 ヴォルグリスの体は徐々に崩れ始め、闇の瘴気が霧散していく。


 まるで存在そのものが世界に拒まれているかのようだった。


「ヴォルグリス……」


 クレアが静かに呟く。


 その目の前で、邪竜の体は完全に崩れ去り、闇の残滓だけが宙を漂った。


「……消えた?」


 セレナが警戒しながら周囲を見渡す。


 だが、アルフレッドは剣を納めず、辺りに漂う闇の霧を睨み続けていた。


「いや……これはただの竜じゃなかった。ヴォルグリスは……"何かに呼び覚まされた" んだ」


 その言葉に、仲間たちも改めて気を引き締める。


 ミリアが魔力の感知を試み、目を細めた。「この闇の波動……まだ消えきってない。誰かがこの邪竜を目覚めさせたのよ」


「となると、真の黒幕がいるってことか」


 バルトが険しい表情で呟く。


「ええ。それも、ヴォルグリスを単なる駒のように利用できるほどの強大な存在が」


 ミリアの言葉が、一行の胸に重くのしかかる。


 邪竜ヴォルグリスを倒した。しかし、これは終わりではなかった。



 ヴォルグリスの体が闇の霧と化し、消え去ると同時に、山全体が大きく揺れ始めた。


「地震か?!」


 バルトが驚きの声を上げた。


「いや、これは……遺跡が崩れようとしている!」


 ミリアが周囲の魔力の乱れを察知し、叫ぶ。


 アルフレッドが振り向くと、来た道の入り口が大きく崩落し、巨大な岩が転がり落ちて道を塞いでいた。


「まずい、退路が完全に塞がれた……!」


 セレナが舌打ちする。


「戻れないなら、前へ進むしかないわ」


 クレアが聖印を握りしめ、奥へと続く道を指差した。


 アルフレッドは決断した。「……行こう。奥へ進むんだ!」


 一行は崩れゆく山の中、唯一残された細い道を辿り、奥深くへと進んでいった。


 数十分ほど走り続けると、ようやく地震が落ち着き、周囲が静寂に包まれた。


「ここは……」


 一行が辿り着いたのは、巨大な洞窟だった。天井には奇妙な紋様が刻まれており、壁面には古い碑文が彫られている。


「これは……古代語ね」


 ミリアが指で文字をなぞりながら、内容を確認する。


「読めるのか?」


 バルトが尋ねると、ミリアは真剣な顔で頷いた。


「……『封じられし影の主、ここに眠る』」


 その言葉に、アルフレッドは眉をひそめる。


「ヴォルグリスを目覚めさせた者と関係があるのか……?」


「おそらくね。この洞窟は、ヴォルグリスと何かしら関係している場所よ。もしかすると、封印されていたのはヴォルグリスだけじゃないかもしれない」


 ミリアの言葉に、全員が緊張した空気に包まれる。


「影の主……つまり、こいつがヴォルグリスを操った黒幕か?」


 バルトが斧を構える。


「この洞窟を調べれば、何かわかるはずよ」


 セレナが慎重に周囲を見渡しながら言う。


 クレアは天井の紋様を見上げながら呟いた。「この文様……何かの儀式に関係しているのかも」


「なら、この場所にはまだ何かが眠っている可能性があるな」


 アルフレッドが剣を抜き、先へ進む決意を固めた。


「気をつけて。この奥には……何かがいるわ」


 ミリアが魔力の感知をし、警戒を強める。


 こうして、一行はさらなる闇の謎を追うため、封じられた洞窟の奥へと進んでいく――。



 アルフレッドたちは慎重に洞窟の奥へと進んでいった。湿った空気の中に、かすかに鉄の匂いと焦げたような異臭が混じっている。壁面には無数の古代文字が刻まれ、地面には砕けた石碑の破片が散乱していた。


「まるで……何かがここを荒らしたような痕跡ね」


 セレナが足元を確認しながらつぶやく。


「戦闘の跡か?」


 バルトが斧を肩に担ぎながら辺りを見回す。


「それにしては奇妙ね……人が争ったというより、内部から力が爆発したような痕跡があるわ」


 ミリアが石壁を指でなぞると、そこには焼け焦げたような黒い跡が広がっていた。


「ただの崩壊じゃない……何かがこの封印を破ったんだ」


 アルフレッドが剣を抜き、慎重に進むよう仲間に指示する。


 洞窟の奥へ進むにつれ、空間は次第に広がり、やがて巨大な祭壇のある広間へとたどり着いた。


 広間の中心には、割れた石柱が残っており、その周囲には封印の魔法陣がかすかに光を放っていた。


「見て、これは……」


 クレアが震える声で指差した先に、巨大な黒い紋章が床に刻まれていた。


「これは……封印魔法の痕跡?」


 ミリアが膝をつき、古代文字を慎重に読み取る。


「何て書いてある?」


 アルフレッドが覗き込むと、ミリアが小さく息をのんだ。


「『影の竜、ヴォルグリス……その封印、解かれる時、主は還る』」


「主……?」


 バルトが怪訝な顔をする。


「ヴォルグリスを目覚めさせたのは、偶然じゃなかったのね」


 セレナが剣の柄を握りしめる。


「つまり、ヴォルグリスを解放したのは、まだこの影の奥に潜んでいる『主』の仕業か」


 アルフレッドの声が低くなる。


「私たちが倒したヴォルグリスは、単なる先触れに過ぎなかった可能性が高いわ」


 ミリアが真剣な眼差しで続ける。


「なら、そいつがどこにいるのか、ここで探らないといけないな」


 バルトが斧を構え、周囲を警戒する。


 その時だった。


「……ククク、よくここまで辿り着いたな」


 低く響く声が洞窟内に反響する。広間の奥、闇の中からゆっくりと人影が浮かび上がった。


「誰だ!」


 アルフレッドが剣を構え、鋭い眼差しを向ける。


「我が名はレックス……レックス・ドリスコル……闇の探究者。そして、この遺跡の秘密を知る者だ」


 黒いローブを纏った男が、不敵な笑みを浮かべながら姿を現した。その手には、不気味な黒い魔道書が握られている。


「貴様がヴォルグリスを目覚めさせたのか!」


 セレナがすぐさま抜刀する。


「その通り。だが、ヴォルグリスはただの試験に過ぎない。私はもっと大きな計画のために、この地に来たのだよ」


 ドリスコルが手を掲げると、祭壇の影がゆらめき、そこから異形の魔物たちが次々と出現した。


「影の使徒か……!」


 ミリアが驚愕の表情を浮かべる。


「フフフ……私がこの場で倒れると思うか? せっかくの機会だ、貴様らにも絶望を味わわせてやろう!」


 ドリスコルが呪文を唱えると、影の魔物たちが咆哮を上げ、一斉に襲いかかってきた。


「迎え撃つぞ!」


 アルフレッドが叫び、戦闘が始まった――!



 影の魔物は三体。どれも黒い霧のような体を持ち、鋭い爪と伸縮する触腕を操る異形だった。


「バルト、前衛を頼む!」


 アルフレッドが命じる。


「任せろ!」


 バルトが戦斧を振るい、一直線に迫る影の魔物へと突っ込む。


 斧が振り下ろされると同時に、影の魔物が瞬時に霧となり、バルトの攻撃をかわす。


「なっ……こいつ、物理攻撃をすり抜けやがる!」


「なら、魔法で!」


 ミリアが手を翳し、詠唱を開始する。


「聖なる光よ、闇を焼き払え――《ルミナス・レイ》!」


 光の矢が影の魔物へと放たれ、一体が悲鳴を上げながら後退した。


「効いてる……!」


「なら、こっちも!」


 クレアが祈りを捧げ、聖なる輝きを放つ。


「《ディバイン・バースト》!」


 爆発する光の魔力が周囲を包み込み、影の魔物たちを後退させる。


「魔法が有効か……なら、俺の斬撃も通るはずだ!」


 アルフレッドが剣を構え、魔力を込める。


「《聖焔斬》!」


 聖なる炎を纏った剣が、一体の影の魔物を斬り裂き、闇の霧が弾け飛ぶ。


「やったか?」


 セレナが剣を抜いたまま身構える。


 しかし、残った影の魔物がより禍々しいオーラを纏い始める。


「こいつ……まだ動く!」


「ドリスコル……何を企んでいる!」


 アルフレッドがドリスコルへと剣を向ける。


「フフフ、これはまだ序章に過ぎん。だが、そろそろ潮時か……また会おう、勇敢なる冒険者どもよ」


 ドリスコルが手をかざすと、彼の体が影の霧に溶けるように消え去っていった。


「逃げたか……!」


 バルトが悔しそうに斧を握る。


「……けれど、これでハッキリしたわね」


 ミリアが冷静な声で言う。


「ヴォルグリスを目覚めさせた黒幕は、やはりドリスコル。そして、彼はまだ計画の一端を進めている」


「何としても止めないと……次に動く前に」


 アルフレッドは剣を収め、仲間を見渡した。


「まずはこの洞窟を出よう」


 一行は、再び光を求めて暗き洞窟を進み始めた――。



 ドリスコルが影の霧に溶けるように姿を消し、遺跡には静寂が戻った。だが、その場に残された影の使徒の魔力の残滓が、未だ周囲に不穏な気配を漂わせていた。


「まさか、こんな形で敵の幹部と遭遇するとはな……」


 バルトが肩で息をしながら斧を地面に突き立てる。


「ヴォルグリスを目覚めさせたのがドリスコルなら、奴の目的はまだ達成されていないはず。今後も動きを追わなきゃならないわね」


 ミリアが手にした魔道書を閉じ、冷静な表情で言った。


「ドリスコルが言ってた '試験' って言葉が気になるわ」


 セレナが剣を鞘に収めながら、台座に残る魔力の痕跡を観察する。


「ヴォルグリスの復活は、何かの予兆……」


 クレアが神聖な光を手元に灯し、魔力の残滓を浄化するように祈りを捧げる。


 アルフレッドは一歩前に出て、仲間たちを見渡した。


「一度拠点に戻って整理しよう。この遺跡で得た情報を冒険者ギルドに報告して、次の行動を考える必要がある」


 全員が頷き、さらに遺跡の奥地へと進んでいく。


 だが、そこには思わぬ困難が待ち受けていた。


「道が……塞がれてる」


 バルトが声を上げた。道が大量の崩落した岩で完全に塞がれていたのだ。


「ドリスコルの仕業か、それとも……」


 ミリアが眉をひそめる。


「ドリスコルは撤退するときにこの魔法は使ってなかったはずよ。おそらくこれは……遺跡そのものの罠」


 セレナが岩肌を調べながら言う。


「迂回路を探すしかないな」


 アルフレッドが洞窟の奥へと視線を向ける。


「……あっちの方、風を感じる」


 クレアが指差した方向には、細い通路が続いていた。


「行ってみよう。どこかに外へ出られる抜け道があるはずだ」


 アルフレッドの声を合図に、パーティは未知の道へと足を踏み入れた。


 薄暗い通路を進むにつれ、周囲の雰囲気が変わっていった。天井が高くなり、壁には奇妙な模様が浮かび上がっている。


「……この模様、古代王国の紋章じゃない?」


 ミリアが手をかざしながら言う。


「確かに……でも、ただの紋章じゃない。これは封印魔法の一部だ」


 クレアが額に汗を浮かべながら、微かな魔力の流れを感じ取る。


「もしかして、ここに何か封じられていたのか?」


 バルトが周囲を警戒しながら言った。


「それだけじゃない……この魔力、何かの痕跡を残している」


 アルフレッドが床の裂け目に手を伸ばし、小さな黒い結晶を拾い上げた。


「これ……魔族の魔力?」


 ミリアが険しい表情になる。


「やっぱり、ドリスコルは単なる魔導士じゃないわね。これは……魔族の遺物よ」


「奴がヴォルグリスを操っていたとしても、それだけじゃない。ドリスコルの背後には、さらに強大な存在がいる……」


 アルフレッドが拳を握りしめる。


「とにかく、ここから脱出するのが先決ね。考えるのはそれから」


 セレナがそう言い、先へと進む。


 やがて、細い通路を抜けた先には、山の奥へと続く道が開けていた。


「ふぅ……なんとか脱出できたわね」


 クレアがほっと息をついた。


「いや、まだ安心するのは早いぞ」


 バルトが険しい表情で指差す。


 目の前には、巨大な黒い爪の痕が岩肌に深々と刻まれていた。


「これ……ヴォルグリスとは別のもの?」


 ミリアが不安げに呟く。


「間違いない。これは、ドリスコルの '主' に繋がる手掛かりだ」


 アルフレッドが剣を握りしめた。



 アルフレッドたちは、ようやくゼイドーアン王国の王都セルゼリッカへと戻った。


 冒険者ギルドで報告を終えた後、一行はギルドマスターの元へと呼ばれる。


「ヴォルグリスの討伐、お疲れだったな。だが、報告を聞いた限り……これは単なる竜退治ではなかったようだな」


 ギルドマスターの鋭い目が彼らを見つめる。


「ええ、ヴォルグリスを目覚めさせた黒幕は、ドリスコルという魔導士。そして、彼はさらなる何かを企んでいます」


 ミリアが資料を広げながら説明する。


「しかも、ドリスコルの背後には、魔族に繋がる何者かがいる可能性が高い」


 アルフレッドが言葉を継ぐ。


「そうか……となると、我々としても対策を考えねばならんな」


 ギルドマスターが頷く。


「次の手がかりは、ドリスコルの『主』が何者なのか。それを突き止めなければなりません」


 セレナが真剣な表情で言った。


「お前たちはすでにベテランの域に達している。俺たちギルドとしても、君たちの今後の動きを全面的に支援しよう」


 ギルドマスターが信頼の目を向ける。


「ありがとう、ギルドマスター」


 アルフレッドが深く頷く。


「まずは休息を取れ。そして、次なる冒険の準備を整えるんだ」


 ギルドマスターの言葉に頷き、一行は一旦宿へと戻る。


 こうして、邪竜ヴォルグリスとの戦いは幕を閉じた。


 だが、影はまだ深く蠢いている。


 ドリスコルの『主』とは何者なのか?


 ゼイドーアン王国を越えた先に、さらなる危機が待ち受けているのかもしれない。


 彼らの新たな冒険が、再び始まろうとしていた。

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