レベル24
東方に広がるゼイドーアン王国。その中心に位置する王都セルゼリッカは、冒険者たちが集う大都市として名高い。高い城壁に囲まれた街は活気に溢れ、石畳の道には行商人や冒険者が行き交っている。巨大な時計塔が街の象徴として空にそびえ立ち、その下には冒険者ギルドが鎮座していた。
アルフレッド、ミリア、バルト、セレナ、クレアたちは、この新天地で新たな冒険を求め、ギルドの扉を開いた。
冒険者ギルド・セルゼリッカ支部――。
ギルド内は、鍛え上げられた冒険者たちがひしめき合う喧騒の場だった。壁には依頼が貼られた掲示板が並び、テーブルを囲む冒険者たちの笑い声や、武器を研ぐ音が聞こえる。
「ふむ、ここはマリネリージのギルドとは規模が違うな」
バルトが周囲を見回しながら感心したように呟く。
「依頼のレベルも上がっているわね」
ミリアが掲示板に目を向けると、張り出された依頼はどれも高難易度のものばかりだ。「魔獣討伐、盗賊団の壊滅、大規模な遺跡調査……初級者向けの依頼は、ほとんどないみたい」
「私たちもそれなりに戦ってきたし、もう初級は卒業よ」
セレナが軽く肩をすくめる。「中級以上の仕事が待ってるってことね」
「ここで結果を出せば、この国での名声も高まるだろう」
アルフレッドが真剣な表情で言う。「まずは受付で話を聞いてみよう」
一行が受付に向かうと、若い女性の受付嬢が微笑みで迎えてくれた。彼女は冒険者らしさが漂う一行を一目見て、その実力を見抜いたようだった。
「いらっしゃいませ、冒険者ギルド・セルゼリッカ支部へようこそ。初めてのお越しですね?」
「そうだ。俺たちはマリネリージ王国から来た冒険者だ」
アルフレッドが答える。「新しい依頼を受ける前に、こちらの規則や推薦状が必要かを確認したい」
「そうでしたか。では、簡単に説明させていただきます」
受付嬢は丁寧に案内を始めた。「このギルドでは、冒険者のレベルや実績に応じて依頼を割り振ります。皆さんのように他国での実績を持つ方々には、中級から上級の依頼を優先的にご案内します」
「ありがたいな。それで、今お勧めの依頼は?」
バルトが身を乗り出して尋ねる。
受付嬢は微笑みながら、手元の記録を確認した。「現在、特に注目されているのは、王都近郊にある『黒炎の洞窟』の調査依頼です」
「黒炎の洞窟?」
クレアが首をかしげる。「聞いたことがありませんが、どのような場所なのでしょう?」
「古代の遺跡が眠る洞窟で、最近になって活発な魔力の流れが確認されました。洞窟の奥からは、黒い炎が燃え上がる異常現象が報告されています」
受付嬢が説明を続ける。「さらに、洞窟の周辺では、正体不明の魔物の目撃情報も増えているのです」
「それだけでも危険だが……遺跡が絡むなら興味深い」
ミリアが鋭い眼差しで言う。「古代の魔法やアイテムが残されている可能性が高いわ」
「その通りです」
受付嬢が頷く。「ただし、この洞窟には過去に挑んだ冒険者たちが多くいますが、未だ全貌を解明した者はいません。それほど危険な場所であることをお忘れなく」
「いいだろう」
アルフレッドが力強く頷いた。「その依頼を受けよう。俺たちにとっても、新たな挑戦になる」
「ありがとうございます。それでは詳細な地図と、調査に必要な装備を手配させていただきます」
受付嬢は微笑みながら書類を一行に渡した。
ギルドを後にした一行は、早速王都での買い出しを始めた。黒炎の洞窟は魔力の影響で温度が高く、内部には火炎属性の魔物が多く棲息しているとされる。そのため、火炎耐性の装備や冷却ポーションが必要不可欠だった。
「この盾、耐熱加工がされてるらしい。バルト、これ使えるんじゃないか?」
セレナが露店の盾を手に取る。
「おお、いいな! 火炎攻撃なんざ怖くないぜ」
バルトが笑いながら受け取る。
「私は冷却の魔法をさらに強化できる杖を探してみるわ」
ミリアが品定めを始める。
「このポーション、火傷を治す効果もあるみたい。いざという時のために持っておきましょう」
クレアが小瓶を手に取りながら言う。
準備を整えた一行は、夕焼けに染まる王都の外門を抜け、黒炎の洞窟へと向かって歩き始めた。その背には、希望と覚悟が背負われていた。
「いよいよ始まるな」
アルフレッドが夕陽を見上げながら呟いた。「次の試練がどんなものでも、乗り越えてみせるぞ」
「もちろんよ。これまでだってそうしてきたじゃない」
セレナが軽く微笑む。
「よし、さっさと終わらせて、また祝杯をあげようぜ!」
バルトが意気込む。
新たな地、ゼイドーアン王国。彼らを待ち受ける未知の冒険と、黒炎の洞窟の謎が、今まさに彼らを誘っていた。
王都セルゼリッカを出発したアルフレッドたちは、広がる平原と丘陵を越えながら北東に位置する「黒炎の洞窟」を目指していた。地図によると、洞窟は「灰の山脈」の奥地に位置し、近づくほどに火山性の地形が顕著になると記されている。
道中、草原を抜けて徐々に岩肌が露出する荒涼とした風景へと変化する中、一行は警戒を怠らなかった。冒険者としての経験上、こういった地形では予期せぬ魔物や罠が潜んでいる可能性が高いからだ。
「空気がどんどん熱くなってきたわね……」
ミリアが額の汗をぬぐいながら言った。
「火山地帯に入ったんだろうな。見ろよ、あの岩肌。焼けたように赤茶色だ」
バルトが前方を指さしながら答えた。
「それだけじゃない」
セレナが鋭い目つきで周囲を見渡す。「あの霧のようなもの……普通じゃないわ。魔力を感じる」
一行が視線を送ると、遠くにうっすらと紫がかった霧が地面を覆うように漂っていた。その霧からは、微かに耳鳴りのような音が聞こえてくる。
「闇の魔術か……? まさかここにもセイセス=セイセスが?」
アルフレッドが剣の柄に手をかけ、険しい表情で言った。「黒炎の洞窟の異常と結びついている可能性が高い」
「そうと決まったわけじゃないけど……気には留めておきましょう」
ミリアが言った。
「気を引き締めていきましょう。もし霧に触れれば、魔力を吸い取られる危険があります」
クレアが冷静に警告を発する。
一行が慎重に進む中、突然霧の中から黒い影が浮かび上がった。人の背丈を超える巨大なトカゲのような魔物で、体からは炎のような赤い光が漏れ出している。その目は不気味に輝き、低い唸り声をあげて一行を威嚇してきた。
「来たか……バルト、前衛を頼む!」
アルフレッドが素早く指示を出す。
「任せろ!」
バルトは戦斧を構え、勢いよく前へ出た。「来いよ、このトカゲ野郎!」
魔物は火炎を吐き出しながら突進してきたが、バルトは盾で炎を防御し、斧を振りかざして魔物の頭部を撃砕した。さらにセレナが側面から剣で切り込む。
「アルフレッド、もう一体いるわ!」
ミリアが警告を発する。霧の中から二体目の魔物が現れ、一行を挟み込むように動き出した。
「ミリア、後方支援を頼む!」
アルフレッドが剣を抜きながら応戦する。
「行くわよ、氷の槍!」
ミリアが詠唱を終え、手から放たれた氷の槍が魔物の頭部に命中する。一瞬怯んだ魔物に対し、アルフレッドが鋭い一閃を放った。
「クレア、バルトの援護を頼む!」
アルフレッドが叫ぶと、クレアは素早く祈りを捧げ、回復の光をバルトに送り込んだ。
「助かるぜ、これでまだまだ戦える!」
バルトは笑いながら再び斧を振り下ろし、一撃で魔物を叩き伏せた。
魔物たちを倒した一行がさらに進んでいくと、目的地である黒炎の洞窟の入口が姿を現した。洞窟の外壁には焦げたような黒い跡が残り、入口からは不気味な熱気と低い唸り声のような音が漏れ出している。
「ここが黒炎の洞窟……異常な魔力の流れを感じるわ」
ミリアが険しい顔つきで言った。
「ここから先が本番だな」
アルフレッドが剣を確認しながら仲間たちに視線を送る。「気を緩めるな」
「了解。燃える展開ってやつだな!」
バルトが気合いを入れるように斧を構えた。
「中にはもしかするとセイセス=セイセスの連中がいるかもしれない。それでなくとも闇の魔術が待ち受けているかも。準備はいい?」
セレナが確認すると、全員が頷いた。
「行こう。この洞窟の奥に、何が待っているにせよ、まずは進まなければ始まらん」
アルフレッドが決意を込めて言うと、一行は黒炎の洞窟の闇へと足を踏み入れた。
洞窟内は異常な熱気に包まれており、壁や天井には黒く焦げた跡が広がっている。奥からは不気味なうなり声と、時折聞こえる低い爆発音が響いてきた。一行は緊張感を高めながら、慎重に進んでいく。一行は冷却ポーションを使いながら前進していった。
「まずはこの異常な現象の原因を突き止めるのが先決ね」
ミリアが呟くように言った。
「セイセス=セイセスが絡んでいるなら、そう簡単には進めないだろうが……」
アルフレッドは自然と剣の柄に手がかかる。
こうして、新たな冒険が幕を開けた。黒炎の洞窟の奥深くで、彼らを待ち受ける真実と試練が、再び一行を試すのだった。
洞窟の中は、異様な熱気とともに、まるで生きているかのような脈動が感じられた。天井に走る亀裂からは時折、赤く燃える溶岩が滴り落ち、地面には古い足跡らしきものが薄っすらと残されている。
「この足跡……何者かがすでに中にいる可能性が高いわね」
セレナが慎重に足元を見つめながら言った。
「それだけじゃない」
ミリアが壁に刻まれた古い文字を見つけ、指を滑らせながら呟いた。「古代語で『力を試す者よ、炎の試練を超えよ』とあるわ。どうやら古の試練の仕掛けが、この先にあるみたい」
「ふむ、挑戦してほしいってわけだ。いいだろう、どんな試練でも受けて立つ!」
バルトが豪快に笑いながら戦斧を肩に担いだ。
「油断するなよ、バルト。試練とはいえ、命を落とす危険もある」
アルフレッドが冷静に警告を発する。
「まずはこの先を調べてみましょう」
クレアが聖印を手に祈りを捧げ、光を灯して周囲を照らした。「魔力の流れが強くなってる。きっと試練の間が近いわ」
一行が進むと、やがて広大な空間に出た。そこには巨大な炉のような構造物があり、赤々と燃え盛る炎の壁が行く手を阻んでいた。壁には四つの燭台が並んでおり、それぞれが異なる色の炎を灯している。
「これが試練の間ね……どうやら、この燭台に関係する謎を解かないと先へ進めないみたい」
ミリアが燭台に近づきながら分析を始めた。
「だが、炎の壁に触れたらただじゃ済まないだろうな」
アルフレッドが慎重に周囲を見渡した。「ミリア、何か仕掛けに気づいたか?」
「燭台にはそれぞれ、古代語の詩が刻まれているわ」
ミリアが指差しながら説明する。「『赤きは命を照らす太陽』『青きは静寂を宿す海』『緑は命を包む大地』『白は星明りの導き』……四つの炎の順番を正しく合わせないといけないみたい」
「順番を間違えたら、壁がさらに熱くなりそうだな」
セレナが鋭い目つきで言った。「慎重に考えないと」
「よし、一つずつ確認しよう」
アルフレッドが言葉を挟む。「赤は太陽、青は海、緑は大地、白は星明り……ってことは、炎の自然な循環を表しているんじゃないか?」
「確かにそれが理にかなっているわね」
ミリアが同意する。「試してみましょう。まず赤の燭台から順番に点火してみるわ」
一行はそれぞれの位置につき、ミリアの指示で順番に燭台を操作した。炎の色が順番通りに揺らめくたび、壁の燃え盛る勢いが少しずつ弱まっていく。
「うまくいってるみたいだな!」
バルトが笑いながら声を上げた。
最後に白い燭台が正しい順番で点火された瞬間、壁の炎が音を立てて消え、次の部屋への道が開かれた。
アルフレッドたちがそこへ足を踏み入れると、薄暗い空間が彼らを迎えた。石造りの通路は湿気に覆われ、苔が生えた壁には古代文字が無数に刻まれている。どこか不気味な雰囲気を醸し出していた。
「ここは……また何かの試練の間か?」
アルフレッドが剣の柄を握りしめながら呟いた。「この奥に、秘密がが眠っているというのか」
「確かに魔力を感じるわ」
ミリアが壁に触れながら古代文字を読み解く。「この遺跡全体が魔力の力を封印するための装置のようね。ただし、奥に進むには何か試練を乗り越える必要がありそう」
「それにしても、気味が悪いな」
バルトが斧を担ぎながら辺りを見回した。「まるで何かに監視されてるみたいだ」
「油断しないで。罠が仕掛けられてる可能性が高いわ」
セレナが前方に目を凝らしながら歩みを進める。
しばらく進むと、一行は広い空間に出た。そこには無数の石柱が立ち並び、中央に古びた鍵のような形をした台座が置かれている。台座の周囲には奇妙な楽器のような装置が並んでいた。
「これは……音に関する仕掛けみたい」
ミリアが装置を調べながら言った。「古代文字によれば、正しい音を奏でないと先には進めない。間違えれば……罠が発動するわ」
「楽器を奏でろってことか」
バルトが興味深そうに装置を見つめる。「俺は不器用だからな、任せるぜ」
「私がやるわ」
セレナが手を上げた。「でも、一人じゃ不安だから、ミリア、文字を解読しながら手伝って」
二人が協力して音の試練に挑むと、遺跡全体が低い音で震え始めた。正しいメロディを奏でると石柱が光り始め、間違えると上から槍が落ちてくる。
「次はここ!急いで!」
ミリアが指差す方向に従い、セレナが慎重に鍵盤のような部分を叩く。
やがて最後の音を奏でると、柱の光が一斉に消え、石の扉が開いた。
「やったわ」
セレナが息をつきながら微笑む。「これで先に進める」
さらに奥へ進むと、狭い回廊の先に小さな部屋が現れた。部屋の中央には、大きな石像が立っている。その目は赤く輝き、一行が近づくと動き出した。
「来たぞ!」
アルフレッドが剣を構えながら叫ぶ。「遺跡の守護者か!」
石像は巨大な腕を振り回し、一行に襲いかかる。その動きは鈍重だが、力強さは圧倒的だった。バルトが戦斧で受け止めようとしたが、衝撃で弾き飛ばされる。
「これ、普通に戦っても勝てる相手じゃないわ!」
クレアが回復魔法を放ちながら叫んだ。
「待って! あの目の光、あそこが弱点かもしれない!」
ミリアが石像の動きを観察しながら叫ぶ。「光が弱まるタイミングを狙えば!」
アルフレッドがタイミングを見計らい、セレナと共に石像の背後に回り込む。そして、ミリアの指示通り目を狙って剣を振り下ろした。
「これで……終わりだ!」
石像の目が砕け散ると、巨体が崩れ落ち、静寂が訪れた。
試練を乗り越えた一行は、ついに最奥へ続く大きな扉の前に立った。扉には紋章が刻まれ、周囲には無数の魔力の流れが見える。
「これが恐らく最終地点だな」
アルフレッドが静かに言った。
「けど、セイセス=セイセスが既に先に進んでいる可能性もあるわ」
ミリアが警戒心を滲ませながら続けた。
「それでも、行くしかない」
セレナが剣を握りしめた。「これ以上、奴らに好き勝手させるわけにはいかない」
クレアが神聖な光を灯しながら微笑む。「私たちなら、きっと乗り越えられるわ」
バルトが斧を担ぎ直し、意気込むように言った。「よし、やってやろうぜ!」
アルフレッドが頷き、扉を押し開けると――そこには、意外な人物が待ち受けていた。闇の魔導士オドラスであった。遺跡の力を掌握しようとするオドラスとの最後の戦いが、今まさに始まろうとしていた。
アルフレッドたちが最奥の間へと足を踏み入れる。荘厳な柱が並ぶ大広間が広がっていた。天井は高く、壁には古代の文字が光るように刻まれている。その中心には、黒いオーラを纏う男が立っていた。
「待っていたぞ冒険者ども。我が名はオドラス。闇の信奉者」
その男、オドラスは不敵な笑みを浮かべたまま、杖を地面に突き立てた。周囲の空気が一変し、重く冷たい闇が一行を包み込む。
「オドラスだと……闇の信奉者?」
アルフレッドが剣を構えながら一歩前に出た。「こんな場所で何を企んでいる?」
「何を企んでいる、だと?」
オドラスがゆっくりと顔を上げる。「この遺跡に隠された真の力――それを手にすることこそ、我が使命。古の魔法を解放し、世界の秩序を変えてやるのだ」
「その力を手にすれば、災厄を招くことになる!」
クレアが神聖な光を手に灯しながら叫ぶ。「やめて、そんなことをすれば……!」
「災厄だと? いいや、私はこの力で混沌を支配し、真の統一を実現するだけだ」
オドラスが冷たく笑い、杖を振り上げた。「だが、貴様らのような愚か者に邪魔をされる筋合いはない。ここで消え失せろ!」
オドラスが魔法の言霊を唱えると、洞窟全体が揺れ始めた。地面には奇妙な模様が赤々と光り、無数の炎が渦巻いて形を成していく。それは、全身が燃え盛る鎧を纏ったかのような巨大な魔物たちだった。
「これが黒炎の力か……!」
アルフレッドが剣を構えながら言った。「油断するな、こいつらは普通の炎じゃない!」
炎の魔物は咆哮を上げ、洞窟全体を焼き尽くすかのような熱波を放った。一行は咄嗟に身を伏せ、熱波をかわす。
炎の魔物が前脚を振り上げ、地面に叩きつけると、周囲の岩壁が崩れ、溶岩が噴き出した。その一体がアルフレッドに向かって突進してくる。
「来い!」
アルフレッドは剣を構え、ギリギリのタイミングで魔物の爪を受け止めた。剣が炎の熱で赤く染まり、アルフレッドの腕にもその熱が伝わってくる。
「アルフレッド! 下がって!」
ミリアが叫びながら詠唱を始めた。「氷の嵐よ、燃え盛る魂を凍てつかせろ!」
彼女の手元から放たれた氷の魔法が、魔物の足元に広がる。炎の魔物が足を滑らせた瞬間、アルフレッドはその隙を見逃さずに剣を振り抜いた。鋼の刃が魔物の鎧のような外殻を切り裂き、赤い炎が青白い霧となって散る。
だが、次の瞬間、さらに三体の魔物が現れ、バルトとセレナの前に立ちはだかった。それぞれの魔物が口から火球を吐き、一行に狙いを定めて放つ。
「こいつら、連携までしてやがるのか!」
バルトが戦斧を構え、迫り来る火球に立ちはだかる。「おりゃあ!」
彼の戦斧が火球を斬り裂き、火の粒が四散する。だが、衝撃でバルトが後退する隙を見て、もう一体が鋭い爪を振りかざす。
「バルト、危ない!」
セレナが素早く駆け寄り、剣で魔物の爪を弾き飛ばした。「集中して、まだ終わりじゃない!」
「助かったぜ、セレナ!」
バルトが笑いながら再び前線に立つ。
一方、クレアは遠巻きから回復と支援を行っていた。彼女は神聖な光を放ち、仲間たちを覆うように光の結界を展開する。
「これで少しは耐えられるはず! 皆さん、気をつけて!」
「数が多すぎる……ここはまとめて決めるしかないわ!」
ミリアが再び詠唱を始める。「皆、私に少しだけ時間をちょうだい!」
アルフレッドとセレナ、バルトは、ミリアが魔法を発動する時間を稼ぐべく前線で魔物たちの攻撃を引き受けた。セレナは鋭い剣さばきで魔物の炎の爪を躱しながら攻撃を繰り出し、バルトは体当たりのような突進を防ぎ続けた。
「さあ、こいつで終わりよ!」
ミリアが詠唱を完了させた瞬間、洞窟内の温度が一気に下がる。「凍てつく大地よ、全てを覆え! 氷河の抱擁!」
巨大な氷柱が地面から次々と生え、炎の魔物たちを飲み込んでいく。轟音が洞窟内に響き渡り、熱波が霧散する。その瞬間、炎の魔物たちの体が次々と凍り付き、砕け散った。
「やったか……?」
アルフレッドが剣を構えたまま警戒を続けた。
洞窟内の熱は消え、再び静けさが戻った。最後に残っていた炎の魔物が氷の中で完全に消滅すると、ミリアが疲れたように膝をついた。
「すごい、ミリア……!」
クレアが駆け寄り、ミリアの肩を支える。
「大丈夫よ。少し魔力を使いすぎただけ」
ミリアが微笑みながら答える。そう言って回復ポーションを飲む。
「余興は気に入ってもらえたかね」オドラスは邪悪な笑みを浮かべている。「だがまだ終わりではない」
オドラスが杖を振ると、大広間全体に暗黒の魔法陣が広がった。床からは影のような魔物が次々と現れ、アルフレッドたちに襲いかかる。
「来るぞ!」
アルフレッドが剣を振りかざし、最初の魔物に斬りかかる。だが、闇の魔物たちは斬られても霧のように姿を変え、再び形を作り直す。
「普通の攻撃じゃ倒せないみたいだ!」
セレナが叫びながら剣を振るも、同じように魔物は霧散しては再び形を取る。
「私に任せて!」ミリアが杖を掲げ、詠唱を始めた。「光よ、闇を焼き払え――ホーリー・バースト!」
眩い光の波が広間を駆け抜け、闇の魔物たちが次々と消滅する。だが、その隙にオドラスが呪文を唱え終え、巨大な黒い火球を作り出していた。
「ミリア、下がれ!」
アルフレッドが叫びながら彼女を庇うように前に出る。火球が放たれ、一行を狙う。
「このままでは――!」
クレアが咄嗟に神聖な盾を展開し、火球を防いだ。だが衝撃で全員が後退する。
「強いな……だが負けられない!」
バルトが戦斧を構え、一直線にオドラスへ向かって突進した。「俺の一撃を食らいやがれ!」
バルトがオドラスに迫るが、彼は冷笑を浮かべながら闇の壁を展開し、バルトの斧を弾き返した。
「一人では突破できない!」
セレナが素早く横から回り込み、オドラスの隙を突いて剣を振るった。だが、彼女の攻撃もオドラスの魔力の障壁に阻まれる。
「やっぱり、彼を直接攻撃するには魔法で障壁を破るしかないみたいね!」
ミリアが言いながら新たな呪文を詠唱し始める。「時間を稼いで!」
アルフレッドとセレナ、バルトが連携し、オドラスの注意を引きつける。一方、クレアは防御と回復を続けながら、仲間たちを支援した。
「いけるわ!準備完了よ!」
ミリアが詠唱を終え、光と炎を融合させた魔法を放った。「サンクチュアリ・ブレイズ!」
輝く炎がオドラスの障壁に命中し、闇の壁が砕け散る。アルフレッドがその隙を逃さず突進し、剣を振り下ろした。
「これで終わりだ!」
彼の剣がオドラスの杖を叩き折り、剣の刃は悪の魔導士に深々と致命傷を与えた。オドラスの黒いオーラが急速に薄れていく。
「くっ……この私が、敗れるだと……?」
オドラスは膝をつき、崩れ落ちた。「だが、私一人が倒れたところで、闇の信奉者は終わらん……」
「もう十分だ、オドラス。これ以上は無駄だ」
アルフレッドが剣を下ろしながら静かに言った。
「貴様らに……未来を託すなど……ありえん……ふふふ……はははは……」
オドラスは最後に邪悪な笑いを残して、力尽きて消滅した。
「やっと……終わったのね」
クレアが疲れたように微笑み、杖を握りしめた。
「これが遺跡の魔法だったか……全ての力を解放される前に阻止できてよかった」
ミリアが周囲を見回しながら言った。
「けど、闇の信奉者とか言っていたな。これが終わりじゃなさそうだ」
セレナが鋭い目で仲間たちを見渡す。
「ああ、だが一歩ずつ進むしかない」
アルフレッドが剣を収め、仲間たちに頷いた。
「まあ、とにかく無事に済んだんだ。もう少し遺跡を探索して帰ろうぜ」
バルトは言って、仲間たちも頷く。
光が差し込む広間で、一行は再び歩き出した。新たな試練と戦いが待つ未来へ向かって――。




