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レベル20

 アルフレッドたちが「忘れられた谷」へと向かう頃、谷を覆う濃い霧の中には既にセイセス=セイセスの気配が漂っていた。王都ナドルヨークから離れたこの辺境は、人跡未踏といっても過言ではない。険しい山岳地帯に挟まれ、谷は一年のほとんどを霧に閉ざされている。そんな場所に、なぜ王冠にまつわる古代の遺跡が存在するのか――。


「ここが『忘れられた谷』か」


 バルトが岩場を見下ろしながら呟いた。谷を見下ろせる崖上に立つ彼らの視界には、青白い霧と、瘴気にも似た不吉な気配が溢れていた。


「気を抜けないわね。またセイセス=セイセスの連中が先回りしてる可能性が高いわ」セレナが剣の柄に手を添え、周囲に神経を集中させる。


 クレアが胸元に聖印を握りしめ、小声で祈りを捧げる。「神よ、この道が正しく、私たちが使命を果たせますように……」


 ミリアは地図と照らし合わせながら、谷へと下りるルートを慎重に探っていた。「この辺りの地形は複雑みたい。下りるには細い獣道を通るしかないわ。足元を滑らせれば、奈落の底よ」


「だが、行くしかない」アルフレッドが決意を固めた声で言う。「王冠の秘密を解き明かし、セイセス=セイセスの計画を阻止する。それが俺たちの役目だ」


 一方、谷の底にある薄暗い密林の中、セイセス=セイセスの一団は既に動き出していた。リーダー格と思しき黒衣の男が仲間に指示を与える。


「王冠は奴らに奪われたが、全てが無駄になったわけではない。『忘れられた谷』の遺跡には、王冠の力を増幅させるための秘法が隠されていると古文書に記されていた。奴らに追いつかれる前に、その秘法を手に入れるのだ」


「承知しました。探索班を増強します」


 部下が低い声で応じ、暗い森の中に魔法生物たちが潜み、道を塞ぐべく配置されていく。


 巨木の下には魔物の気配が宿り、谷全体がセイセス=セイセスの陰謀に飲み込まれようとしているかのようだった。


 アルフレッドたちは慎重に崖を下り、深い森へと足を踏み入れる。足元はぬかるみ、視界は最悪。濃い霧が彼らの五感を鈍らせるが、クレアの聖なる光が微かな道標になる。


「気をつけて、何かがいる……」セレナが耳を澄ませながら、茂みの奥に視線を向けた瞬間、低い唸り声が聞こえた。


「出てきたな」バルトが斧を構えると、闇色の狼のような魔物が現れた。先の廃坑で見たような瘴気に染まった魔物と同類かもしれない。


「早めに片付けて、先に進むわよ」ミリアが冷静な声で言う。


 アルフレッドたちは連携して魔物を撃退し、奥へと進む。次なる試練が必ず待っていると確信しつつ、彼らは決意をもって道なき道を踏破していく。


 霧の彼方、遺跡へ続く道は長く険しい。セイセス=セイセスも、その深部で何かを狙っている。両者の運命が交差する場所で、王冠の秘密が明らかになるのだろうか。


 こうして、「忘れられた谷」を舞台に、二つの力が今再び激突しようとしていた。



 深い霧の中、アルフレッドたちはぬかるんだ地面に足を取られながら、慎重に前へと進んでいた。闇色の狼を倒したものの、谷の中にはまだ数多くの魔物が潜んでいるのだろう。その予感は、周囲の不自然な静寂が物語っていた。


「この霧、明らかに魔法的なものね」ミリアが低く言う。「自然現象じゃないわ。セイセス=セイセスが作り出した障害かもしれない」


 クレアは神聖な光を手元に灯し、なるべく視界を確保しようとした。「少しでも闇の影響を払えればいいんだけれど、この霧、抵抗が強くて浄化しきれないわ」


「焦らず行こう」アルフレッドが皆を励まし、剣を握りしめながら前進する。「どんな罠も、どんな障害も、俺たちが乗り越えられないわけがない」


 セレナが小声でつぶやいた。「でも、気になるのよね。セイセス=セイセスはただ邪魔をしているわけじゃない。遺跡の深部で、王冠に関する何かを手に入れようとしているはず。私たちが来ることを想定して、ここにいる可能性だってあるわ」


 バルトが鼻を鳴らして言う。「あいつら、また俺たちに先を越されて悔しがる顔が見られるといいな。今度は絶対に逃がさん」


 やがて、一行は朽ちた木々の間から、わずかに光が差し込む場所へと出た。そこには古い石柱が立ち並び、根元にはツタや苔が絡みつき、見捨てられた神殿の外郭のようにも見える。


「ここが……遺跡の入り口ね」ミリアが息を整えながら確認する。「さあ、入ってみましょう」


 入り口の先には、ひっそりとした石の廊下が続いている。湿気で滑りやすく、闇が深い。だが、クレアが放つ神聖な光がかすかな導きとなって、彼らを誘うように進ませる。


 進むたびに壁画や彫刻が現れ、そこには王冠を戴く王や、鍛冶師らしき人物が武具を鍛える場面が描かれていた。これらが「真なる王冠」と関わる手がかりになるのかもしれない。


 突然、薄暗い通路の奥で奇妙な音がした。金属がこすれるような不穏な響きに、一行は再び構えを取る。


「来るぞ!」アルフレッドが低く叫ぶ。


 闇の中から複数の人影が姿を見せた。黒装束の彼らは、先ほどの遺跡で幹部を失ったセイセス=セイセスの残党か、それとも新たな刺客か。


「この遺跡の秘宝は我々がいただく。貴様らには、もう退場してもらおうか」


 その中の一人が高らかに宣言すると、仲間たちが剣や杖を構えて一斉に襲いかかってきた。


「望むところだ!」


 バルトが嬉々として斧を構え、セレナが素早く回り込む。ミリアが防御魔法で仲間たちを守り、クレアが回復を準備する。アルフレッドは最前線で刃を交えながら、敵の隙を探していた。


「これが『忘れられた谷』の遺跡……一筋縄ではいかないわね」


 ミリアが息をつく。


 こうして、王冠の秘密を追い求めるアルフレッドたちの冒険は、さらに過酷な戦いへと突入していく。古代の謎、王冠に宿る伝説、そしてセイセス=セイセスとの対決——全てが、この谷の深く沈む遺跡で今交わろうとしている。



 騒然とする遺跡の一室で、アルフレッドたちはセイセス=セイセスの残党との戦いに突入した。闇色のローブを纏った敵たちは、それぞれに異なる武器や魔法を操り、冒険者たちを囲んでくる。


「数が多いわね……でも負けない!」ミリアが魔法を詠唱し、炎の弾丸を放つ。火球は敵の前衛を焼き払うように炸裂し、数体が悲鳴をあげて倒れた。


「やるな、ミリア!」バルトが豪快に笑い、今度は自分が前に出る。戦斧を大きく振り下ろし、敵を一度に何体か吹き飛ばす。「おまえらに王冠の秘密は渡さないぜ!」


 セレナは敵の背後を狙い、素早い動きで闇の呪術師らしき男の背中に剣を叩き込む。「ほら、もうおしまいよ!」致命傷を負った男は短い悲鳴と共に崩れ落ち、黒い霧となって消えていく。


 クレアは回復と防御の魔法を絶えず展開し、仲間たちをサポートする。「皆、怪我はない? 今のうちに治癒の光を!」聖なる力がパーティを包み、疲労を和らげ、傷口を癒やしていく。


「ここまでか……!」最後まで抵抗を試みたセイセス=セイセスの一人が剣を振るうが、アルフレッドがそれを受け止め、反撃の一閃で地に伏せた。


 やがて戦闘が収まると、部屋には冒険者たちと、残骸のように散らばる敵のローブ、そしてかすかな瘴気の残り香だけが漂っていた。再び静寂が訪れ、全員が息を整える。


「どうやら、ここは彼らが王冠の秘密を探ろうとしていた一角のようね」ミリアが周囲を見回しながら言う。「この先にさらに奥がありそう。王冠の鍛冶師にまつわる手がかりがきっとあるわ」


 クレアが穏やかな笑みで言葉を添える。「私たちは勝ったけれど、これで目的が達成されたわけではないわ。彼らは何かを解き放とうとしている。その阻止が私たちの使命ね」


「次に進む前に、周囲をもう少し調べてみよう。罠や手掛かりがあるかもしれない」セレナが床に倒れた敵が持っていた小さなメモを拾い上げる。そこには古代語で何やら書かれており、王冠や鍛冶師を示唆する単語が散見された。


「これよ、見て。『王冠の炉』……『太古の火』……いくつかの単語が読めるわ」セレナがミリアにメモを手渡すと、ミリアが目を細めて解読を試みる。


「太古の火……鍛冶師が王冠を作るために使ったと言われる炎かもしれないわ。もしその炎が今も残っているとしたら、その場所が王冠の真の秘密に繋がるはず」


 アルフレッドが剣を収め、仲間たちを見渡した。「では、その『太古の火』を目指そう。セイセス=セイセスがそこを狙う前に、俺たちがたどり着くんだ」


 バルトが大きくうなずき、クレアは聖印を握りしめて誓う。「必ずや、この世界を守ってみせる」


 こうして、一行は新たな目標を胸に、再び歩みを進めることになった。王冠にまつわる謎はますます深まり、セイセス=セイセスとの対決は避けられない。だが、彼らには仲間がいる、力がある、そして決して諦めない心がある。次なる冒険の幕が、再び上がろうとしていた。



 太古の火を目指して 遺跡の奥深くを進むアルフレッドたちは、セイセス=セイセスの狙いが「太古の火」と呼ばれる神秘的な炎であることをつかみかけていた。それが王冠の力を増幅させる秘密に深く関わっているとすれば、この場所にたどりつくことが彼らの最終目的であり、そのために探索は迅速かつ慎重でなければならなかった。


 アルフレッドが先頭に立ち、セレナとミリアが側面を守り、バルトとクレアは防御を固めながら後方からついていく。 「ここから先の道、異様に静かだな」 セレナが不安げに周囲を見渡す。ディテールが損なわれている石の壁、大きな瓦礫の隙間、そして不安を引き寄せるように感じる暗黒の空気……全てが何かしら役割を果たしているように見えた。


「警戒を怠るな。何が待ち受けているか分からない」アルフレッドの声にも、いつも以上の鋭さが感じられる。地面がぬかるんでいるので、足元にも注意を払いながら進んでいった。 ふとすると、前方にひときわ目を引く巨大な扉が現れた。扉の周りには、古代の彫刻があしらわれ、目立たないように嵌め込まれた魔法のルーンが点々と光っている。『太古の火』に辿り着くための重要な場所となるに違いない。


「ここだ」ミリアが静かに胸の前で手を合わせてつぶやくと、クレアが続けて呟いた。「でも、何かおかしいわ。魔法的なエネルギーが凝縮している」“もうすぐだ”という予感が、全員に重くのしかかる。 アルフレッドは剣を正面に構え、扉に向かって一歩を踏み出す。その瞬間、扉の中央に埋め込まれた赤いルーンが一層光を放ち、周囲の空気がひどく重くなるのを感じた。何かが変わる予兆。セイセス=セイセスがここを押さえている可能性が高かった。 「大丈夫か?」バルトが心配そうに尋ねるが、アルフレッドは頷き返し、一歩踏み出す。 「すぐに進むんだ、このままじゃ時間がない」


 薄暗い遺跡の一室で、アルフレッドたちは見つけた手がかりを胸に、先へ進む準備を整えた。彼らが手にしたメモには「太古の火」や「王冠の炉」といった不穏かつ興味をそそる言葉が記されている。これが「真なる王冠」に関わる確かな証拠なのか、そしてそれを巡るセイセス=セイセスの狙いとは——謎は深まるばかりだ。


「とにかく、この先へ行ってみるしかないな」


 アルフレッドが剣を納めながら皆に言うと、ミリアが地図と見比べて頷いた。


「メモの記述から推測するに、奥にある空間が鍛冶師の工房跡地かもしれないわ。そこには‘太古の火’が残されている可能性が高い」


 ミリアが静かに言うと、クレアが聖印を握り締める。


「そこがセイセス=セイセスの最終目的地になっているなら、私たちが先に行って阻止しなければなりません。きっと、より強力な魔物や罠が待っているはず」 クレアの声には不安が混ざるが、決意は揺るがない。


「大丈夫だ、俺たちは今までだってどんな敵も乗り越えてきた」バルトが気負いなく笑い、肩に担いだ大斧を軽く叩く。「さっきの魔物より強けりゃ燃えるぜ」


 セレナは剣の柄を握りしめ、僅かに微笑んだ。「そうね。恐れずに進もう。王冠と鍛冶師、その秘密を解き明かして、セイセス=セイセスの陰謀を止める」


 改めて隊列を組み直し、彼らは遺跡のさらに奥深くへと足を踏み入れた。崩れかけた石の通路を進むたび、古代の気配が濃くなっていく。天井から滴り落ちる水音と、時折聞こえる何かの唸り声が静寂を破り、緊張感を高めていた。


 先ほどの戦闘で疲労した体も、クレアの回復と皆の信頼があれば、まだ進める。セイセス=セイセスが大規模な計画を裏で進めているなら、ここで立ち止まるわけにはいかない。


「この道の先に何があるにせよ、俺たちは進むしかない」


 アルフレッドがそう呟くと、仲間たちも同意するように瞳を光らせた。


 次なる部屋へ繋がる扉は既に見えている。そこには奇妙な紋様と、かすかな魔力の残滓が感じられた。王冠の真の秘密、太古の火を巡る戦い、そしてセイセス=セイセスとの最終決戦への足音が、彼らの背後で響き始めているのだった。


 光なき通路を、アルフレッドたち五人は揺るぎない意志を胸に進み続ける。



 扉の前で立ち止まったアルフレッドたちは、一瞬、互いの顔を見合わせて、気持ちを確かめ合った。そこには言葉はいらなかった。これまで共に歩んできた冒険の日々が、自然とお互いを結びつけている。


「行こう」


 アルフレッドが静かに言うと、セレナが頷き、剣を握る手に力を込めた。バルトは口元に笑みを浮かべ、ミリアは冷静な眼差しで扉を見つめ、クレアは神聖な祈りを心中で捧げている。


 扉には複雑な模様が彫られており、まるで封印や結界として機能しているかのようだった。ミリアが呪文を唱え、クレアが魔力を流し込むと、模様が淡く輝き出し、扉が重々しい音を立てて開き始める。


「入るぞ」


 アルフレッドが口短に告げ、五人は武器を構えたまま慎重に扉をくぐった。


 扉の先は、驚くほど広大な空間だった。高い天井は闇に溶け込み、淡い青白い光が床の一部分を照らしている。その中心には、巨大な炉のような装置が鎮座し、その上にはやや歪な形をした王冠のレリーフが浮かび上がっていた。


「ここが……‘王冠の炉’なのかしら?」


 ミリアが呟くと、セレナが賛同するように声を上げる。


「確かに鍛冶師の痕跡がありそうね。金属を打ち鍛える場所だったのかも」


 クレアは周囲の雰囲気を感じ取り、眉間にしわを寄せた。「感じる……強い魔力が渦巻いているわ。太古の火と呼ばれる力が、まだどこかで眠っているのかも」


「なら、その眠りを利用している輩がいるはずだ」


 アルフレッドがそう言った瞬間、奥の暗がりから足音が響いた。


「やはり来たか、冒険者ども……」


 暗闇の中から闇色のローブを纏った人物が姿を見せた。仮面をつけ、その背後には複数のセイセス=セイセスの構成員が並んでいる。


「この炉が王冠の力を引き出す鍵だ。お前たちがそれを阻もうというなら、ここで消えてもらおう」


 バルトが斧を構え、不敵に笑う。「言いたいことはそれだけか? こっちは準備万端だぜ」


「アルフレッド、私たちが時間を稼ぐから、あの炉と王冠の関係を調べて!」


 ミリアが提案する。セレナとクレアもすぐに頷き、バルトが盾となって敵を引きつけることで、アルフレッドが炉に近づくチャンスを作ろうとしていた。


 闇の中で火花が散るような緊張感が走り、戦いが再び始まる。魔法が飛び、剣が閃き、闇の笑いが響き、冒険者たちの決意が炎のように燃え上がる。


「これを終わらせる……王冠の秘密を明らかにし、この世界を守ってみせる!」


 アルフレッドの叫びが、広い空間に反響する。その声は、仲間たち、そして見えぬ鍛冶師の魂にまで届くかのようだった。


 こうして、旅の果てに待つ真実へと、冒険者たちは最後の一歩を踏み出す準備を整えたのだった。



 戦いの火花が散る中、アルフレッドたちはそれぞれの役割をしっかりと果たしながら、セイセス=セイセスの構成員たちとの戦闘に臨む。闇の魔法弾が通路を横切るごとに、鋼の盾が跳ね返し、剣が閃光となって暗闇を切り裂く。


 バルトが前線に立ち、巨大な戦斧で目の前の黒い魔法使いに圧倒的な一撃を放とうとする。「んなら、受けてみろ!」 と叫んで振り下ろした斧が、空気を切り裂き、敵を吹き飛ばした。同時にセレナが後方から素早く回り込み、剣を空気ごと斬り裂くように振るい、残った敵の動きを封じ込めた。


「しっかりして、あっちの炉に近づけるように、私たちが抑える!」セレナが言った。彼女は素早く身をひるがえし、続く魔物を何体も一撃で仕留めた。


 クレアも力強い祈りのパワーで仲間たちを支援する。ミリアは氷と炎を操り、敵を寄せ付けない。


 アルフレッドが鍛冶炉の前へ進もうとしたその刹那、セイセス=セイセスの構成員たちが闇の呪文を一斉に放った。黒い閃光が奔り、炉の周囲を包み込むように薄暗い結界が展開される。アルフレッドは剣を構え直し、前へ進もうとするが、その結界が行く手を阻む。


「ミリア、クレア、あの結界を何とかできるか?」


 アルフレッドが焦りをこめて問うと、ミリアが目を細めて結界を観察する。


「何重もの魔法が重なってるわ。でも、炎と聖なる光を組み合わせれば、一時的に弱体化させられそう」


 ミリアが呪文を練り始めると、クレアも祈りを捧げ、神聖な光を召喚する。


 バルトとセレナはその間、構成員や召喚された魔物が襲いかかるのを防ぐべく、左右で戦線を維持している。バルトは斧を振り回して魔物を叩き潰し、セレナはすばやい剣さばきで相手の攻撃をかわし、カウンターを叩き込む。


「早くしてくれ! 敵さんは諦めが悪いぜ!」


 バルトが汗を流しながら笑う。


「任せて!」ミリアが詠唱を完了し、手から赤い炎の矢を放った。クレアは即座に聖なる光をその炎に融合させる。二つの力が一体となり、結界に激突すると、暗い膜がきしむ音とともに薄れていく。


「今だ、アルフレッド!」クレアが叫ぶ。


 アルフレッドは跳躍し、消えかける結界を剣で切り裂いた。その先には鍛冶炉の基部に埋め込まれた奇妙な水晶が露わになる。


「これが、王冠の力を引き出す『太古の火』の源か……?」


 アルフレッドが剣先で水晶を指し示すと、背後でセイセス=セイセスのリーダー格の男が苦々しい声で唸った。


「させるものか! その水晶を破壊すれば、我らの計画は水泡に帰す。しかし、お前にはできまい!」


 男は闇のオーラを纏いながら、アルフレッドに向けて黒い槍を繰り出した。


 だが、槍がアルフレッドを貫こうとした瞬間、セレナが横合いから飛び込み、その攻撃を剣で受け流した。「あんたの相手は私よ!」彼女は剣に魔力をこめ、攻勢に転じる。


 バルトが敵の背後に回り込み、斧を振り下ろす。「こっちを見ろ! 俺を無視するな!」


 ミリアとクレアは援護射撃と回復で仲間をサポートしつつ、アルフレッドに視線を送る。今こそ核心に触れる時だと、彼は理解していた。


「いくぞ……!」


 アルフレッドは剣にすべての気持ちを込め、水晶を目掛けて叩き込む。ガシンという響きとともに水晶がひび割れ、赤い光が爆ぜるように散る。その瞬間、闇の槍が消え、構成員たちが動揺を示した。


「な、なんだと……!」リーダー格が絶叫し、闇の魔力が不安定になり始める。結界が完全に消え、魔物たちも霧散していく。


「これで貴様らの計画は終わりだ」


 アルフレッドが静かに言うと、男は怯えたように後ずさる。「貴様ら、ここまでやるとは……。だが、我らはまだ完全には滅びぬぞ……!」そう言い残し、男は黒い煙に紛れて逃走した。


「逃がしたか……」セレナが吐息する。


「いいわ、それでも計画は阻止できた。王冠と鍛冶師の謎に一歩近づいたはず」ミリアがホッとした息をつく。


 クレアが神聖な光で仲間たちの小さな傷を癒しながら微笑んだ。「今回も、皆さんのおかげです。ありがとう」


 バルトが斧を肩に担ぎなおし、笑みを浮かべる。「さあ、ナドルヨークに戻って報告しよう。王とギルドが喜ぶ顔が目に浮かぶぜ」


 アルフレッドは剣を収め、深く息を吐く。「奴らは逃げたが、計画は潰した。次に会う時が来れば、その時こそ最後の戦いになるかもしれない……」


 こうして、一行は再び王都へ戻り、次なる冒険に備えることになる。王冠と鍛冶師、そして闇の結社との戦い――彼らの物語は、まだ幕を下ろすことを知らなかった。



 ナドルヨークへの帰還の道中、アルフレッドたちは夕暮れに染まる空の下を歩いていた。先ほどまでの激闘の余韻がまだ体に残る中、彼らは静かに次なる展開を思い描いている。湿地帯を抜け、王都までの道は安らかで、揺れる木々の間を爽やかな風が吹き抜けた。


「今回も大仕事だったな」バルトが呟きながら、背負った大斧を軽く叩く。「あの結晶を破壊できて、本当に助かったぜ」


「ええ、セイセス=セイセスは未だ健在だけれど、少なくとも彼らの計画の一部を止められたわ」セレナが同意しながら木漏れ日を見上げる。「あのリーダー格が逃げたのは気になるけれど……次会う時は絶対に倒す」


 ミリアは手に入れたメモや地図を再び確認しながら、静かに分析を続けている。「王冠の真の秘密はまだ見えてこない。でも、今回分かったのは、鍛冶師が残した遺産や炉がキーになるってことね。さらに奥深く探れば、王冠の力を正しく使う方法がわかるかもしれないわ」


「そのためには、王や学術院の力も借りる必要があるかもね」とクレアが穏やかな表情で提案する。「私たちだけで解けない謎なら、王国が千年守り続けてきた知識を活用するべきだわ」


 アルフレッドはうなずきながら、剣の柄を軽く握りしめる。「うん。王や学術院に協力を求めて、情報を共有しよう。セイセス=セイセスは確かに手強いが、俺たちには仲間がいる。王国が誇る多くの知識と、人々の信頼がある」


 そう話していると、王都ナドルヨークの城壁が遠くに見え始めた。夕陽を背にしたその姿は、何か温かいものを宿しているようだった。


 王都に戻った一行は、ギルドマスターや王宮の使者に経緯を報告する。王冠の新たな手掛かりについて、ギルドマスターは深くうなずき、学術院への紹介状を渡した。


「これで王立学術院にて、さらなる研究者たちの力を借りられるだろう。彼らは、王冠にまつわる古い記録や伝説を秘蔵していると聞く」ギルドマスターが言う。


 彼らは依頼報酬と学術院への紹介状を手に、またしても酒場「金のグリフォン」へと足を運んだ。喧騒が広がる店内で、彼らは杯を交わし、この数日の激闘を振り返る。


「次は学術院か……魔物や罠とは違った試練があるかもしれないわね」ミリアが微笑みながら言う。


「学者たちとの討論か? それはそれで面白そうだぜ」バルトが愉快そうに笑った。


「でも、その前にしっかり休息を取りましょう。今回もクレアがいたから安全に戻れたわ」セレナが感謝の言葉をクレアに伝える。


 クレアは恥ずかしそうに微笑んで首を振る。「いえ、みんなが頑張ってくれたから。私は後ろで祈るだけでした」


「それが大事なんだ」アルフレッドが穏やかに言う。「さあ、乾杯しよう。次の冒険はまたすぐそこに待っている」


 五人はグラスを掲げ、軽くぶつけ合った。伝説の王冠、鍛冶師の秘宝、そしてセイセス=セイセスとの決着――まだまだ道は続くが、彼らは決して諦めない。笑顔と共に立ち上がる冒険者たちの物語は、こうして新たな幕を開けようとしていた。



 翌朝、ナドルヨークの街には清々しい朝の光が差し込んでいた。アルフレッドたち五人は宿を出て、さっそく王立学術院へ向かった。紹介状を手にした彼らは、今度は知識の闘いへと挑む準備を整えていた。


「セイセス=セイセスの計画を阻止するには、王冠の力の正体を知らなければならないわ。学術院には古い文献がたくさんあるはず」


 ミリアが肩に小さな革鞄を下げながら、学術院への道のりを行く。


 クレアは見上げるようにして、堂々たる王立学術院の建物を眺める。「ここが王国中の知識が集まる場所……きっと何かが見つかります」


 バルトは大斧を預けて身軽になり、周囲を注意深く見渡した。「だが、学術院の中にセイセス=セイセスのスパイがいないとも限らない。気を緩めるなよ」


 セレナは剣を置いて、控えめなドレスに着替えていた。「学者たちに剣を向けるわけにもいかないし、ここでは私たちも紳士淑女らしく振る舞わないとね」


 アルフレッドは微笑みながら、仲間たちのやり取りを聞いていた。「そうだな。ここでは剣や斧より、言葉と知識が力になるかもしれない。俺たちにどんな謎が解けるかわからないが、やるだけやってみよう」


 学術院の中は静寂と威厳に包まれていた。高い天井、奥深い書架、薄暗い照明の中で、白衣を纏った学者たちが行き交う。彼らは膨大な量の書物や古文書を扱い、王国の歴史と魔法の真実を紐解いているという。


 紹介状を提示すると、老年の学者ラウドが彼らの前に現れた。長い顎鬚を撫でながら、好奇心に満ちた目で一行を見つめる。


「君たちが王冠にまつわる謎を追っている冒険者か。王からの連絡は受けているよ。王冠、鍛冶師、そしてセイセス=セイセスか……なかなか厄介な組み合わせだね」


「私たちは、真なる王冠の力と、鍛冶師が遺した遺産について知りたいんです」とミリアが丁寧に説明する。


 ラウドは頷き、書架の奥へと彼らを導いた。「古い記録がこの辺りにあるはずだ。中には解読困難な古代文字で書かれたものもある。君たちには根気と運が必要だね」


 クレアは聖印を握りしめ、決意を込めて答えた。「頑張ります。世界を救うためなら、どんな努力も惜しみません」


「素晴らしい心がけだ」ラウドは微笑み、冒険者たちに机と椅子が用意された小さな部屋を案内する。「ここで自由に調べるといい。一週間、君たちに特別閲覧許可を与える。わからないことがあれば私に声をかけたまえ」


 こうして、剣と魔法を振るう戦いから一転、冒険者たちは書物を相手に新たな戦いを始めた。山と積まれた古文書、掠れた文字、時を経て変形した地図や図版。全てが王冠と鍛冶師の謎を解く鍵かもしれない。


「よし、やるか」アルフレッドが微笑み、仲間たちも本を手に取る。


 セイセス=セイセスが新たな計略を練っているころ、アルフレッドたちもまた、知識の炎で闇を照らそうとしていた。王冠の正体を突き止めるための新たな冒険が、こうして静かに幕を開けたのだった。



 静寂の書庫で、アルフレッドたちは山と積まれた古文書に目を通していた。薄暗い明かりと紙の香り、めくるページの音が支配する空間は、先刻までの激闘が幻だったかのように感じさせる。不思議なほど穏やかな雰囲気だが、彼らの心は決して安まらない。セイセス=セイセスの脅威が背後にちらついていることを、全員が意識していた。


「この巻物、気になるわ」


 ミリアが擦れた羊皮紙に指を滑らせ、古代文字を慎重に追う。「『王冠を鍛えし者』――鍛冶師のことが記されているみたい。『炎の源を、深き炉に秘す』と書かれているわ」


「炎の源か。先ほど見た記録にも、太古の火とか王冠の炉の話が出てきたな」


 アルフレッドが思い出すように言う。「つまり、この鍛冶師は王冠を鍛える際、特別な炎を利用していたってことか」


 セレナはテーブルに肘をついて考える。「王冠がただの宝じゃなく、特別な炎で鍛えられた武具の一部とも解釈できるわね。それなら、王冠には何かしら ‘武器としての性質’ が宿っているのかもしれない」


 クレアは眉間に皺を寄せながら冊子をめくる。「ここにも似た話があるわ。『鍛冶師が王と共に闇を払うために炉を開いた』と。王冠は王を象徴するだけでなく、この世界に混沌が訪れたとき、闇を退ける鍵になるような記述がある」


 バルトは手元の書簡をまじまじと見つめ、「王はその王冠を戴くことで、特別な権限というか、封印を操る力を得た、なんて書かれてないか?」と尋ねる。


 ミリアは再び目を伏せ、じっくりと文字を解読する。「『王冠を戴く者、封印を統べ、太古の火を操る』……なるほど、王冠を得た王は、古代の封印を操る能力を得るらしいわ」


「奴らの目的が分かってきたな」


 アルフレッドが声を低くする。「セイセス=セイセスは、この王冠の力を使って、世界を支配しようとしているんだ。封印を解けば、封じられた闇が溢れ出し、それを操れば最強の武器になる」


「王の権能を盗むようなものね」セレナが忌々しそうに言う。「許せないわ」


 クレアが微笑みながら皆を見渡す。「でも、分かったことも大きいわ。王冠と炉、そして鍛冶師の遺した太古の火を探し出せば、正しい使い方を学べる。そうすれば、王冠を取り戻されても、セイセス=セイセスの思い通りにはならないはず」


 その時、背後でかすかな気配がした。アルフレッドが素早く剣に手を掛け、影を睨むと、そこには学術院の学者リュカが立っていた。


「おや、熱心だね。どうやら有益な情報を掴んだようだ。私も手伝えることがあれば言ってくれ」


「リュカさん、王と相談して、王冠の安全な保管方法や封印術の資料を見せていただけませんか?」ミリアが頼むと、リュカは笑みを浮かべた。「もちろん。王家の文献庫であれば、さらなる記録があるだろう」


「これでさらに前へ進めるわね」セレナが剣を撫でながら決意を新たにする。


「奴らに先を越される前に動くしかない」バルトが低く呟く。


 アルフレッドは仲間たちに目を遣り、静かに微笑んだ。「準備ができたら、王家の文献庫へ行こう。こうして、次なるステップが見えてきた。さあ、今は十分に休み、明日からまた動き出そう」


 彼らは学術院を後にし、再び王都の夕暮れの街並みに戻った。剣や斧では太刀打ちできない知識の戦いも、彼らなら切り抜けられる。明日には、さらなる真実が明らかになるに違いない——彼らの冒険は終わらない。



 翌朝、ナドルヨークの空は晴れ渡り、爽やかな風が街を包んでいた。アルフレッドたちは宿での休息を経て十分に体力を回復し、手荷物を整えて王家の文献庫へと足を運んだ。王宮の一角にあるその文献庫は、王国でも最も貴重な書物と歴史的資料が集められた場所として知られている。


「王冠の秘密や、鍛冶師にまつわる伝承が、ここならさらに詳しく記されているはずね」


 ミリアが期待を込めて言いながら、学術院で世話になったリュカと共に文献庫へ向かう。


 文献庫は高い天井と無数の書架で満たされていた。書架には古びた羊皮紙や厚い書物が隙間なく詰まり、梯子で上層に上らなければならない場所も少なくない。そこかしこに魔力を感知する符が貼られ、書物を朽ちや災難から守っている。


 リュカは彼らを広い机が並ぶ閲覧室へ案内し、「君たちが求める資料は、古王朝期の魔導記録の棚にあるかもしれない」と指し示した。「王冠に関する文献は、何世代も前から秘匿されてきたものが多くてね。ちょっとやそっとで見つかるとは限らないが、私も手伝おう」


「助かります」アルフレッドが感謝を述べると、バルトは背を伸ばして書架を見上げる。「うひゃあ、あんな上の方にも本があるのか?」


 セレナが苦笑しながら、「あたしが梯子で上がって取ってくるから、バルトは下で支えててよ」と言うと、バルトは冗談めかして「俺が梯子を支える役だと?」と笑う。クレアは微笑ましいやりとりに目を細めながら、「皆さん、気をつけて」と付け加えた。


 ミリアは早速、地図や年代記が収められた棚の前で調査を開始する。密集した書物を一冊ずつ丁寧に確認し、王冠や鍛冶師、太古の火といったキーワードが見当たらないか目を凝らす。


 しばらくして、セレナが梯子の上から声をかけた。「ミリア、こっちに『鍛えられし王冠に纏わる三つの儀式』と題された書簡があるわ!」


「それよ、きっと手がかりになるわ」ミリアが手招きし、セレナが下りてきた書簡を共同で読み解き始める。


 書簡には、王冠を鍛えた鍛冶師が、王冠の真価を引き出すための三段階の儀式を定めたという記述があった。その儀式には、特定の炎、特定の宝石、そして特定の言霊が必要とされるらしい。しかし、それぞれが世界の各地に散らばり、封印や罠によって守られているとのことだ。


「なるほどね。だからセイセス=セイセスは各地の遺跡を回ってたのか。この三つの要素を集めて、王冠を完全な状態に戻すつもりなのよ」ミリアが説明すると、アルフレッドは剣の柄に手をかけつつ唸る。


「三つの儀式ね……めんどくさいが、先手を打つしかない」


 クレアが静かに頷く。「彼らが先にこれらを集めてしまえば、王冠は邪悪な力をもたらす凶器になりかねません。私たちが先回りして確保する必要がありますね」


 リュカが顎鬚を撫でつつ言葉を添える。「これらの要素を収めた場所は、代々の王家にも秘されてきた。学術院にも限られた情報しかないが、分かる範囲で協力しよう」


 セレナが視線を上げ、「さあ、これで次の目標がはっきりしたわね」と決意を新たにする。「三つの儀式の要素を集め、王冠を正しい形で完成させ、セイセス=セイセスの計略を根底から崩すのよ」


 バルトが斧の柄を軽く叩いてニヤリと笑う。「気合入るぜ。今度こそ奴らの野望を断ち切る!」


 アルフレッドは仲間たちを見渡し、静かに微笑んだ。「よし、次なる冒険は、この三つの要素を求めて王国を巡る旅だ。どんな障害が待っていようとも、俺たちなら乗り越えられる」


 こうして、王冠を巡る戦いは新たな段階へと進む。冒険者たちは再び剣と魔法、そして知識を携え、王国各地に散らばる秘宝と儀式を求めて旅立つ準備を始めたのだった。

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