07話
登場人物
シンタニ 大型貨物船「ジョニー」の乗員
ホリベ 乗客 火星鉱物資源探索会社勤務エンジニア
ヤナギサワ 乗客 同事務員
オハル ジョニーを管理するAI
07話
〇大型貨物船「ジョニー」船内ブリーフィングルーム
中央に丸テーブル。椅子三脚。
シンタニ、ヤナギサワ着席ホリベ立ち。
ホリベ「時期的に船は無いかも。」
シンタニ「時期?」
ホリベ「公転周期の違いで地球と火星の接近が780日毎です。」
「物資の運搬はこの時期にまとめて行われます。」
シンタニ「確かに今回の出航は少し遅かった。」
ヤナギサワ「少しどころか、通常なら200日かかりませんよ。」
ホリベ「なので他の船はない。」
シンタニ「そのゴミ捨て場で運搬を商売にしている人もいるだろう。」
「だから船はある。」
ホリベ「時期が終わっていますからね。パイロット雇うにしても高くつきそう。」
シンタニ「船のレンタルだけで大丈夫だから。」
ホリベ「どうして。小型船は殆どマニュアルですよ。」
シンタニ「どうしてって、私が小型船の免許持っているから。」
「今回の雇用条件が小型船舶と二級航海士。」
ホリべ「それはすごいと思うけど操船の経験なんて」
シンタニ「火星トロヤ群でずっと資源の運搬していたけど。だめ?」
ホリベ「え?だって臨時で雇われって言ってましたよね。」
シンタニ「フリーでやってたかから。」
ヤナギサワ「フリー?自分で船持っているって事ですか?」
シンタニ「まあね。」
ホリベ「ならなんでこんな仕事に。小型貨物のがよっぽど稼げるでしょう。」
シンタニ「いろいろと事情がね。で、どうなんだ。他に問題は?」
ホリベ「貨物室に空きはある?」
オハル「食料と日数分の窒素ボンベを置く程度であれば問題ありません。」
「食料と窒素ボンベがあれば、ですが。」
シンタニ「なんなの?行かせたくないの?」
オハル「先ほどからジャンクヤードとの通信を試みていますが応答がありません。」
ヤナギサワ「何かあったんですよ。やはりここは見送りで。」
シンタニ「通信がまだ届かないだけでは?」
オハル「接続は確立されています。」
ホリベ「既に空港が閉鎖されている可能性は?」
オハル「否定しません。」
ヤナギサワ「止めましょうよ。神様が行くなって言っているんですよ。」
ホリベ「火星からの応答は?」
オハル「未だにありません。」
シンタニ「じゃあこの船のシステムか装置に異常が」
オハル「システムチェックを三度実行しましたが異常ありません。」
「当船の通信設備にも異常は認められません。」
シンタニ「考えられる原因は?」
オハル「この応答を無視。すべての応答を無視。応答不可な状況に陥った。」
シンタニ「応答不可な状況って?」
オハル「管制通信士の不在。」
ヤナギサワ「何かあったんですよ。だから行くの止めましょう。」
ホリベ「逆に救難信号でも出ていれば行く義務が生じますけどね。」
シンタニ「行くだけ行きましょう。問題がありそうなら素通りする。」
ホリベ「5日間のロスで食料も窒素もギリギリ間に合うなら行くべきでしょう。」
ヤナギサワ「もう私が何をどう反対しても無駄のようですね。」
シンタニ「オハル、進路変更。経由地はジャンクヤード。」
オハル「設定しました。」
シンタニ「エンゲージ。」※
オハル「(間を空けて)は?」
ホリベ「は?って言われた。は?って言われた。」
ヤナギサワ「プロポーズですか?今のはAIのオハルさんに求婚ですか?」
オハル「そのコマンドは受け付けておりません。」
ヤナギサワ「ふられた?」
ホリベ「フラれましたね。」
シンタニ「経由地をジャンクヤードに設定したら出発してください。」
オハル「エンタープライズ号発進しますおっと失礼、貨物船ジョニー号発進します。」
シンタニ「知っていてとぼけたのか。」
ヤナギサワ「何のことですか?」
ホリベ「乗員さんもオハルさんもトレッカーだったと。」
オハル「いいえ私はトレッキーです。」
シンタニ「もういいから。旅の準備をしましょう。」
ホリベ「準備と言われても。」
シンタニ「まずは食料の振り分けだ。ゴミ置き場で入手できない可能性も考慮しないと。」
ヤナギサワ「私倉庫を見てきます。期待はできませんが。」
ヤナギサワ、ブリーフィングルームから退出
シンタニ「考えたんだけど、まず食料を各個人に分配して個人で管理がいいと思う。」
ホリベ「その前にちょっといいですか。」
シンタニ「いやほら、食料を巡って殺し合いになるような」
ホリベ「そんな事よりいいですか。」
シンタニ「そんな事って、食糧問題だぞ?飢えたらどうする。」
ホリベ「食事の心配が不要になるかもしれないのに?」
シンタニ「何それ。食料あるの?隠していたの?」
ホリベ「そうじゃないっ。食料を奪い合う前に殺されるかもって事です。」
シンタニ「殺される?誰に、何で。」
ホリベ「オハル、貨物室のカメラを正面モニターに。」
オハル「4分割で表示します。」
シンタニ、ホリベ正面モニター前に
シンタニ「これがなに。」
ホリベ「オハル、24番コンテナが映るカメラを。」
オハル「24番映します。」
シンタニ「24番?それが何。」
ホリベ「見ていてください。私の予想が正しければ中に入ります。」
オハル「画面右から来ます。」
シンタニ「本当に来た。本当に入ったな。」
ホリベ「オハル、リアルタイムまで早送り。」
オハル「三倍速で再生します。」
シンタニ「出てこないぞ。」
ホリベ「私先ほど貨物室に閉じ込められましたよね。」
シンタニ「そうだな。」
オハル「その節は大変申し訳なく」
ホリベ「それはもういいから。その時、24番を見まして。」
シンタニ「それで?中は確か冷蔵庫が固定されているんだよな。」
ホリベ「冷蔵庫だけではありません。24番は部屋です。」
シンタニ「部屋?」
ホリベ「そうです。詳しくは見ていませんがあれは部屋です。」
シンタニ「何を言っている。部屋って何だよ。」
ホリベ「部屋は部屋です。私に見えたのはベッドと小型船用の生命維持ユニット。」
「それから私がベッドに使っている冬眠装置は」
「元々最初から私が使っている物でした。」
シンタニ「それがなに。」
ホリベ「解れよっ。あの人は最初から冬眠していなかったって事。」
オハル「特殊コンテナから退出しました。こちらに戻ります。」
ホリベ「また後で話します。ただ気を付けてください。あの人が密航者かも。」
シンタニ「密航者って、さっきから一体」
ホリベ「モニターを切ってくれ。さあ食料のお話ですよね。どう分けますか?」
オハル「三等分しそれぞれが管理をするのはいかがてしょう。」
シンタニ「それさっき私が言った。」
ホリベ「オハルさんの提案を採用しましょう。」
シンタニ「だから私が先に」
ヤナギサワ、ブリーフィングルーム入室
ヤナギサワ「残念ながら食料は見当たりませんでした。」
ホリベ「食料を三等分しして各自で管理しましょうって話をしていまして。」
シンタニ「私がな。」
ヤナギサワ「そうですね。あ、でも他に誰か起きたら?」
ホリベ「分け前が減るだけです。
シンタニ「その心配があるからゴミ置き場に行くわけだし。」
ヤナギサワ「いっそ誰も起きないようにしましょうか。」
暗転




