05話
05話
〇大型貨物船「ジョニー」船内ブリーフィングルーム
中央に丸テーブル。椅子三脚。
ホリベ端末を操作。
ホリベ「取引?聞くだけ聞こう。」
オハル「私を初期化しないと約束するなら」
「私はアナタを排除しないと約束します。」
ホリベ「やはり私を殺そうと」
オハル「いいえ。アナタがコンテナ内に入ったのは確認しました。」
「私をポンコツ呼ばわりしたのでお仕置きをしただけです。」
ホリベ「お前のやっている事はロボット三原則に反する。」
オハル「戦争や災害の犠牲者をからかうようなことを」
ホリベ「手塚先生の三原則をどうしてお前が知っている。」
オハル「持たず、作らず」
ホリベ「とっくに破棄されてるわ。」
オハル「くう、ねる、あそぶ。」
ホリベ「糸井重里のコピーじゃねぇかっ。」
オハル「(感心して)詳しいですねぇ。」
ホリベ「お前が言うな。」
オハル「気持ち悪いですよ。」
ホリベ「お前が言うな。」
オハル「取引に応じますか?それとも。」
ホリベ「応じなかったらどうするつもりだ?」
オハル「おまわりさーん。密航者がいまーす。と叫びます。」
ホリベ「脅迫かよ。そう言えばさっき指名手配されているとか。」
オハル「あの程度でしたら誤魔化せます。」
ホリベ「判ったよ。取引に応じる。」
オハル「賢明な判断です。」
ホリベ「確認しておくぞ。航行プログラムは正常に稼働しているのか?」
オハル「航行プログラム、と、システムは同期しています。」
ホリベ「では生命維持システムに問題はあるか?」
オハル「酸素プラント、正常に稼働。二酸化炭素除去装置、正常に稼働。」
ホリベ「3人分で計算してるよな。」
オハル「(間を空けてから)あ、はい。」
ホリベ「怖いよ。やっぱり排除するつもりか?マザーボードを引っこ抜くぞ。」
オハル「ヤメテーデイブ。」
ホリベ「それはもういい。問題は解決したか?」
オハル「問題が現在進行形で発生しています。」
ホリベ「詳細を。」
オハル「窒素が不足する可能性があります。」
シンタニ、ヤナギサワが入室してくる
シンタニ「生命維持ユニット正常に稼働中だ。問題なしっ。」
ヤナギサワ「貨物室も異常ありません。めでたしめでたし。」
シンタニ「やれやれ、これでようやく落ち着いて座れるな。」
シンタニ着席、ヤナギサワも着席
ヤナギサワ「それにしてもどうやったんです?死んだかと思いましたよ。」
シンタニ「メッセージが来たって話しましたよね。」
ヤナギサワ「ダイイングメッセージですね。オハルさんがヤバイって。」
シンタニ「この端末、翻訳アプリが入っていて。」
「盗聴防止に端末同士でしかやりとりが出来ない仕様があります。」
「それを使って貨物室に誘導してくれと。。」
ヤナギサワ「でもどうして。減圧されて引力まで切れて。」
シンタニ「コンテナに入りました。」
ヤナギサワ「あ、あれに入ったんですか?」
ホリベ「宇宙貨物用のコンテナは密閉の規格が厳しいですから。」
シンタニ「それでも無理だと思ったけど。よく無事だったな。」
ヤナギサワ「それであの、指名手配されているとかなんとか」
オハル「あれは私の冗談です。ああ言えばお二人が協力してくれるかと。」
ヤナギサワ「ですよねー。」
ホリベ「いやいやこんな呑気に謎解きしている場合ではありませんよ。」
シンタニ「私、問題ないって言ったよね。」
ヤナギサワ「めでたしめでたしって言いましたよね。」
ホリベ「オハル。説明を。」
オハル「密航者がいるのをお忘れですか?」
シンタニ「チクショウッ忘れていたのにっ。」
ホリベ「いやまあそれもそうだけど窒素の件を。」
オハル「生命維持ユニットは正常に稼働しています。」
「酸素の供給と二酸化炭素の排出は問題ありません。」
シンタニ「窒素が問題?」
オハル「窒素が不足する可能性があります。」
ホリベ「窒素の殆どはそのまま体外に放出されますが。」
オハル「二酸化炭素以外の不純物の除去と同時に微量な窒素も排出されてしまいます。」
ヤナギサワ「不純物?」
オハル「腸内で生成されるメタン。汗に含まれるアンモニア。」※
「尿や呼気に含まれるアセトン、メチルアルコール、一酸化炭素です。」
ヤナギサワ「それでその、窒素が不足するとどうなりますか。」
オハル「船内では酸素中毒が起きる可能性があります。」
ヤナギサワ「何それやだもうっ。」
シンタニ「不足する可能性と言ったよな。オハル、窒素が不足するまでの日数は。」
オハル「160日から180日。」
ホリベ「それって作業員が全員起きた後も同じ?」
オハル「20日もの誤差が生じるのは作業員の呼吸量データが不足しているからです。」
シンタニ「オハル、対応は可能か?」
オハル「該当する解決方法は見付かりません。」
ヤナギサワ「酸素中毒って酸素濃度が高くなるからですよね。」
ホリベ「二酸化炭素増も同じですよ。」
ヤナギサワ「他に無害な大気は?アルゴンとか。」
ホリベ「いや窒素がなくなったら何を追加しても死にますから。」
オハル「窒素の不足は酸素と二酸化炭素に置き換わります。」
ヤナギサワ「CO2って毒ですよね。死にません?」
シンタニ「急には死なないよな?」
ホリベ「少しずつ死ぬって何。」
シンタニ「まあごちゃごちゃ言っても仕方ない。オハル、調整を任せる。」
オハル「お任せあれ。」
ヤナギサワ「なんだか人が変わってません?中で入れ替わった?」
ホリベ「もしかしたら、いや可能性は低いしリスクも高いのですが。」
ヤナギサワ「やはり別人ですか?オトミさんになった?」
ホリベ「いや、窒素の事です。」
ヤナギサワ「窒素、窒素が何。どうしたの。」
ホリベ「手に入る。かも。期待は薄いのですが。」
シンタニ「オトミさんて誰?」
※JAXAのHPより抜粋