02話
登場人物
シンタニ 大型貨物船「ジョニー」の乗員
ホリベ 乗客 火星鉱物資源探索会社勤務エンジニア
ヤナギサワ 乗客 同事務員
オハル ジュニーを管理するAI
02話
〇大型貨物船「ジョニー」船内ブリーフィングルーム
中央に丸テーブル。椅子三脚。
それぞれにシンタニ、ヤナギサワ、ホリベが座っている
シンタニ「オハル、先ずは食事の支度だ。それから湯を沸かせ。」
ホリベ「AIにそんな機能はない。」
シンタニ「出かける前にサーモンのスモークを頼みたいのだが。」
ホリベ「朝食前には戻れないから止めてください。」
シンタニ「ではオハル、現在地の確認だ。」
オハル「スクリーンに表示済です。」
ホリベ「航路重ねないと。外れているのかわかりませんよ。」
シンタニ「オハル、経路の表示だ。」
オハル「目的地、が、設定、されていません。」
ヤナギサワ「やっぱり漂流中だ。流されていたらどうしましょう。」
シンタニ「どうするも何も修正するだけだ。オハル、目的地設定。地球。」
オハル「目的地、地球。よろしいですか?」
ヤナギサワ「わーっ違いますっ。月です。月。地球へは直接行けません。」
シンタニ「そうだった。オハル、目的地は月。」
オハル「目的地。月。よろしいですか?」
シンタニ「よろしいです。」
オハル「目的地、設定しました。ルート、を、設定します。」
ホリベ「どれくらいズレているか確認した方がいいですよ。」
ヤナギサワ「どうして?自動航行ですよね。」
ホリベ「日数が伸びるかもしれない。そうしたらさらに食料が。」
シンタニ「それは困る。オハル、月までの残り航海日数を再計算してれくれ。」
オハル「170日。」
ホリベ「ちょっとで済みましたね。ただどのみち食料は足りないだろうな。」
「作業員は3日前まで冬眠だから食料も3日分しかないと思う。」
シンタニ「一応数えてみよう。」
ヤナギサワ「あ、ではあの、私はその間に貨物の確認します。」
ヤナギサワ、ブリーフィングルームから下手へ退出
シンタニ「貨物室って火星で採取した鉱物以外何かあるのかね。」
ホリベ「火星ではなく火星トロヤ群の小惑星ですね。」
シンタニ「どのみち一度火星軌道上の集積場に集まるだろ。」
ホリベ「まあそうですね。」
シンタニ「乗員の食料は残り200日分。」
ホリベ「250日分積み込んでいたはず。」
シンタニ「何で知っているの。」
ホリベ「積み込み作業手伝わされましたから。」
「ちょっと多かったので覚えてました。」
シンタニ「別で乗員3名分が8日分ある。」
ホリベ「3名で8日分?。」
シンタニ「乗員は3名登録されている。到着7日前に全員起きるから。」
ホリベ「1日分は予備か。」
シンタニ「作業員の分は3日分。17名で153食分。在庫は丁度しかない。」
ホリベ「作業員の分は手を付けないでおきましょう。」
シンタニ「そうだな。起きて食事が無かったら暴動が起きかねない。」
ホリベ「乗員の予備をいただきましょう。予備なんて最初からなかった。」
シンタニ「悪党だな。」
ホリベ「200日600食と3名3食9食分609食を3人で分けると203食。」
シンタニ「残り170日。でも3日前に起きるから167日。」
ホリベ「1日1食を131日。1日2食を36日。」
シンタニ「1日1食かー。」
ホリベ「もしくは1食分の量を減らして調整するとか。」
シンタニ「どのみち誰か起きたらもうお手上げだな。」
ホリベ「逆に1人でも起きなければその分いただけますよ。」
シンタニ「怖い奴。そうならないようにシステムどうにかしないと。」
ヤナギサワ、ブリーフィングルームに入室。
ヤナギサワ「貨物室は異常ないようです。」
シンタニ「何か気になる事でも?」
ヤナギサワ「え?いやあの、出発前にお偉いさんから一つだけ積み込みを確認しろと言われた物があって。」
シンタニ「もしかして冷蔵庫?」
ヤナギサワ「そうです。よく判りましたね。」
シンタニ「乗員私にも明がありまた。コンテナそのものは特殊素材で大気圏突入にも耐えられるとか。」
「中身がそれだけ貴重な物だから取り扱いは注意しろって。」
ホリベ「鉱物資源なのに冷蔵庫?実は食料が入っているとか。」
ヤナギサワ「中身までは聞いていません。見ようにも鍵かかっていました。」
「引力パネルが切れても動かないようにって冷蔵庫とコンテナを固定したようです。」
ホリベ「この机と椅子見るとやはり一度切れたのでしょうね。」
ヤナギサワ「片付けません?これ。」
シンタニ「お2人に任せる。私は生命維持ユニットと機関室を目視確認しなければ。」
ホリベ「目視したところで判るとは思えない。」
シンタニ席を立ちブリーフィングルームから上手に退出
ヤナギサワ、ホリベ、倒れた机と椅子を起こす作業
ヤナギサワ「逃げましたね。」
ホリベ「たいした作業でもないのに。」
ヤナギサワ「貴方は本社の方ですか?」
ホリベ「まあそうです。」
ヤナギサワ「職員にならないかと誘われたのですが待遇どうですか?」
ホリベ「そうですね。火星行きは拒否したけどそれを聞き入れないような会社。ですかね。」
ヤナギサワ「拒否?会社のお金で火星旅行できたのに。」
ホリベ「往復込みで5年近く。なにもないじゃあないですか。」
ヤナギサワ「確かに何もありませんでしたね。ロマンすらなかった。」
ホリベ「観光気分で来るような場所ではないってのは判りました。」
ヤナギサワ「いやいやお仕事ですから。」
ホリベ「まあでもやっと地球へ戻れる。」
「地球でなら火星の資源を吸い上げて儲ける素晴らしい会社ですよ。」
ヤナギサワ「素晴らしい?。」
シンタニ、ブリーフィングルームに上手から入室
シンタニの手には3台のタブレット端末
シンタニ、タブレット端末を中央テーブルに置く
シンタニ「機関室、生命維持ユニット共に異常はなさそうだった。」
ヤナギサワ「なんだか含みのある言い方ですね。」
シンタニ「ついでに気になって冬眠装置も確認してきた。」
ヤナギサワ「問題があったような言い方ですね。なんですか?」
シンタニ「この船の定員は20名と聞いた。乗員3名作業員17名。」
ホリベ「そうですね。」
シンタニ「実際ベッドの数は全部で20台だった。」
ホリベ「何か問題が?」
シンタニ「ここに3人いる。しかし空の冬眠装置はたった1つだ。」