11話
登場人物
シンタニ 大型貨物船「ジョニー」の乗員
ホリベ 乗客 火星鉱物資源探索会社勤務エンジニア
ヤナギサワ 乗客 同事務員
オハル ジョニーを管理するAI
11話
〇大型貨物船「ジョニー」船内ブリーフィングルーム
中央に丸テーブル。椅子三脚。
シンタニ、ヤナギサワ、ホリベ立ち。
ホリベ「乗員名簿は復旧したのか?」
オハル「否定します。火星基地の従業員名簿と照会しました。」
「該当する人物との顔写真とは別人であると判断します。」
「その後保安局のデータベースにアクセスし確認しました。」
ホリベ「オハルさんは賢いな。地球で規制されるわけだ。」
ヤナギサワ「ほ、ほ、ほ、ほんも、ほほんもの」
シンタニ「目的は何だっ。」
ホリベ「ただの亡命です。」
「事故で亡くなった人の名前を借りて地球へ帰るるだけです。」
ヤナギサワ「こ、こ、こっ、殺した、の?」
ホリベ「聞いてました?事故死ですよ。」
「私は害のないただのハッカーです。」
オハル「資源管理公団に不正アクセスし在庫と移送データを」
シンタニ「いくらだ。いくら稼いだ。」
ホリベ「足が付くので口座は触っていませんよ。」
ヤナギサワ「あなたがシステムを」
ホリベ「寝ていれば到着するのにどうして態々。」
シンタニ「なのにどうしてお前だけ覚醒したんだ。」
ホリベ「本当に密航者がいるのかも知れませんよ。」
ヤナギサワ「私じゃあありませんよ。私は実際会社から冷蔵庫の管理と監視を」
ホリベ「それであのコンテナが部屋になっていたのか。食料は?」
ヤナギサワ「何のことですか?積んでませんよ?日数分の窒素も食料も積んでいません。」
シンタニ「え?なに?判らない。何が何なの。」
オハル「この人は最初から冬眠していなかった。」
「月到着までコンテナの中で過ごす予定だった。違いますか?」
ヤナギサワ「違いません。」
シンタニ「だから何の話だ?」
ホリベ「食料の分前が増えるって話ですよ。」
シンタニ「そうなの?飯が食えるならいいか。」
オハル「ご歓談中失礼します。」
シンタニ「歓談はしていないがどうした。」
オハル「予定航路に大型船を確認。」
ホリベ「進行方向と速度は?」
オハル「進路は月と予想されます。」
「速度はこの船のおよそ5割。」
ヤナギサワ「(大声で)海賊かーっ。」
シンタニ「突然大きな声出さないで。」
ホリベ「状況考えると軍艦でしょうね。」
シンタニ「だよなー。どうしよっか。進路変える?」
オハル「推奨いたしかねます。」
シンタニ「このままだと追い付くよね。」
「無人船のフリしても拿捕されて乗り込まれてバレるよね?」
ホリベ「出港手続きに問題はないから問題ないでしょ。」
シンタニ「問題はある。寄り道した。そこで見てはならない物を見た。」
ホリベ「何か見ました?」
シンタニ「見たよね?中継施設に海賊船が突っ込んだの見たよね?」
ホリベ「さあ、私は寝てますから。」
ヤナギサワ「私もっ。私もコンテナ内で寝てますからっ。」
オハル「(片言で)システム、が、復旧、していません。」
シンタニ「オハル、お前もか。」
ホリベ「オハルが不調でこんなところまで来たって言えば。」
シンタニ「実際そうだったけど。」
オハル「あ。」
シンタニ「今度は何だどうした。」
オハル「海賊船と海鮮丼って似てますよね。」
シンタニ「不調はまだ続いていた。」
ヤナギサワ「いいですか?私コンテナで寝ていていいですか?」
ホリベ「私も寝ます。」
シンタニ「いいけどいいの?航海日誌には2人の名前入れちゃったよ。」
「あれこれ聞かれたら2人に責任押し付けるかもよ。」
「私アレだから。とりあえず自分の身を守りたいから。」
ヤナギサワ「応答求めてきたらマニュアル通りに答えるだけでいいのでは?」
シンタニ「ジャンクヤードの件はどうするって話。」
ホリベ「船が突っ込んだ後に通った事にしましょう。」
オハル「通信入りました。呼びかけに応じますか?」
シンタニ「マニュアル通りに頼む。」
通信士「こちら開発会議所属の巡洋艦波風。」
「速やかに所属を明らかにせよ。」
オハル「こちら大型貨物船ジョニー。登録番号ETP10437。」
「火星基地より鉱物資源を運搬中。目的地は月。」
通信士「大型貨物船ジョニー。型番確認。」
「申請航路と異なる理由を述べよ。」
オハル「冬眠装置を含む一部システムに不具合発生。」
「窒素不足を考慮。中継施設を経由。」
無言
通信士「窒素の補充は完了したか。」
オハル「経由地損壊により上陸できず。」
無言
通信士「大型貨物船ジョニー。乗員を呼び出し応答をせよ。」
無言
シンタニ「応答します。こちら大型貨物船ジョニー。」
「乗員番号、えー11218491.シンタニ。」
通信士「登録番号確認。現状を報告せよ。」
シンタニ「システムの不具合は解消しました。現在は月基地に向かっています。」
無言
通信士「積み荷の確認をする。リストの照合を。」
シンタニ「システム不具合の際にリストは消失しました。」
無言
大佐「冷蔵庫は積んでいるな?小型船に積みこちらに送れ。」
ヤナギサワ「だめですっ。冷蔵庫は渡せません。」
シンタニ「ちょっと。」
大佐「渡せない?今のは何だ。」
シンタニ「不具合によって覚醒した乗客です。」
大佐「乗客だと?乗員三名と鉱物資源のはずだ。」
シンタニ「それは知りません。ついでに小型船は搭載していません。」
大佐「貨物登録に未申請の乗客。挙げ句搭載義務の小型船もないと?」
シンタニ「申し訳ないが細かい仕様やら申請は知りません。臨時雇用だったもので。」
「そちらの小型船で取りに来ていただくのはどうでしょう。」




