第四話:ヒーロー活動開始!!(前編)
土曜日夜、指定された時間に世利長邸に行った。
入ってすぐに腕時計を渡された。
「はいこれ。ノクティルーカスーツ試作版Mark.3ってとこね。日本のアニメや特撮によくあるでしょ? この中にスーツを入れてあって」
「魔力を流すと?」
「スイッチが入って変身できる、ってわけ」
腕時計と肌の接触面に精霊石という魔法金属が使われている。
魔法鉱物の中で最も魔力や闘気をよく流す鉱石で、そのため魔道具によく使用される。
色々と相談した結果、これを組み込むことになったのだ。
「じゃ、さっそく」
「ええ。きっと気に入るわよ。小さな巨大ロボみたいな物だから」
「それってなんか矛盾してないか?」
「あなたって、変なとこで細かいわよね」
魔力を流すと時計が流動的な黒い何かに変化する。黒蛇かのように俺の指先から足先にかけて巻きついて行った。フードがかぶせられ、最後に仮面が装着される。
最初は真っ暗だったがすぐに、仮面を着けていないのと同じぐらい視界がはっきりした。そしてHUDって言えばいいのかな。視界に色々とゲームのようなウィンドウなんかがいくつも現れた。
ここまでで約二秒。
変身シーンが長いのはあんまり好きじゃないから、これくらいが丁度いいな。
「うん、こっちにも映像来ているわね。あら? 想定していたよりも遅延が発生しているわね。数ミリ秒だけれど、これは改善しないと。なにかしゃべってみて」
「え? えっと」
「音は映像にあっている。マイクにも問題無しっと。うーん、やっぱり、エネルギーの減りが速いわね。これだけがどうにもならなくて……、バッテリーは大事に使ってね」
どんどんと話が進んでいく。これにはもう慣れたが。
ここ数日、放課後に集まっては気力や魔力について説明させられたり、実演させられたりと、実験に付き合わされていたから。
『網膜認証完了。こんばんは、白様』
「ん? 誰だ?」
突如耳に男性の機械音声が入ってきた。
「え? ああ、ごめんなさい。ペック、今は大丈夫よ。また後でお願い」
『承知いたしました』
声が消えた。
「今のは?」
「PECFED。あなた専用に設計した音声UIよ。仲良くしてね」
愛歌のAIとは何が違うんだろう。
「じゃあさっそくチュートリアルといきましょう」
そう愛歌さんが言うと、矢印等で行き先がマッピングされた。
「ここに向っていって。私はあなたの視点をモニターしながら、必要な時にスーツの使い方を説明するから」
「わかった」
部屋から飛び出し、闇夜の中を駆け始めた。