第三話:距離感
窓から出ていった白を愛歌が見送る。
「はぁぁぁぁぁあああああああーーーーーっ。緊、張したぁぁ……」
窓を閉めた愛歌が窓枠に手をかけたまま蹲る。
白が見たらさっきまでの愛歌とのギャップで、驚いたことだろう。
「わ、わわ、わ、私、こんなに長く殿方と話したの、初めてじゃないかしら?!」
『男性どころか家の者以外の人間と、ここまでまともに交流をしたのは初めてでしょう。なにしろ義涼様がおっしゃられた通り、"友達"が初めてですから』
愛歌の作ったAIがそう返事をした。
「うるさいわね……。でも、そうなのよね。私、ちゃんと話せていたかしら……」
『基本問題なかったかと』
「変な子って思われなかったかしら?」
白は天才ってやっぱ変な人しかいないんだな、という程度にしか思っていなかった故これは杞憂だろう。
「ががが、学校ではどうだったかしら? しっかりとコミュニケーションを取れていた?」
ここまでで気付いただろう。
何を隠そうこのお嬢様は、コミュニケーションが、……苦手だ。
天才であるが故に、友達と言える友達も作れなかった。研究などで一人でも楽しく時間を潰せてしまう性格なのも影響したのだろう。
小中高は学校が終われば家に帰って部屋にこもり、大学では研究室にこもり、卒業後も家にこもっていたようだ。
故に愛歌にとって日本の学校に通う事は、一つの憧れではあったが、人生最大の葛藤でもあった。
『そちらの方も多くの資料と照らし合わせても問題ないかと。昼休みに白様を連れ出したことを除いては』
「うぅ……。そうよねぇ……」
ノクティルーカの正体を突き止めて同じ学校の同じクラスに入学できたのはいいものの、自由時間に他の人たちが自分を囲み始め、挙句の果てによく知りもしない男子から何度も告白される始末。痺れを切らして強引な形で迫ってしまった。
極度の緊張状態で逆にあんな行動しかできなかったのだが、改めて思い出してみると恥ずかしさで顔から火を噴きそうだった。
彼にも迷惑を掛けてしまっただろうし反省しなくちゃ、と思った。
「恋人……、作るつもりはない、か。そうよね」
最後に話した内容の白の言葉を頭の中で反芻する。
「ヒーローにとって恋人なんて、身を破滅させる道具でしかない。そりゃそうよ」
大抵の場合そうだ。映画の中の話だが。
「私もボーイフレンドなんて、望める身ではないしね。だから……、これでいいんだ。」
そう思いなおし、出かける準備をした。
*
あくる日の学校にて。
「五時限目授業の間に昼もらった魔道具の説明書を解読したのだけれど、確かにこれなら問題を解決できそう。精霊石というのはどれくらいあるの?」
スーツについて相談してきた愛歌さんに、魔法技術を組み込む提案をしたのだ。
それについての話だろう。
「えーっと……、俺を精霊石にしても同じ大きさが2、3体創れるくらいかな。それよりもその、あの……」
今は五時限目から六時限目の間。
次の授業のために教室を移動していた。今朝からずっとついて回ってくるのだ。
昼食の時、真夏にはにやにやと嫌な目で見られた。
「どこかが痛むの?」
「あー、視線かな」
「視線? だれからの? 友達と移動するのは自然の事じゃない?」
「友達、ね」
周りからはそう見えていないだろうな……。
「それより、次物理でしょう? 私数学の次に物理が好きなの。わからないところは教えてあげられるわよ」
「俺は出席番号1番、愛歌さんは43番。班が違うから場所は別々」
「え、なに? そのつまらない制度」
この人、今日になったとたん変に距離が近くなった。
朝に会ってすぐ駆け寄られ、いきなり頬にキスされた時は流石に驚いた。日本にはその文化はないといったが、海外でも会って二日目の友達にはしないだろ。
何というか、人との距離感の計り方が苦手なのかもしれない。
先が思いやられる。
そういえばもう真夏さんと陽くんは出番がほとんどないんですよね。
個人的に気に入ってる二人なので二人がメインの話もいつか書けたらいいなんて思ってます。