第二話:私と手を組まない?(4)
「うん。こんな感じでいいかしら」
スーツの設定が納得いくとこまでできたらしい。
『愛歌様』
部屋に女性の機械音声が、また響き渡った。
「何よ、サラ。集中してる時は後にしてっていつも言っているでしょう?」
『お楽しみの所申し訳ございません。ですが、至急報告させていただきたい事が』
「なに?」
どうやれば機械音声と喧嘩なんかできるんだ?
『世利長義涼様がお見えになっております』
その名前は知っている。顔もわかる。
セリナガ社の現社長にして、医療技術や脳科学、人工知能分野の権威だ。テレビやネットで時々見る。
「お、お父様が!? ちょっとまって、そんな急に?! あーえっと、学校に行ったから髪は平気ね。あと、えっと……」
空中の画面を消している。
「俺はここにいていい?」
「隠れてる暇なんかないわよ! 適当に合わせて。きた」
ドアが開く。
「愛歌、久しぶり」
愛歌さんに義涼さんが近づく。
なんていうか、生で見ると若々しい雰囲気の人だな。
愛歌さんの親って知らなかったら、30代と言われても納得できる。
「あら、いらっしゃいお父様。久しぶり。えっと、スウェーデンに行くと言っていなかった?」
「それは一週間前の連絡だ。また何かに熱中していて、メールを開いていなかったね?」
愛歌さんはあはは、と濁す。図星なんだろうな。
「今日からしばらく東京のラボに滞在することになってね」
「え、じゃあ、この家に?」
愛歌さんが一瞬俺の方を盗み見た。
「ここは愛歌にプレゼントした家だ。父さんは区内にマンションを買ったよ。愛歌も大人だから僕に邪魔されたくはないだろう。時折、様子を見に来るつもりだが……」
そこで義涼さんと目があった。
今まで気づかなかったのか驚いている。
「あ、どーも」
「えっと、彼は……」
愛歌さんが何か言い訳しようとしていたが、それに被せて義涼さんは話始めた。
「ま、まさか……、今まで友達の一人も連れてこなかった愛歌が、ボーイフレンドを連れこんでいるとは……」
義涼さんは勝手に勘違いして、何やら感動している。
「は?! ち、違うわよ。何言ってるのお父様! 彼はただの友達よ」
義涼さんが少し残念そうな顔をする。
お嬢様だったら許婚がいたりするんじゃ、とか思ったが、どうにもこの家は俺の知ってる金持ちの常識は効かないらしい。
「そうか? 今から鷹山大学の計城氏と会食があるのだが……」
「もちろん参加させていただくわ! 準備に15分程いただける?」
「わかった。僕は車で待っているとしよう。えーっと」
部屋を出る前に、義涼さんが俺の方を見た。
「青水白です」
「そうか。娘をよろしく、白君」
そういって出ていった。
なんていうか、愛歌と同様独特な人だったな。
「お父様ったら……」
愛歌さんが、俺の方を見た。
「けど確かに気にかけておくべきだったわね。ごめんなさい、一人で舞い上がっちゃってて」
「?」
何の話だ?
「あなた、ガールフレンドは?」
「え、いたらどうなんだ?」
話が見えてこない。
「その……、これからも私の家に来ることになるのは彼女さんに悪いんじゃないかしら?」
「ああ、なるほど。その辺ちょっと複雑でね」
「……えと」
「いないと考えてくれていいよ。作るつもりもないから」
愛歌さんが少し複雑な表情を見せた。
「そ、そう? よかった。えっとじゃあ、週末までにはスーツ完成させるから」
「了解。じゃあ、また」
俺は窓から帰路に就いた。