第二話:私と手を組まない?(3)
愛歌さんが指をパチンと鳴らすと、目の前の空中に画面が映し出された。
そこから俺の3Dモデルをつまんで取り出す。スクリーン上で平面だった物が、立体的になって世利長さんの手の上に乗っている。ホログラムってやつかな?
そして軽く両腕を広げると、俺の大体1/3スケールにまで拡大された
「さてー、と。ノクティルーカのスーツをデザインしてみたの」
俺のモデルを世利長さんが一度つつくと、全身を黒い服が覆った。
最後に黒いフード付きのローブを着用する。
「いくつか武器も考えてみたのだけれど、殺傷能力のある物は不要ね。あなたなら武器無しで大量殺戮を起こせるもの」
「対象を安全に無力化できるものを頼む。この世界では殺しはしたくない。これだけは絶対だ」
「物騒な物言いね。異世界では人を殺したって?」
「ああ、もちろん。当たり前だろ」
正直に答える。
「ええ、っと、そう。……まあいいわ。深くは聞かないでおく」
愛歌さんがモデルの右腕にピンチインするように指を動かすと、そこに小さなウィンドウが現れた。
腕や頭など全身の色々な場所に同じ操作をすると、たくさんウィンドウが出てくる。そのどれもに多数の文字が並べられている。
「……これを下校してから俺が来るまでの時間で作ってたのか? デザインから何まで全部?」
ざっとみて文字列は50を越えてる。
今日は始業式で早めに帰れたとはいえ、あまりにも凄すぎないか?
「こんなの序の口よ。というか、まだまだ付け加えたかったのに、私が指定したより30分も早く来ちゃうんだもの。日本人は時間を守る人が多いと聞いてたのだけど?」
「ん?」
手紙には亥の刻と書いてあった。つまり22時のはずだ。
「21時半に着いたんだから間に合ってるだろ?」
「あなたって時間にルーズなのね。間に合ってはいても合ってはいないじゃない。予定より早く来るっていうのは、相手からその時間を奪っているって事だと思わない?」
愛歌さんが、ウィンドウと睨めっこしながら捲し立てる。
この天才様は日本人とはだいぶ違う感覚をお持ちのようです。
「というわけで、今度から待ち合わせの時はピッタリの時間を狙ってくるように、譲歩しても前後3分ね。あーこれはいらない。これもいらない。これはいる。これは……、いらない。これは……、保留にしておきましょう。えーっと」
愛歌さんがウィンドウから文字列を弾き出し捨て始める。搭載装備の取捨選択しているようだ。
「いらない。いらない。うーん、いらない。いる。いらない」
そんな風に黙々と作業していくのを眺めてた。
「……どーしたの? 黙り込んじゃって」
「いや、その、空気中に投影されるコンピューターって初めて見たから」
「ああ、3DHIのこと?」
名前は知らん。
「そりゃ私の力作だもの。初めて見たって言ってもらわないと困るわ。ただのUIだからコンピューターとはまた別なのだけれど。ま、どちらでもいいわね。いらない、いらない……」
なんでも無いことの様に作業を続けている。
「けど、そんなにたくさんのアイデアを簡単に捨てちゃうのはもったいないんじゃないか?」
「他のとこに保管してあるもの。平気よ」
「ふーん」
この人なら頭でも覚えていそうだしなと思った。