エピローグ2:夜に輝くもの
新スーツを身に纏い、スカイツリーの上に来た。
正直まだ心に迷いがある。
愛歌が死んで数日は、ヒーローの活動を続けていたんだ。
けどある時、それが難しくなって……。
最初は一人でも歩くことができていた。たった一人だって生き抜けるって、信じていた。
けど、気づいた時にはもう、愛歌なしでは生きることができなくなっていた。スーツを着ることすら辛くなっていたんだ。
その自分に驚いた。
俺はヒーローを続けることはできるのだろうか。
その資格はあるだろうか。
結局また、数日でやめてしまうんじゃないだろうか。
そんな風に悩んでいた。
真夏の風を全身で感じ、深呼吸する。肺底に熱い空気が流れ込む、それがざわめく心を少し落ち着かせた。
「よし、いくか……」
そう気合を入れて仮面で顔を覆った。
スーツに電源が入り、次第に視界がはっきりと見えるようになる。
『おはよう白。久しぶり』
ビルの森にダイブしようとしたとき、耳元に声が聞こえた。
「えっ?」
それはあり得るはずがない、しかし耳馴染みのある声だった。
『なぁにー、えっ? って。そのスーツは私が作ったのよ。私の声が聞こえるのがそんなに不思議?』
そう、それは愛歌の声だった。
「おい、どこに……?」
『どこ? バカね、ここよ』
仮面の画面にウィンドウが1つ追加され、そこに愛歌が映し出された。
しかもしっかり手を振り俺に微笑んでくる。
「は?! 愛歌、なんで……」
『なんでじゃないわよ、遅かったじゃない。季節が変わるまでの数ヶ月間も女の子を待たせるなんて最低よ』
訳が分からなかった。
最初は録画か何かかと思ったが、しっかり受け答えしてくる。どういうことだ?
『いいわ。教えてあげる。私は天才だからね。死ぬ直前に、自分の脳も身体の情報も魂の細部に至るまで、その全てをデータ化したの。そしてサラをベースに自身をAIに作り変えたってわけ。凄いでしょ?! 私身体を電子化して、それでもちゃんと意思をもって生きることができたの。これはあなたが魔法や闘気力について教えてくれたから可能だったことよ』
説明されても訳が分からなかったけど。
「じゃあ、つまり……」
『えぇ、……これからもずっと、ずっと一緒。あなたに触れることはできないけど、それでもあなたと一緒にいたかったから……、そんなの代償として少なすぎるくらいよね?』
「ああ……、だな」
まだ実感はわかないが、でも画面越しだというのに、愛歌がまるで隣にいるかのように、その息遣いも温かさも感じられた。
愛歌のいう事に嘘はないだろう。
「ありがとう」
『? どういたしまして』
空は雲一つない快晴。太陽は頭上南西。
黒いスーツはよく熱を吸う。暑すぎるくらい天気のいい日だった。
ピー、という音が耳に響いた。
「仕事か?」
『ええ、北に10kmの地点』
一度深呼吸をした。
「んじゃ、いくか。これが、俺の仕事だ」
『私"たち"のね』
俺たちは東京の街にダイブした。
The END. AND...