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エピローグ1:愛歌の遺したもの

 ギギギギ……。

 乾いた音が洋館に響き渡る。久々にこの家に来た。

 あの日以降誰もいなかったのか、少し埃っぽいなと思った。


「サラ? ……、あれ?」


 大広間の天井に向かって声を出す。しかしいつもの返事はなかった。

 2階に行き、愛歌の部屋のドアに手をかけた。一呼吸置き、中に入る。

 確かにその中は、最後に俺がここに来た時のまんまに見えた。


 愛歌の遺品整理は一週間以上かかった。本当にもうさ、死ぬなら整理くらいしてから死ねってんだ。

 専門的な俺じゃ使いこなせないほとんどのものは永久さんに丸投げし、大学とかに寄付してもらった。

 愛歌の所有の楽器は、ネットで大事にしてくれそうなプロや音大生を選出し譲ってしまったが、唯一愛歌が大事にしていたピアノとヴァイオリンだけは手放すことができず、保管しておいた。

 気になったことはこの一週間、どこでどれだけ声をかけても、サラが返事をしなかったこと。愛歌がいないと反応しなくなるプログラムでもされていたのだろうか。


 そうして片付けが終わり最後に残った物は、愛歌が本当に俺に渡したかったものであろうものだけだった。

 機械的なソファ大の装置とUSBメモリーと手紙。

 装置は箱状になっているが開け方が全くわからない。

 手紙は本当に簡単な内容だ。


―――Dear Haku

  私が生きているうちにできる最後のプレゼントです。

  USBに箱の開け方が入ってます。

  今までありがとう。愛してる。

              From Aika―――


 愛歌のパソコンにUSBを挿し中のファイルを開くと、動画ファイルが1つ入っていた。


『やっほー』


 開くと案の定愛歌が映し出された。

 撮影日はあの戦いの日だ。俺が出て行ってすぐくらいか。

 久々に声を聞いた。


『ま、ありがちなんでつまんないけどね。せっかくだから最期にビデオレターでも遺してみようかなって』


 こういうのにつまんないとかないだろ、別に。


『あー、何言おうかな。ノリでカメラ回しちゃったからな。ラブストーリーみたいな感動すること行ってやろうと思ったのに。悔しい……、カンペでも用意しとくんだった』


 俺的には、また新しい愛歌を見ることができたこと、それだけで嬉しかった。

 そこから少し考えたらしい愛歌が、雰囲気を変えて話始めた。


『……それこそラブストーリーなら、いいえ、どんな物語もハッピーエンドだってバッドエンドだって、どれほど続きが気になっても、エンディングがくればそこで終わる、……終わってくれる。

……けれど、現実はそうじゃないよね。

あなたのように愛する人と別れても、家族を失っても、目的や夢を達成しても、物語は続いてしまう。時は流れてしまう。

だから人が生きてゆくって、とても勇気がいることだと思うの。

誰だって明日は真っ暗、一秒先のことだってわからないことだらけ。だから誰だって神様を信じたい、奇跡を信じたい、天国を信じたい、来世を信じたい。

けどそれが難しい現代だから、……だからヒーローが必要なの。勇気をもって暗闇に立ち向かえるヒーローが。

……あなたには、そんな勇気の象徴になってほしいの。希望に、暗闇を照らす者(ノクティルーカ)になって欲しいの』


 一度目を閉じて一呼吸置きもう一度話始める。


『覚えておいて、あなたは私のヒーローだよ。私を助けてくれたあの日からずっとね。だって私の暗い道を照らしてくれたのは他ならぬあなただもの』


 そうあれたのかな……? 何もできなかったけど、俺は愛歌の希望になれていたのかな……?

 自問自答する間もなく、動画は進んでゆく。 


『今あなたはどうしているかしら。

私が死んで悲しんでくれているのかな。そうだったら少し嬉しいけれどね。

少しくらい休んだっていいんだけど、でもやっぱりあなたには前を向いて歩いてほしい。ヒーローとして誰かの希望になってほしい。

あなたはそういわれることを嫌がるかもしれないけれど、あなたは優しい人だよ。だからきっと誰かのヒーローになれる。

そしてあなたから勇気を貰った人が、次の誰かの希望になっていける。

誰だってヒーローになれる。

人はそうして希望の連鎖を広げることができる。

そんな生物だって、私はそう信じてる』


 そういって笑った愛歌の瞳は画面越しでも俺の目を真っすぐ見つめてくるようだった。

 その笑顔が眩しい。


『だから、私の事を忘れてくれなんて言わない。

私の希望になることができたというその事実を、あなたの希望にしてほしいの。

明日に立ち向かう勇気の糧にしてほしいの。

今は立ち止まってもいい。

だから、これからもノクティルーカとして、誰かに希望を与え続けてください。

ヒーローとして歩き続けてください。

そしていつか天国か来世で私に会った時、笑って話せる話をたくさん持ってきてください。

それまで私は、誰よりも近く、遠い場所であなたを応援しています』


 そう言って照れ笑いをした。

 少しの沈黙ののち、続きを話始める。


『さてと、箱の開け方教えるね』


 その後言われるままに箱を開けていった。

 手順が多かったが、それが何故なのか、開けてみてわかった。


『これがあなたに贈る最後のプレゼント。ここから始まるあなたのヒーロー物語を応援するための新装備。ノクティルーカスーツ完成版。大切にしてね』


 そう愛歌が言った通り、今までのとは少し違う新しいスーツだった。

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