第三十話:少し遅めの墓参り(後編)
結露した缶の蓋を開け、冷たいコーヒーを乾いた喉に流し込む。
隣にいる永久さんは、タバコを吸い始めた。
私はノクティルーカの事について愛歌様から聞いていましたのでお気遣いなく、と前置きしてから永久さんは話し始めた。
「私も葬式や埋葬のような形式的な物では心の整理を付けられない質でして、……妻を亡くした時も同じでした」
「へー、そう」
「愛歌様にお仕えし始めてからは、禁煙してたのですが……。いつの間にかまた口にしてしまっているところを見ると。私もまだまだ弱い」
永久さんがまたタバコを一吸いする。
「そんな傷を時間が癒してくれる事もありますが、人生そうはいかない場合もある。そんな時どうするか。人によると思いますが、私は家を片付けてみました。あるべきものはあるべきところへ、物も心も必要な時に取り出せるように」
「で、どうだった?」
「多少は効果ありましたよ」
「そうか。でも、俺には家がないからな」
ここ数ヶ月も貰ったギターを片手に世界中を適当に放浪していただけだった。
「そこで、です。愛歌様のご自宅……、今は白様の物ですが、当時のままにしてあります。よろしければ片づけを手伝っていただけませんか?」
ん? 今なんつった?
「は? ちょっとまて? 俺のもの?」
「ええ。義涼様が亡くなり遺産は愛歌様へ相続。しかしその数時間後に愛歌様も亡くなりました。遺言により、そのほとんどを白様に相続されました。手続きは済ませてありますのでご安心を」
セリナガ社は数多くあった部署を分割し、色々な会社に買収されたハズだ。
そういった所や、危険物を除いたもの全てだから"殆ど"、なのだろう。
「もちろん、私も白様にお仕えするようにと言われているのですが……」
「……」
次から次へと爆弾が落ちてくるな。
「給料は人生二回分を頂いているのでお気遣いなく」
「じゃあ、あんたはクビだ。給料は返さなくていいからな。気が向いたら家にも行くよ」
俺はその場を離れた。
「そうおっしゃるであろうとも、愛歌様はおっしゃっておりました」
去り際、そんな風に呟いていたのが聞こえた。