第二十八話:ノクティルーカ
突如緑色の光が義涼を外へ連れ出した。
「なんだ?!」
今起こった現象を理解できなかった。それを確かめるために、光を追いかけすぐ隣のビルの屋上に移り跳んだ。
そして目を疑う。
「……愛歌……?」
しかしどうして間違うはずがあるのか。
その緑の光を纏った何者かは俺の大切な相棒、愛歌だったのだから。
「なんでここに!? ……その姿は? それじゃまるで」
愛歌の身体は半透明になって、少し宙に浮いていた
「まるで幽霊みたい、なんて言わないでよ? まだ死んでないんだから」
「じゃあ、なんだ?」
「実は前からね、リィナスエイジの薬をベースに、白に教えてもらった魔法の理論もつかって、個人的にも薬の研究をしてみていたの。そして私にのみ効果のある薬を作って、さっき自身に投与してみた。まさか本当に効果があるとは思ってもなかったのだけれど、結果病気は治ってて、強化人間になってて、こんな感じになったってわけ」
って事はつまり、まだ義涼さんもたどり着いていない地点に、愛歌はいつの間にか達していたってことか?
義涼さんも驚いた顔をしている。天才ってこれだから……。流石に心中お察しする。
「闘気が漏れだしているけど……」
身体から漏れている緑色の光を指摘する。
「あなたを参考にしたから、超人に近づいたのかもね」
愛歌の能力が何かはわからないけど、綺麗な輝きだった。
「でもさ。愛歌の病気が治っちまったら、義涼には戦う理由が」
「愛歌。愛歌が自分で病気を治してくれたのは嬉しい。だが今はどいていてくれ、私は白君に話がある」
俺らの話を聞いていた義涼が割って入ってきた。
「いやよ。私は白と一緒に戦う。相手が例えお父様でもね」
「なぜだ」
「……今の私は、白の味方でお父様の敵だから」
「ならば私は奇跡やヒーローなどに頼らず、私の力で愛歌を救うため、愛歌と戦おう」
……わからずや、そう愛歌が呟いたのを聞いた。
「白、これは世利長の、私とお父様の親子喧嘩だから、そこでみてて」
「何言ってんだ。俺ら二人でノクティルーカだろ? 愛歌が戦るなら俺も戦る。義涼は俺に話があるらしいしな」
「そう? ありがとう」
「けど、こっちはスーツのエネルギーが残り少ないんだ。さっさとやるぞ」
「当ったり前よ」
愛歌は空気中に緑色の光で『風』と書いた。
「疑似魔術:風」
すると突風が放たれ義涼を吹き飛ばした。
俺はそれを追いかけ、隣のビルの壁に張り付く。義涼は牛鬼の機械の足を出し壁に張り付いていた。
「おらぁ!」
壁を走って近づきヒュドラファングで攻撃する
義涼もアームで応戦してくるが、二本しかない。脚の方にリソースを割いているからだろう。
掴んで動きを止める。
愛歌は義涼の後ろに立ち、また風を起こし義涼を吹き飛ばした。
その風に乗りつつ義涼を追いかけ、二人で空中で攻撃し続ける。
最初はやられるがままだった義涼だが、すぐに烏天狗の翼を生やし空中戦になった。流石、天才の親は頭がいい。
東京のビルの森の間を縫うように戦い続ける。
「疑似魔術:翔!」
愛歌が加速するのに合わせ俺も加速し、義涼の翼を壊しながら一際高いビルの屋上のヘリポートに三人とも着地、というより墜落する。
立ち上がってビルの反対の端にいる義涼をみると、何やら様子がおかしい。
「ああ、あああああああっ!」
頭を抱えて苦しんでいるようだが、筋肉は今まで以上に膨れ上がり、身体は一回り大きくなっている。
「おしまいね。強人薬を投与し戦闘行為を行ったせいで、その影響による戦闘時の興奮状態に脳がついていけていないの……。このままではただの怪物になってしまう。白、私があの鎧の電磁場を抑え込むから、あなたが攻撃して」
「いいのか?」
この位置で攻撃すれば確実に義涼は落下して死ぬだろう。
「ええ」
愛歌が最初に現れた時の様な光の玉になり鎧に纏わりつく。
「ヴェノム!」
走って近づき、最大出力で起動する。
「ファング!」
全ての電力を流し込んだ。
すぐに俺らは飛び退く。
義涼さんはその勢いでビルから落ちて行った。