第二十五話:科学は人を殺しても許されるのか(前編)
東京、とある高層ビルの上。
「いつか来ると思っていたよ、白君」
やっと世利長義涼を見つけた。
もうバレてんなら無駄だな、そう思い仮面を外した。
「んじゃ、要件もわかってるよな。こんな事、さっさとやめろ」
「無理だ、といったら? 僕を殺すのか? それも愛歌に言われたのか?」
広めの部屋に義涼はいた。ここ全体がセリナガ社名義の会社となっているが、リィナスエイジの本社も兼ねているようだ。
「俺はもう殺さねーよ」
「それでは困るだろう。肉が食せない」
「人間はだ。バカか」
「ふむ、そうか……、ならば、抵抗するとしよう」
部屋の四つの柱に機関銃が現れ銃口を俺に向け、掃射してきた。
最初の攻撃を一通り終え、それらがリロードタイムに入ったとき、今まで広い窓の外の夜景を見ていた義涼がはじめて振り返ってこちらをみた。
「君は携帯電話を使ったことはあるかい?」
「はぁ?」
この、よくわからない事から話を始める感じ、愛歌との血のつながりを感じるな。
機関銃が俺に向けて一斉掃射を始める。
「腕時計を使ったことは? インターネットを利用したことは?」
「あるに決まってんだろ」
避けながら答えた。
なんでこんな煩い中よく話し続けられるな。
「だろうな。それらは全て戦争から生まれたものだ」
「何が言いたい」
全てにブルーボムを当て動きを止め、話を聞く。
「人間という生物は、過去の人間の死を利用して生きる生物。生まれ落ちたその瞬間からもう、人はみな、人殺しであるも当然なのだ」
そりゃまぁ、一理あるが……。
また、ブルーボムが剥がされ、機関銃による攻撃が再開され避けなくてはいけなくなった。止めるんじゃなくて、壊しとくんだったな。
その間も義涼は何かを話している。俺のもともとの能力と仮面の機能で何とか聞き取れている。
「どれだけの人間が技術によって殺されてきたと思う? どれだけの人間がこれまでの歴史で、科学の被害者となってきたと思う? どれだけの人間が被害者の死の上で笑ってその技術を享受していると思う? 人というのは、そもそうである時点で穢れを孕んだ生物だ。……僕は現代人が気に食わない」
また夜景の方を見た。
「だから、人を人体実験に使うのか?」
やっと1つを壊したとき、全ての機関銃がまたリロードタイムに入った。
「愛歌を救うためだ」
しかし天井から数機のドローンが出てきて、俺に攻撃を開始した。
壁から生えてきた機械からミサイルなんかも飛ばしてくる。俺一人のために随分な歓迎だ。
「あんたの言ってることは正しいかもしれない。けど、たった一人の人間を生かすためだけに、何百人って人間を犠牲にするってのは、釣り合いが取れてないんじゃないか」
そりゃ俺だって愛歌は大事だが、広い目で見れば許されることじゃないはずだ。
「それは、違うな。君はあの子が天才と呼ばれているか知っているか?」
「さぁな。俺はそんなこと興味なかったもんで」
「あの子は15歳でMITを卒業、17歳までにいくつもの画期的な発明や発見をした。これからの未来、あの子が生きているのといないのとでは、人類の発展に数十年の遅れが生じるだろう」
「こんの、マッドサイエンティストが……」
俺はそんな文明発展望んでないね。
少々本気を出し、ドローンを全て打ち落とし、壁の武器も機関銃も全部壊したことで、少し静かになる。
おかげでスーツの電力をかなり消費した。