第二話:私と手を組まない?(1)
愛歌さんが転入してきた日の夜、俺は愛歌さんの家に来ていた。
放課後に下駄箱に行くと招待状、いや、脅迫状が入っていたからだ。
指示通りに分厚く高い壁を越え庭の中を進んでいく。そして明かりのついていた窓を指定のリズムでノックした。
「昼とは違って、素直に来てくれましたね。ありがとうございます」
「よくいう。ほぼ脅迫だったくせに」
「ああでもしないと来ないでしょう? さ、入って」
その部屋は……、例えるなら、学校の理科室の様だった。うちの学校のそれの3倍くらいの広さがあるけど。
なんていうか機械やら薬品やら、下手に触るとやばそうなものが散乱している。お世辞にも綺麗な部屋とは言えなかった。
部屋の奥に入っていく愛歌さんの後ろを歩いた。
愛歌さんが歩いて向かっている場所にあるパソコンは、何だか近未来的で男心をくすぐられた。
「で、何の用だよ?」
「そうね。単刀直入に言うわ」
パソコンの前のゲーミングチェアに座りながらこちらを向く。
「私と手を組まない?」
「は?」
「私がオペレーターになったげるてこと。私が差し出せるものは2つよ」
愛歌さんが指をあげていく。
「1つ目は私の技術と頭脳。必要な道具は作ってあげられるし、個人情報のセキュリティを強化してあげることもできる」
「一応顔は隠してるし、平気だと思うけど」
「あなたネットを舐めてるの? 気づいてない? 私がちょーっと本気を出しただけで、あなたの個人情報を特定できた。もっと時間が経てば確実に世間にバレちゃうわよ?」
それって控えめに言ってストーカーでは?
「もちろん私の技術をでネットに広がるあなたの情報の改ざんを行い、できる限りその可能性をなくしてあげることもできる」
でも、ありがたいことなのは事実だ。
「2つ目は世利長の権力の一端。例えあなたが戦いで大量破壊を行おうとも、大抵のことはもみ消してあげられるわ」
まーた恐ろしい事を。でも簡単にやってのけてしまうんだろうな。
「どう?」
「どうって」
願ってもない申し出と言えるだろう。だが……。
「俺と組むメリットはなんだ? 俺はあんたに何を取られる?」
女。天才。金持ち。
この三拍子が揃ったやつに碌なのがいた試しがない。
「当然の質問ね。というか寧ろ、それを聞かなかったら呆れて物も言えないとこだった。でもその前に」
立ち上がって近づいてくる。
「質問に質問で返すようで悪いけど、なぜあなたがこの活動をしているのか。それを教えてくれる?」
「……」
なんで? えーっとなんでだっけ?
「暇つぶしかな」
これも理由の一つだと思う。
「ん、え、暇つぶし?」
急に世利長さんの調子が狂ったようだ。
「少なくとも俺はそのつもりだけど? それともヒーローには高尚な理由がないとダメか?」
「……」
なんか、愛歌さんは納得のいかない顔している。
「ううん。まあいいわ。あなたがいい人間だってことはわかったし。綺麗事言われるよりは信じられるのかも」
「で、あんたは?」
「私は……、悪人でありたくないからよ」
「えっと、その定義って?」
愛歌さんは一呼吸おいてまた話始めた。
「……人より優れた何かを持っている人が、それを大衆のために使わないこと、かな。知っての通り私は天才なんて呼ばれている」
この歳にして既に名門大学を卒業。そしていくつかの画期的な発明を世に発表している。
ここに来るまでに調べてきた内容だ。詳しいことは難しすぎてわからなかったが。
「それを誰かのためになる使い方をしたいって思っただけよ。でも私一人の力だとちょっと難しいかなって思ったからあなたを利用したいの」
「……そうか」
とはいえ自らの事を天才というなんていい性格しているな。
「わかったよ。俺のあんな返事も納得してくれたんだ。あんたの申し出受けてみることにする」
不安なことも多いが、……正直断る方が怖い。
地の果てまで世利長家に追いかけられる人生を送るよりは、手を組んだ方がメリットが多そうだ。
「うぇ、本当に?! ありがとう! これからよろしくね!」
両手を掴まれ、ぶんぶんと振られた。
さっきまでのイメージとちょっと違ったその子供っぽい仕草に驚いた。
「あ、ああ、よろしく」
なんていうかこの人、俺がイメージするお嬢様像と違うんだよな。
擦れたところがなく、話しやすいなと思った。
気づくと一話の文字数がどんどん多くなっていってしまう。




