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第二十三話:生きていた証

 愛歌の肯定を受け、更に話をつづけた。


「つまり義涼さんは愛歌の病気を治すために一連の事件を起こしたってことだ。愛歌はいつから気づいてた? 自分の病気を治すために父親と協力していたのか? 最初からそれを知ってて、俺はそれに利用されてたのか?」


 愛歌は少しの時間目を合わせていた後、目をそらした。


「サラ、このえーっとなんだったからしら」

『ヴァイオリンですか?』

「あ、そう、ヴァイオリン。保管室に戻しておいて」

『承知しました』


 アームがヴァイオリンを丁寧に天井に持っていく。


「だめね。時々意味や定義は思い出せるのに、パァーンとさっきまで覚えていた単語が出てこなくなる時があるの。細かな作業も難しくなってしまった。酷い日ははんだ付けすら手が震えて難しい。一気に年を取った気分ね」


 その声は明るく冗談を言っているような感じだったが、悔しさがにじみ出ている。

 そしてまたゆっくりと話を始めた。


「お母様が亡くなって、いつか病気になることがわかってから私は、ずっと自分がやりたいことだけをやってきた。お父様のおかげで大学は卒業できたけれど、実はね単位なんて全然取れていないの。レポートだの、論文だの、設計図だの、証明だの、そんなの書いたことがほとんどなかった。大学の恩師からはしっかりやればノーベル賞どころかフィールズ賞も確実だなんて言われたけれど、そんなのどうだってよかったの。何をしている間も新しいアイデアがどんどん湧いてくる。私は生きているうちにそういう物を作ったり、自分の知識欲を満たしたりできればそれでいいんだって、人生なんて自己満足でいいんだって、そう思ってた。時間が有限だって知ってたから、他人のために時間なんか割きたくなかったの」


 それは間違いじゃないと思う。

 俺だって、自分が近いうちに死ぬってわかってたら、自分のやりたいことを優先しているかもしれない。

 愛歌にだって本当はやりたいことだけをやっていてほしかった。


「でもね死が近づいて来ると、私は怖くなった。私が生きた証を何もこの世界に刻めていないんじゃないか、死後は誰かに忘れられてしまうんじゃないか、そのことが本当に怖くなったの。だからちょっとでいい、誰かの役に立ちたい、誰かを救いたい、誰かの記憶に、心に残りたい、そう思った。だから、あなただったの。特別な力を持っているあなたをサポートすることで、間接的に私も人を助けているんだって、ここにいるんだって、その実績と実感が欲しかったの。あなたと手を組んだ理由はそれだけよ。当時、それ以外に理由は無かったわ」


 その言葉に嘘はない、そう思う。


「そっか……、その、悪かったな」

「ううん。謝るのは私の方よ。だって、黒幕がお父様だって気づいてたのは本当の事だもの。リィナスエイジの名は前から知っていた。あの脱獄事件やあなたのご両親の事件の後、リィナスエイジに関する事を調べてお父様に行きつくのに、そう時間はかからなかったわ……。……でも私は……、お父様を止めることができなかった……」

「お、おい……」


 愛歌はすすり泣き始めてしまった。

 どう声かければいいのかわからない自分が情けない。


「だってお父様は……、私の命を助けるためにやっている。やっていることは許されないけれど、私が、私がその思いを無下にできるわけないっ! だから……、止められなかったの……! あなたのご両親を殺してしまったのも私よっ!  本当に、ごめんなさい……、ごめんなさい……、ごめんなさい……!」


 子供のように泣く愛歌を見たのははじめてで、どうしていいかわからず、黙って隣にいて、背をさすることしかできなかった。

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