第十九話:ノクティルーカVS烏天狗(後編)
烏天狗を撒いたそう思ってたとこで、高速道路に入れそうだったのだが。
「え、きゃっ?!」
愛歌が後ろから離れた。烏天狗が計算外のスピードで追いついていたのだ。
愛歌を機械の鉤爪で鷲掴みにし飛び去っていく。
「おい、このバイクどうすりゃいいんだ!」
『そのままで問題ありません。私が自動操縦で家まで送り届けます』
サラが答えた。じゃあ、俺が運転しなくたっていいじゃん。
そう思いながらバイクを離れ、アイカを追いかけた。
「愛歌の位置を映してくれ」
ペックに話しかけると少し離れた場所にマークが出現する。そして、同時にスーツのエネルギーが残り僅かな事を知らせる表示が出た。
光るビルの木々の間を駆け抜けていく。
「愛歌、大丈夫か?」
愛歌もヘルメットを着用していた。
通信できるかも、と思いそう声をかけた。
『ええ、けどこいつの兵器、力強くて放せない……。それより、距離離されていない?』
「俺の水闘気の制御じゃ、街中を追いかけてくの大変なんだ。スーツの能力をフル活用しているんだけど」
こんだけ全力運用すると、エネルギーがあと5分持つかどうかというとこだ。まずい。
『ちょっとしっかりしてよ。機械性能の差って言われてる気分じゃない!』
「んなこと言われたって……」
何とか食らいついて追いかけた。そして到着した場所は、東京スカイツリーの展望デッキの上だった。
「おい、その汚い手を放せよ」
「お、きたか。まぁ安心しろ。俺は女は殺さねぇって決めてんだ。けどな」
「きゃっ?!」
愛歌の体を半分宙に傾ける。
「落としちまえば、殺すのは俺じゃなく、重力と地面だよな」
「ただの屁理屈じゃねぇか……」
「面白いことを教えてやるよ、ヒーロー」
「あ?」
「お前の家、爆破したのは俺さ」
その言葉を聞いた瞬間、頭に血が上るのを感じた。
ダメだ。冷静にならないと。
「今度は助けられるといいなあッ!」
愛歌から手を放す。
悲鳴とともに愛歌が落下していった。
「このチ○カスがッ!」
走って怒りのままに烏天狗を蹴り飛ばし、そのまま飛び降りて愛歌を追いかける。
『高さは約400m。落ちれば即死でしょう』
「見りゃわかる!」
愛歌にもうすぐで手が届く、というとき、俺の体が烏天狗に攫われた。
「放しやがれ! 焼き鳥にすんぞ!」
「やってみろよ」
「じゃあ、遠慮なく!」
烏天狗の翼めがけて腕を振り下ろす。
そこから水闘気を流し、動力を失わせた。そして烏天狗を振りほどき、愛歌を追いかけた。
「間に合え……!」
後数メートル……、数センチ……、数ミリ。
地面につくギリギリで愛歌をキャッチする事に成功し、そのまま着地した。
「愛歌、大丈夫か?」
地面が砕けるような荒い着地だったから少し心配だった。
「えぇ。怖かった……」
愛歌が力が抜けたように俺に体重を預ける。
「それならよかった。わりぃ、やっぱあいつ捕まえてくる」
「わかった。エネルギーの残量には気を付けてね。あと新兵器を使って。絶対勝てるから」
「了解」
また水闘気で宙に跳び、烏天狗を探す。
さっき発信機をつけておいたからすぐ見つかるはずだ。
「いた」
水闘気で突撃する。
「逃げりゃいいのに。わざわざ、戻ってくるとはな」
「今の数分で理解した。てめぇは檻の中にいなきゃあいけない人間だ。俺が付き返す」
空中で殴り合いながら、そういった。
「面白いやってみろよ」
「やってやるさ! ヒュドラファング!」
羽を指で貫いた。
「な?!」
ヒュドラファング。それが新しい兵器の名前。
もともと俺が異世界で、独自に編み出した闘法であるヒュドラ。
それの対テスラニウム兵器特化の武器がヒュドラファング。
指先にテスラニウムの爪を出現させる。人のような、柔らかい物に触れた途端、その爪が引っ込むように出来ているらしい。
爪には前の脱獄事件で俺の体に突き刺さっていた烏天狗の羽根を加工したものだ。
愛歌はテスラニウムを使う事に抵抗を示していたが、あるものは使わないと損、といってこれを作った。
「おい、やめろ!」
その制止で止まるはずもなく俺は、その翼と鎧を壊していく。
「おい!」
何度も、何度も、何度も。
そして必要な充電が無くなる前に武器を切り替える。
「最大出力だ! ヴェノム……」
構えを取る。
充電が後僅かだ。さっさと決めてしまおう。
「ファング!!」
そして烏天狗を気絶させた。
殺さずに下に着地させる。そこで完全にスーツの電力が無くなった。
「白! 大丈夫?!」
愛歌が駆け寄ってきた。
「ああ、これくらい何でもないよ」
烏天狗の体を放り投げ、スーツを脱いだ。
「さて……、あー、その悪かったな」
改めて謝罪した。
「そう思うんなら、これからの態度で示してよね」
「わかったよ。帰ろう」
「うん。……あら?」
急に愛歌がぱたりと地面に座り込んだ。
「お、おい。愛歌? どうした?」
「……急に力が……」
そういって地面に倒れこんだ愛歌は気を失っていた。
ひどい熱を出しながら。