第十九話:ノクティルーカVS烏天狗(前編)
どれだけの時間愛歌を抱いていたかわからない。
俺たちが自然に離れたとき、俺の方から口を開いた。
「ありがとう、愛歌。俺、その、頑張ってみるからさ、だから……」
照れ臭くなりながら、落としていたスカーフを拾い上げて、魔術で燃やした。
「だから、愛想尽かさずに、協力してくれたら、嬉しい」
「当たり前じゃない」
そう言って、微笑んだ。世界で一番眩しい笑顔だと思った。
「甘い、甘い。甘ったるすぎて反吐が出る!」
どこかからそんな声が聞こえたかと思うと、愛歌の体が目の前から消えた。
烏天狗が攫ったのだ。
「おい! 離せ!」
水闘気をぶつけて、一瞬の間、烏天狗の兵器をダウンさせ、落ちる愛歌を受け止める。
「愛歌、今日のとこは逃げるぞ」
「は?! なんで?!」
「スーツ充電すんの忘れてた」
「はーあぁ?! この馬鹿!」
二人で走って工場を駆け出る。
「あれで来たの」
愛歌が大きいバイクを指さす。
「あなたが運転して」
「いや、俺、免許持ってないけど」
さっきまで殺人とかしてた俺が気にするのもなんだけど、それってどうなんだ……。
「もっとヤバいことやってんだから、今更そんな細かいことどうでもいいでしょ。ちょっと早い自転車みたいなものだから」
「全国のバイク好きに謝れ」
バイクに跨る。
後ろの方でガラスが割れる音がした。烏天狗が兵器を再起動したのだろう。
「えーっと、どうやって動かすんだっけ?」
「右のハンドル!」
捻ると急加速した。
「お、おい。一気に80kmも出たぞ?! これって普通なのか?!」
「捻りすぎ! 改造してるんだからちょっとでよかったのよ!」
それも犯罪じゃなかったけ!?
「で、俺のヘルメットは?」
俺に後ろの席でしがみついている愛歌は、立派なヘルメットを付けている。
声もその中のマイクから仮面のスピーカーに届いているようだ。
「あなたの頭はヘルメットより硬いでしょ! それよりいいから前見て、前!」
気づくと交差点で、人を轢きそうになってた。
急いで足を前方の地面に突き出しつつ、後輪を振り上げる。バイクごと回転しながら宙を跳び、交差点の反対側に着地した。
「俺じゃなきゃ、死人が出てたぞっ!」
「だからあなたに運転させてんでしょっ! きゃっ!」
後輪付近にミサイルの様な物が着弾した。
かなり遠くからではあるが、烏天狗が攻撃してきたらしい。
「ほら、急いであいつを撒くわよ!」
愛歌がいうと、仮面にどこかへのルートが表示された。
「とりあえず、高速に出てこの子の最高スピードを出せれば逃げ切れる可能性が高い。できるだけ人の少ない道路を選んで」
『ですが愛歌様。ルートの500m先で渋滞が発生しています』
「もう、仕方ない。白、真ん中の青いボタンわかる?」
「ああ」
「足に水闘気を流しながら、それを押して」
言われた通りにすると、リストウィップに似たものが数本近くの壁に飛び出し、数秒後水闘気の力で壁を走っていた。
「こりゃいい。落ちないようにしっかり捕まってろよ!」
時々壁から壁へ飛び移りながら、逃げ続けた。
できる限り人の少ない道を選択して走っていると、数メートル後ろにまで烏天狗は迫ってきていた。
空から俺らに向けて爆撃をしてくる。
周りにある物や駐車中の車や、道路を破壊していった。
「ハリウッド映画じゃないんっだぞっての……。あーあー。おい! これ直す税金払うの俺らなんだぞ! くっそ。車の製造者や工事の人たちに謝りやがれてんだ」
怒りに任せ水闘気力を烏天狗に飛ばしぶつけ、一時的に機械のエネルギーを奪った。
これで少し時間は稼げただろう。
一気に道路を駆け抜けた。