第十七話:愛歌VSヴァーミンキラー
愛歌は深夜に一人、バイクを高速道路に走らせていた。
『愛歌様。私は賛同いたしかねます』
ヘルメットからサラの声が聞こえた。
「そう。つまりあなたは私が負けるっていいたいのね?」
『いえ心配しているのはそこではありません。ヴァーミンキラーです。死体からもわかる通りその力は白様と同じく、人知を凌駕していると考えられます』
「ご忠告どうも」
聞いて大体察してただける通り私は、アガニレス・エージェントの一人、烏天狗の隠れ家に単身乗り込もうとしているところだ。
その近くで2、3日張り込む覚悟。運が良ければヴァーミンキラーに出会える。
「ヴァーミンキラーは今のとこ、脱獄囚以外は殺していない。だったら、私が殺される可能性も低いでしょ」
『しかし怪我で済むかどうか。……御身体のこともありますし』
「私が傷つけば、白はヴァーミンキラーを倒してくれるんでしょう? 御の字じゃない」
怒りに任せて飛び出してきてしまったのがまずいってわかっている。
お父様のこと、リィナスエイジやアガニレスの所業、ヴァーミンキラーの殺人、白との喧嘩。全部全部頭に来て仕方がない。
あの家にこもっていたらもう辛いだけ、ストレスでどうにかなりそうだった。
1時間と少しかけ、目的地の東京下町の一角に到着しその場所の様子をうかがった。
その中をみると既に死体の山が築かれていた。まだ新しい。
「サラ、これって……?」
『ヴァーミンキラーが既に中にいるようです』
気を引き締め、武器を手に中に入る。
「この黒い靄は……、何だと思う?」
白が他の隠れ家を調べたときには出ていなかった、黒い霧のような物が煙のように揺らめいている。
『スキャン完了。白様の水闘気力と似ています。白様が"闘気力"と呼んでいるエネルギーだと推測』
じゃあこれが、ヴァーミンキラーの能力ってこと?
そんな風に考えていた時、奥の方から大きな物音が聞こえた。急いでそこに向かう。
その部屋に入るとヴァーミンキラーと思しき男が、大きな機械の翼をもった男の首を掴んで持ち上げていた。
他にも数人の死体らしき物が転がっている。
「手を放して!」
私の声でヴァーミンキラーは私に気づいたようだ。
そいつは数秒後、手を放す。そしてすぐに、回し蹴りで烏天狗を蹴り飛ばした。
ヴァーミンキラーはゆっくりと私の方を向き、こっちに歩いてきた。陰になり顔は見えない。
私は安全装置を解除し、銃口を向ける。
いやな汗が頬、肩、脇と私の肌を滑っていく。
全然運動なんかしていないのに思考を落ち着こうとしているのか、動機が激しくなっているのを感じた。
コツ、コツ、コツと足音が響く。
「……ぇ……?」
ヴァーミンキラーが月明かりの下に来た時、自然とそんな声が自分から漏れた。
その正体に、気づきたくなかった。
「おい、愛歌。こんなとこ、一人できちゃ危ないだろ」
顔は鼻から下が覆われている。しかしそれが誰か、私にはわかる。……わかってしまう。
「……白……、なんで……」
ヴァーミンキラーは白だった。