第十六話:喧嘩
2月中旬。街から帰ってきて愛歌の部屋に入ろうとしたが、他の人の気配がしたため少し外から様子を見ることにした。
「これは、愛歌のためにやったことだ! なんでわかってくれない!」
愛歌のお父さん、義涼さんの声だ。
落ち着いた穏やかな雰囲気の人だったイメージだから、声を荒げていることに驚いた。
「頼んでいないって言っているでしょ! なんで、あんな……」
「必要なことだったからだ。愛歌のために」
「私のため、私のためって、こんな時ばっかやってきて親面なんかしないでよ! そっちからは一方的に連絡してくるくせに、こっちからの電話に出てくれた事もないじゃない!」
お互い、言葉に詰まったようだ。
「……また来るよ」
義涼さんはそう言い残し、部屋を出た。
少し時間をおいて、中に入る。
「あ、あら、お帰りなさい」
「ただいま。何年ぶりの親子喧嘩だ?」
「……聞いてたの? そうね。お母様が亡くなる前だから、10年ぶりくらいかしら」
「てっきり仲良かったのかと思ってた」
「……家族として大切なことは変わらない、と思うのだけれどね。お母様が亡くなってからお父様はあまり家に帰らなくなってしまって、それから親らしいことなんてしてくれた事はなかったわ。でも、だからこそ……、お父様の前ではいい娘を演じようと思って……」
そこで愛歌の言葉が途切れる。
「だめね。こんな話、あなたに話しても仕方ない」
愛歌が俺に向き直る。
「調査ありがとう」
「ああ」
愛歌がパソコンの前に座る。
「これで、やっと先回りができるといいんだけど……」
アガニレス・エージェントの隠れ家を見つけては、ヴァーミンキラーに先を越されている。
その空っぽになった隠れ家から、アガニレスの他の隠れ家を見つけられることもあれば、見つけられないこともあった。
今回は前者。んで、色々と調査してやっと発見できそうなとこだ。
なんで俺らはヴァーミンキラーから犯罪者を守ろうとしているのか。おかしなことになってきたな。
「一昨日の事件でもう、ヴァーミンキラーの犯行と思われる事件は20件。アガニレス・エージェントの酒呑童子、大嶽丸、玉藻の前、牛鬼。この4人が殺された。目的が何かは分からないけれど、残りは烏天狗とヤマタノオロチの2人。こいつらを殺しつくした後に、ヴァーミンキラーがどうするのかもわからないし、足取りもつかめなくなるかもしれない」
「早く止めないとって?」
「……なんであなた、前からずっとなんで乗り気じゃないの? 今回は烏天狗の基地が先にわかった。こいつは毎回夜に襲ってる。待ち伏せすれば遭遇できるし、あなたならこんな奴に負けないでしょ」
「俺の力を買ってくれてるのは嬉しいけどな。俺にはこいつを倒す理由がない。俺や愛歌や民間人が襲われた訳じゃないからな」
最近愛歌は隠そうとはしているがイライラしっぱなしだ。
しかし、意見ははっきりと言わせてもらった。
やはり愛歌は今の発言にもイラっと来たようだ。
「……こいつは新たな救世主だと、一部では崇拝までされてる、こんな人殺しがよ?!」
愛歌が机を叩いた音が部屋に響いた。
「俺らよりも早く多く、多くのアガニレスや犯罪者を倒してるからな」
「でも非道すぎる! あなたはこんな殺人鬼と一緒にされてていいの?」
「それはいやだけどさ……。こいつがアガニレスを狙うなら、俺らは人を守るのに注力できるんじゃねぇの?」
信じられない、という目で見られた。
「こいつは人をたくさん殺してる! その相手が犯罪者とか関係ない! こいつも悪人よ! だってのにあなたとこいつを比べ、あまつさえヴァーミンキラーの方が優秀だなんて言う人までいる! 私はそれが悔しいの!」
「でも、それでこいつらに襲われ殺されるかもしれなかった未来の誰かを救っているのも、また事実だ」
「あなたはこの世界では人を殺したくないと言ったじゃない」
「ああ、"俺が"な。悪人同士なら潰しあってもらった方がこっちとしても楽だ。民間人に被害が出ない限り俺は止めるつもりはない。いくらでも殺せばいい」
「命を軽んじるような発現はしないでっ!!」
愛歌が怒って立ち上がり俺の肩をつかんだ。
その手はぷるぷると震え、目には涙が溜まっている。
「……そんな勝手な人だと思わなかった」
「悪かったな」
「っ!」
愛歌が部屋を駆け出ていく。
やっぱ、人付き合いは苦手だな、俺。だからいつも何かに裏切られるんだ。
本日投稿遅れてしまいました。
申し訳ありません。




