第十二話:ある雨の日(中編)
「白って笑わないわよね」
一か月程前、愛歌にそんな事を言われた。
「え、そうかな」
「いえ、笑顔にはなるし心の中では笑ってることがあるのも知ってるのだけれど……、何というか、白の笑い声って聞いたことないなって」
相変わらずするどい指摘をしてくるやつだった。
「笑うっていうのは……、人の攻撃性の現われだと思う。そう思ってるやつの笑いはヒーローにはふさわしくないだろ?」
愛歌には不思議な顔をされたが、これはトラウマのせいなのだろう。
俺は、人の笑い声を聞くと気分が悪くなってしまうのだ。
中学二年生の時、俺はいじめられていた。
原因は……、恋愛と言えるだろうか。
俺には幼馴染の女の子がいた。彼女は中学二年生になる直前で、家の都合で転校した。
それからだ。いじめられるようになったのは。
主犯はなんだかんだといいわけしていたが結局のところの理由は「お前のせいで告白できなかった」、というもの。
確かに仲はよかったが、別に四六時中一緒にいたわけでもなし。教科書の貸し借りや、登下校時たまたま一緒になって話していた時があったくらいだ。
自分の不甲斐なさを他人に押し付けたいがために、他に友達がいない俺が生贄にされた。それだけの話だった。
ある下校時、急に視界が真っ暗になった。袋か何かを被せられた様だった。
そのまま複数人にどこかへ担がれていき、酸欠と痛みで意識が朦朧とする中そいつらに殴られ続けた。
本人たちはバレてないと思っているのかもしれないが、殴られる度に聞こえてくる笑い声に、俺をいじめてるグループがやった事だ、ということはわかっている。
それからは学校でのいじめも、陰湿な物から直接的な物に変わった。
しかしそれに気づいた学級委員が担任に告げ口してしまった。その次の日、ターゲットはその学級委員に変わった。
その人がいじめられている時の笑い声もよく覚えている。俺は恐怖で何もできなかった。一ヵ月後、そいつは自殺した。
それからだ。人の笑い声を聞くと殴られた時やこの時の事を思い出し、吐き気を催すようになったのは。
当時の自分にもっと力があれば、そんな事にはならなかっただろう。
自分にもっと勇気があれば、同じ結末にはならなかっただろう。
だから、ヒーロー活動を始めたのだ。
自分の得た力で救える命があるのなら、あの時の贖罪になるのなら、とそう思っていた。
でも本当にそうできているだろうか?
自分は死神だと思った事がある。自分によくしてくれた人、親しくしてくれた人は殆どが皆死んでゆくからだ。
兄貴。
例の学級委員。
そう、今回両親を失った。
今も多くの人が、治安悪化の被害を受けている。
自分は何も救えていない。
自分は何も変えられていない。
何よりそれが辛かった。
異世界にいた時もそれは変わらなかった。
ある日、人を殺した。
戦争だったから、そうするしかなくて。
だから、人を殺した。
何人も何人も。
幸い俺は超人だから、自分が死にそうになることは少なかった。
でもその分多くの人を殺して。
殺して。
殺して。
殺して。
殺して。
殺しつくして。
いつしか、その事に感情なんかなくなるまで、……まるで悲鳴という名の楽器を鳴らすかのように、人を殺して。
命を奪って、血の匂いになれて、何百という血を浴びて……。
そして……。
―――白! あなたのせいでっ!
夢の中の人物のその言葉、それを聞くとき俺はいつも目が覚める。いつもの悪夢だ。
夢ってのは本当によくないな。
悪い事ばかり、思い出してしまう。
夢の中、ということで少し無秩序に書いてみたのですが、どうでしょうか。
読みにくかったら申し訳ありません。