第十二話:ある雨の日(前編)
俺が人の死に初めて触れたのは、小6の時の事だった。
兄貴が死んだ。兄、青水銀とは7歳差。
幼い頃から身体が弱く、事あるごとに病院に行っていた。
俺と一緒に初めて花火を見た時、一緒にいた兄貴の嬉しそうなその顔をよく覚えている。
その影響か花火職人になる、なんて言い出して、それで親の反対を押し切って、どこかの花火師にやっとのことで弟子入りしたその日の帰り、事故で死んだんだ。
ついさっきまで普通に生きてた人間が、次に会うときには動かなくなっていた。
冷たく、冷たく……。
なんて脆い、なんて儚い。人間なんて所詮こんなものかと、子供ながらにそう思った。
今回の事件もそう。
「まるで花火」
雨の中そうつぶやいた。
「……白?」
今日の事件もまた先の脱獄事件同様、日本を震撼させるに十分だろう。ただの一般家庭を狙った爆破テロなんて、前代未聞だ。
「こんなのって酷すぎるわよ……」
地面に見つめている俺に傘を差しながら、愛歌が絞り出すようにそう言った。
俺の家を狙った、そのせいで嫌でも説明がついてしまう。
「俺を狙ったってことだよな? 俺の正体が、誰かにバレたってことか……?」
「ごめんなさい……。私も私のできる限りの事は尽くしていたのだけれど、まさかバレてしまうなんて……」
「いや、愛歌は何も悪くはないさ……」
アガニレス・エージェントかそうじゃない囚人か、誰が犯人なのか。それはわからないが、他の理由でこんな事する意味がない……。
「なんだよ……。結局、謝れなかったじゃねぇか。勝手に死んでんじゃあねぇよ……」
雨の音がうるさかった。
「……あなたは今、行方不明者として捜索されている。早く、名乗り出て」
「いい、このままで」
愛歌の言葉を遮ってそう言った。
「え?」
「青水白は、ここで死んだ。そうしておく方が都合がいい。少なくとも関係ない人を誰も傷つけなくて済むかもしれない」
「?! ……意味わかってる? あなたは死んだものとして扱われるの。この世界の誰でも無くなるの。進学できないどころか、生きることそのものが難しくなるわよ?!」
「それでいい。だって、陽や真夏にはこんな目に会ってほしくないから」
「……」
でも、ああ……、あいつらにももう会えないと思うと……、それはそれで辛いな……。
しばらくの雨の音だけが聞こえていた。
「……それでも……」
その沈黙を破ったのは愛歌だった。
「それでも、……日本中が忘れても、私は、私だけは青水白を覚えてるから……。だから……」
「ああ、ありがとう」
引き攣った顔で無理やり笑顔を作って見せてそう言った。
「愛歌、俺」
「ん?」
「アガニレス・エージェントとの戦いもリィナスエイジとの戦いも早いとこ、ケリ付ける。力貸してくれ」
「今まで通りでしょ。敵討ちの為ってのは気が乗らないけどね。私もあいつらは許せないからさ。任せてよ」
俺は元々家だったものに背を向けて歩く。
「どこに行くの?」
「……ごめん。ちょっとだけ頭を整理したい。まぁ、夕飯までには戻るよ」
土砂降りの中、屋根の上を跳んで行った。