第十話:その夜
愛歌の家に帰り、通信機を調べていた。
「殆どの履歴は消されていたのだけれど、直前の物だけは残っていたわ」
それでまた1つ、敵の居城があぶりだせたらしい。
「今度は……、神奈川県北部ね」
「こんどはここから南か」
でもさっきんとこよりは近そうだ。
「逃げられないよう近いうちに叩きに行きましょう。また手がかりが見つかる可能性もある」
「わかったよ」
『愛歌様』
サラの声だ。
「何よ。今話してるでしょ、サラ」
『お父様がお見えになりました』
「え、また、なんの連絡もなく? もう、困った人なんだから」
前の感じだったら、連絡来てるけど気づいてないんじゃないか?
なんて思っていたら部屋のドアがあいた。
「お父様! 久しぶり」
「ああ、久しぶり。白君も」
「お久しぶりです」
「たまたま近くに来たから寄ってみたのだ。ん? 愛歌……、それは? また新しい発明品か?」
机の上に出されていた物を指して愛歌のお父さんがそういった。
「え? ああ、これは何でもないの」
愛歌が焦ったように、それを引き出しにしまった。
俺のスーツのグローブに似てるように見えたけど、その爪の先の今の独特な光沢は……。
いやそんなことより、俺はさっさと帰るとしよう。
「では僕はお暇します」
「そうか、悪いね」
「いえ、こちらこそ。失礼します」
愛歌の家を玄関からでた。
そして家に着くころには、空が既に白み始めていた。
疲れたから少し寝たい。そう思い自分の部屋のドアに手をかけた。
「母さん?! 何してんだよ」
時間は午前6時半。
自分の部屋に入って灯りをつけると、母親が真っ暗な部屋で座っていた。
「どこに行ってたの。こんなに時間まで」
無機質に無機質な表情でいった。こんな顔見た事がなかった。
立ち上がって歩いてきて、俺の方を掴んだ。
「どこで、何をしてたの? 肩も、怪我してるし」
自分でも気が付かなかった怪我を見抜かれる。
テスラニウムの銃で撃たれた時に、少し掠っていたのかもしれない。
「何って、その……。言えないんだ」
なんで、俺は嘘をつけないのか。
嘘が下手だから言ったところでバレるだろうけど。
「なんで? お母さんにも言えないようなことをしてるの?」
「……」
愛歌ならどう返しただろうか?
正解がわからない。
「何か危ないことしてるの? それとも犯罪……」
「んなことするわけ……、ないだろ」
法に則って活動をしているとは言えず、口ごもる。
「だとしても今、夜に出歩くのは危険なのはわかってるよね」
「わかってるよ」
「なのに! 白は夜な夜な毎日外を出歩いているよね?!」
やっぱり気づいてたか……。
「うるさいな。悪いことはしてないって。前も言ったし、俺の勝手だろ」
「そうやっていって、出歩いていたから銀だって!」
「兄さんみたいに、吹っ飛ぶかもって思ってるわけかっ? 俺はそんな馬鹿じゃねぇよ!」
イライラしてそう叫んだ。
「白!」
頬を叩かれる。
「……」
今のはなかったなと心では反省しているのに、言葉が出なかった。
「わかりました。今日お父さんが仕事から帰ってきたらまたお話しましょう」
「は、はぁ?! 小学生じゃないんだから! それに父さんは夜勤明けだろ?!」
「学校がないからちょうどいいでしょう」
脱獄事件の影響を受け、今年いっぱいは学校が無くなっている。
「白がしっかりと話をしてくれるまでやります」
そう言って部屋から出て行ってしまう。
……やっぱり、親は苦手だ。




