第九話:VS奪明のリコ(後編)
警報が響くと、部屋にぞろぞろと人が入ってきた。
時間稼ぎしたい身としてはたすかる。
「あー、みんな塀の中に帰りたいって人が多い感じ? 多すぎるから、今なら一人二人なら消えても気づかないかもしれないよ? 頑張って関東圏から逃げ出したら? あー、いやだ? そっかきっと運動不足だもんね」
攻撃してきた奴らを一人一人拘束しながら、そんなふうに話していたが、誰も逃げ出す様子はない。
どいつもこいつもバカばっかなのか?
50人目を無力化した時、体に強い衝撃が当たり、壁を突き破って部屋の外まで吹っ飛ばされた。
「これのエネルギーが溜まるまで待ってたの。いい武器でしょう?」
何かしらのエネルギーを放出して攻撃する武器か?
そんな事を考えながら、吹き飛ばされた部屋を見回す。
「この部屋は……」
その後もさっきいた部屋からどんどん囚人が出てくる。
そいつらを一人一人無力化しながら、体育館程に広いその部屋を回って調べていった。
『工場としてのエリアね』
武器がいくつも並んでいる。
「なるほど。リィナスエイジから隠れ家と生活費を貰う代わりに、リィナスエイジの武器を作ってるって訳だな」
『多分、アガニレスに属さなかった脱獄囚をメインに売りつけてるのよ』
売りつける相手は相手で金なんかないだろうから、リィナスエイジは何かヤバいことやらせて金を握らせてるんだろう。
「で、ところどころにあるテスラニウム制の武器はどう思う?」
あの金属は独特の光沢を帯びてるから分かりやすい。
『この二ヶ月、日本での行方不明者は……、102人』
愛歌がぽつりと言った。
「その全員がアガニレスに誘拐された訳じゃないとは思うけど……」
なんにせよ人が物を作る素材にされてる、ってのは気分が悪い。
『そもそも、ここにいる脱獄囚の人数も想定より少ない』
「あーあ。仲間も材料にしてるってわけ? 人間性を疑うね」
『何をいまさら』
なんて愛歌と話しながら、リコ以外のすべての人間を無力化する。
「これだけしか時間稼げないの? こいつらも少なからず強化されているはずなのに」
さっきのバズーカは二度目撃つまでに時間がかかるのか、その時間を稼げなかったことにリコが文句を言う。
「そういうなよ。武器も強力だったしちょっとは大変だったんだぞ。10分もかかった。蚊より蜂の方が対処にはこまるだろ」
「私はそう簡単にはいかないよ」
そういってリコは何かをしようとしたらしいが、何も起きない。
「ああ、そうそう。すでに甲羅の動力は奪ってる。あと二時間はショートしたままだからそのつもりで」
「は?!」
戦いの最中、愛歌に聞いていたあの新しいボムの仕組み。
張り付けている間、テスラニウムに流れている電流を少しづつ外に逃がし、最終的に中のシステムまで崩壊させる、……のだそうだ。俺の理解が間違っていなければ。
「……んで」
「あ?」
「なんでよ! 動きなさいよこのポンコツっ!」
なんか怒り始めた。
「あんたらは何やってんのっ! 大の男が数十人がかりでやっても、たった一人にやられて! それでも強化人間なの?! しっかりしなさいよっ!!」
そう言って足元にいた男を蹴り上げる。
「あんたもあんたよ。さっきの砲撃で死になさいよっ! なんで死なないのよ」
頭を搔きむしっている。
『全く、キィーキィーとうるさい亀ね……』
「ホント。歳食った女のヒステリーは手に負えねぇよ。ああはなるなよ」
『私だってごめんよ。さっさと捕らえて』
そんな様子で無防備なリコをすぐに拘束しようとしたが……。
「やべ、ボムが切れた」
囚人拘束に使い過ぎた。
『残量はちゃんと確認してって、いつも言ってるでしょ?!』
「あーあー、わーったよ」
また小言聞かなきゃってのはもう勘弁。
「せいぜい、手加減できるよう祈っててくれ」
立ち上がろうとする禰々子に近づく。
「ヒュドラ!」
いつかのときより、強めの威力で攻撃し続ける。
続けること数十発、禰々子の鎧が音を立てて崩れ始めた。
そこを起点に、鎧をひっぺ返した。
「あら、何をするの?」
「はぁ?! 裸ってどういうことだよ! こんのアバズレ!」
裸の上から鎧なんか着るかふつう。
「仕方ないでしょ」
「ああ、悪かったな!」
必要なとこまで鎧をはぎとる。
「ヴェノムファング!」
心臓部に電撃を流し気絶させた。
「加減がむずいな……。今回は死なせずに済んでよかったけど……」
『他にも何か、テスラニウムに対する対策を考えないとね』
遠くでパトカーの音が聞こえた。距離からして二分もすれば着くだろう。
『警察が来る前に、何か手がかりがないか探して』
「了解」
ペックにまず、禰々子河童の鎧をスキャンさせた。
めぼしい物は見当たらないな。
奥の部屋に入り、もう一度スキャンさせた。
『コンピュータと通信機器と思われるものを発見いたしました』
『ナイス。中のデータを移せるだけ移してきて』
「了解」
警察が到着したころ、その工場を去った。