第一話:転校生(前編)
後でまた本編で出てくることですが主人公、青水白はよくある異世界転移を経験した感じの人です。
色々あり元の世界、元の時間に帰ってくることができました。
駅から出るとそこは灼熱の世界だった。
照りつける太陽はまるで自分の存在を主張するかのように、地上に残暑をもたらしている。
「はぁ……」
ため息を吐き通学路を歩いて行った。
半ばくらいまで来た時、元気な声と共に体に軽い衝撃が走った。
「おっす、白!」
「もう陽! 走らないで!」
俺に体当たりしてきた男の子を追いかけるように、後ろから女の子が走ってきた。
俺の数少ない友人の唯桐陽と空峰真夏。二人は家が隣同士で幼馴染らしい。仲良さそうで何よりだ。
「久しぶりだな、二人とも」
「?」
「一週間前に会ったばかりじゃない」
「……」
あー、まずい。口が滑った。
言えない。別世界に行ってたから俺は約3年ぶりなんだ、なんて。
頭がおかしいと思われる。中二病を拗らせたと思ってくれたならまだいい方だ。
「俺からしたら一週間でも久しぶりなんだよ」
3人で歩いていると暑さも多少気にならなくなった。
「おい、これ見てみろよ」
「すげぇな。トラックを生身で受け止めてるぞ」
同じ学校を目指す周りの学生の声が聞こえてきた。
「話題はノクティルーカの話題で持ちきりみたいだね」
真夏が呟く。
「そりゃすっげぇもん。今朝ニュースに出てたぜ?」
陽が応える。
ノクティルーカは一週間前に東京に出現した、いわゆるヒーローだ。
何か問題が起こったところに現れては解決して去っていく、そんな人物。顔は仮面をつけていて誰も見たことがない。
肯定的な人も否定的な人もそれぞれ一定数いるが、大半は映画が現実になった気分でワクワクしながら見ている。つまり自分はそんなトラブルとは無縁だと、テレビの先は映画と変わらないものだとしてとらえているのだ。
「何も起こらないといいけど」
真夏が呟く。
「っていうと?」
「ヒーローにはヴィランが付き物でしょ?」
しかし、こうして自分と結びつけて考えてしまう人がいるのもまた事実。
「……」
「考えすぎだろ?」
ちなみに夜光虫という名前は彼が現れる時は、青白い光を纏っていることから自然と定着した名前だ。
学校に近づくとそれまでとは違うざわめきがあった。
「すげぇ。はじめてみた」
「あれ誰のだ? うちの生徒?」
「まさか。こんな田舎校にあんなの乗ってる家の出身がいるかよ」
そこにあったのは真っ黒な車だった。
何人かの男子は、立ち止まって写真を撮ったりしている。
「あれなに高級車なの? それとも有名な車?」
「さあ? 俺そういうの詳しくないから」
真夏の質問にそう返した。
校舎に入り2人と分かれて自分のクラスに入った。教室に入り席に座る。
俺の苗字は"青水"だから、出席番号が一番。席も右最前列だ。扉にもロッカーにも近くて助かっている。
本を読みながら時間を潰していると目の前の扉が開き、担任が入ってきた。そして。
「えー突然だが、このクラスに転入生を迎え入れることになった」
なーにが"突然だが"、なんだか。B級ラブコメみたいな切り出し方しやがって……。
担任が廊下に向かって声をかけ転入生が入ってくると、クラスがどよめいた。何かと思って顔を上げ、その転入生の女の子を見る。
眩しいほどに煌びやかな金髪と宝石のようなエメラルドグリーンの瞳、そしてあどけなさを残しつつも美しい顔立ち。クラスを動揺させるには十分すぎるといえる。
「アメリカのニューヨークから引っ越してきました、世利長愛歌です。よろしくお願いします」
黒板に綺麗な文字で名前を書き、自己紹介をした。その苗字の有名さから、さらに動揺が加速する。
誰もが知るお金持ちの家の名前だったからだ。
そういえばなのですが、僕はアスノヨゾラ哨戒班などで有名なボカロPのOrangestarさんの大ファンでして、ノクティルーカという名前もOrangestarさんの楽曲から借用しました。
僕の話に出てくるヒーロー名はすべてそこから借用しています。