第九話:VS奪明のリコ(中編)
ダクトに入り込むとすぐ、耳元でザっという音が聞こえた。
『うーん、そ――場、あまり通――くないみたい』
「大丈夫か?」
『ちょ―――ってね……、よし、多少マシになったかな?』
さっきよりハッキリ聞こえるようになった。
「とりあえず、進むぞ」
少し進んだところで、叫び声が聞こえた。
「今の声がした場所までのルートを頼む」
『うん』
愛歌が出した経路を辿って進み、とある大部屋の天井から下を見て絶句した。
「おい、あれ……」
『え、ええ……』
機械の甲羅を身につけた女が男の眼を喰らっていた。
まるでチキンでも喰らうように、顔にかぶりついて、むしゃむしゃと。
『特定完了しました』
サラの声だ。
『久山理呼32歳。通称は奪明のリコ。覚醒剤取締法違反。同様の罪による逮捕歴は過去に合計三回、三度目には殺人の罪にも問われました。2年前、マイアミゾンビ事件で有名な食人ドラッグ、『バスソルト』を服用。青森県にて5人を殺害、被害者の眼球を食す事件を起こし東亜刑務所へ』
それは元々知ってたな。
「んで今度はドラッグじゃなくて、目ん玉の中毒者って訳か?」
イカれてるな。
『白、さっさとやっつけて。ここの人たちで収まってるからまだいいけど、いや良くはないかしら? 何にせよ民間人に手を出し始めたら悲惨だわ』
「はぁ……。この糞寒い中、何十分もかけて埼玉県を縦断して、工場に忍び込んで、目玉喰う怪女と戦うのか。クリスマスイブらしい日だな」
文句を言いながら部屋に飛び降りながら、女を蹴った。
「メリークリスマス。眼球パーティは終わりだよ」
「あら、虫さん。あの日以来ね。元気にしていたかしら」
けっこう力入れて蹴ったんだが、女はなんてことなさそうに起き上がった。
やっぱ強化人間だな。
「ねぇ、仮面なんて外したら?」
「俺が戦場でこの仮面を外すときは、ヒーローをやめたときだよ」
「残念。あなたの目を見たかったのに」
禰々子河童は血まみれになっている口でニヤリと笑いながら、舌なめずりをしそう言った。
「悪いけど、あんたの喰える目は、もうこの世にはないよ。愛歌、警察に通報を。……愛歌?」
『――――――』
「この工場の周辺では外部への連絡は不可能よ。とりわけ、この部屋ではね」
「なるほど、そういうこと……」
発信機が途絶えてたのもそのせいか。
何か用事で外に出た時に、たまたま通信がつながったのだろう。
「けど、あんたが外に助けを求められないのも、同じだよな」
そう言ってブルーボムで拘束する。
様子を伺っていたら、背筋に悪寒が走った。
すぐにその場を離れ、少し離れた壁に張り付いた。すぐに何十という銃声が部屋に響く。
俺がいた場所の床はいくつもの小さな穴が空いていた。
リコの機械の甲羅からは、機関銃のようなものが二つ出てきている。
「カメックスかよ……」
その後も飛んでくる攻撃を避け続ける。
ただの銃弾なら避けるまでもないんだけど。
『弾丸はテスラニウムでできています』
ペックが解析した結果を伝えてくる。
つまりあれは俺を殺しうる武器ってことだ。
「あの金属のせいで、こっちまで命懸けだぞ、ったく」
部屋を飛びまわり避け続ける。
隙ができた時、一瞬水闘気を利用して加速して後ろに回り込みリコを蹴り倒した。甲羅を踏み付け動きを抑える。
そして2つの銃を剣で切り落とした。
「ほら仕舞いだ、観念しろ」
「まだまだ」
またも嫌な予感がしてすぐに離れた。踏みつけていた甲羅から、剣山が生えていた。
「めんどくさい甲羅だな。大人しく牛乳配達でもしてろよ」
「私は亀ではないので」
「河童だったな。皿わってやろうか?」
甲羅から新たに生えてき機関銃の攻撃を避け続けながら、会話をつづけた。
「ご生憎、そんなわかりやすい弱点なんてないわよ」
「そうかよ」
銃が仕舞われ、甲羅から何かが射出される。
銃弾ほど小さくない。
それは剣で弾いたが、不自然な動きで甲羅の中に戻って行った。
「テスラニウム製ブーメラン……、ってとこか。厄介なもんだ」
「まだまだこれからよ?」
ナイフのようなものが8つほど、そいつの周りに浮かび始めた。
ナイフが俺に射出される。
「何で宙に浮いてんだよ、あのナイフ」
『電磁力とかじゃない? テスラニウムの特殊な電磁場を利用して、サイコキネシスのように自在に動かしているの』
「愛歌?!」
急に耳元から声がして驚いた。
「どうやって?」
『あなた、私をバカにしているの? ドラッグ漬けの異常犯罪者が管理できる程度のやわな通信妨害装置なんて、突破できないわけがないでしょ』
流石ぁ、心強いな。
「なんかいい武器ないか?」
『一応テスラニウムの兵器対策で作っておいた物があるの。ただの思い付きだから、そこまで効果高くはないけれど』
HUDに見慣れない表示が現れる。
『スカイブルーボム。これを甲羅に張り付けて』
「了解」
攻撃をよけながら後ろに回り込み、バレないようにボムを貼り付けた。
「で?」
『ごめんね、効果が出るまで時間がかかるの。それまで時間稼ぎを』
「了解」
ナイフの攻撃を避けながら前に進み、懐に入り込む。
そして軽く腹を蹴こんだ。壁まで禰々子が吹っ飛んで行く。
「無駄だよ。この鎧は衝撃も防ぐ。体は飛んでも、私自身にダメージはない」
「あんたにダメージが無くても、鎧や電子機器は別だろ」
時間稼ぎだってばれないように攻撃しただけだが。
「うーん、そうかも。私はね、戦うことが好きなわけじゃないのよ。だから、他の子に任せるわ」
そういうと、工場内に警報が響いた。
戦闘描写を描くとやはり長くなってしまいますね……。