第八話:冬入りとテスラニウム(後編)
「で、何を怒ってるんだ?」
今の愛歌は何か機嫌が悪いように感じる。いつも通り振舞おうとしているようだったが、色々と説明してる内に隠しきれなくなってきていた。
「バレた?」
「愛歌がマイナスの方向に感情を出しているのは珍しいから、さすがに気づく」
「私もダメね。気分を隠すのが苦手」
「愛歌のいいとこだよ。で?」
「これよ。あなたに刺さってた、烏天狗の羽根」
虹色の光沢を帯びた金属片、ナイフのような羽根だった。
「何でできているのかを調べてたの。そしたら、テスラニウムだってことが分かったのよ」
「そりゃあ、すごい。……それで?」
「あなた、わかってる? わかっててその反応なら私、あなたと絶交するわよ」
え、そんなにやべぇもの?
「ごめん知らない」
愛歌は小さくため息を吐いた後、また話始めた。
「二コラ・テスラは?」
「それは知ってる」
交流の電気を生んだ科学者、だったはずだ。
「その昔ね、彼が生んだテスラコイルを使ったとある計画がアメリカであったの」
「計画?」
「そ。フィラデルフィア計画」
フィラデルフィアはアメリカの地名だったはずだな。
「そのテスラコイルを使ってステルス装置を創ろうとした、っていうアメリカ海軍の試みよ。強力な磁場を作って、レーダーから映らなくなろうとしたのね」
「で、成功したのか?」
「いいえ。大失敗。一瞬瞬間移動して、また元の場所に戻ってきて、中を見てみたら乗組員が灰になっていたり、凍り付いていたり、船と同化していたり、五体満足で生き残っていた人は発狂していたりしたの
「……」
えっと、冗談なのか、何なのか。
「都市伝説か何か?」
「そう。こんな突拍子もない話だから巷では都市伝説や陰謀として語られることが多い。マンハッタン計画を隠蔽するために流された嘘の計画だ、とかね」
なるほど
「でもこの計画は実際にあったわ。それも伝えられているのはもっともっと悲惨な結果を残している」
愛歌曰く、船内での結果はさっきのとほぼ同じ。しかし被害者の中の船と一体化してしまった一部の人間。彼らは正気を保ったまま生き残ってしまっていたのだという。
問題は船が瞬間移動した先がドイツ近海だった事だ。
それがなんだという人もいるだろう。
というのもこのフィラデルフィア計画、行われたのは1943年。つまり第二次世界大戦真っ只中。
そんな時、領海にアメリカの船を見つけたナチスが放っておかないはずがない。
「で、その時ナチスが発見したのだけど、船と……、いえ金属と人体が同化したその部分だけ特殊な金属になることがわかったの。それがテスラニウム」
彼らは生きながらに船と同化した部分と体を切り離され、命を落としたという。
この金属によってナチスはより、特殊な科学力を手にいれたとかなんとか。
ナチスはその後も、ユダヤ等の人々を使ってはこの金属を作り続けていた。
大戦後も先進国によって1960年代までは製造され続けた。最後に使用が確認されたのはベトナム戦争中期ごろまで。
「刃物に使えばダイヤをも美しく切り裂くほどの切れ味を生み出し、守りに使えば核爆発からも人を防ぎ、兵器に使えば現代のレーダーですら見つけるのが困難なステルス装置を搭載できる。ダイヤを越える硬度を持ちながら加工がしやすく軽い。戦争のために生まれてきたような夢の金属、それがテスラニウム。……製造コストは人の命。どんな金属を素材にしてもいい代わりに、他の生物では生成できないことがわかっているから」
愛歌が怒ったように最後の2文を付け足す。そりゃ、不機嫌にもなるな。
聞いているだけで気分悪くなってきた。
「ひでぇ話だ」
「ホントよ。こんなのを今でも誰かが作ってると思ったら、反吐が出る」
いつになく怒りを露わにし震えている愛歌が、気を落ち着かせるように一度深呼吸をして話をつづけた。
「でもね、生成方法を考えなければ素晴らしい金属であることには、変わりもないの。今でも命を粗末にしない方法で生み出すことはできないか、って多くの科学者が研究している。もちろん私も」
「強化魔術をかけてた俺に突き刺さったんだから相当強力だよ」
多分これ魔法金属じゃないかな。少し魔力を感じるから。
「使用用途も類を見ない広さを持ってる」
「ヴェノムファングが効かなかったんだけど」
「そりゃそうよ。テスラニウムは電気を通さないの」
「え、でも金属なら電気は通さないと定義的に……」
「語弊があったわね。電流を受けつけないのよ。製造段階で強力な磁場を生み出さないと行けないでしょ? それ故にテスラニウム自体が帯電して特殊な電磁場を生み出し続けているの。生半可な電流はかき消されちゃう。雷レベルであれば流石に効果はあるでしょうけど」
そんなんどうしようもないな。
「さてと、この話はおしまい。今日は1度帰ってゆっくり休んで。明日から忙しくなるわよ」
「ああ、わかった。おやすみ」
そう言って俺は帰路に着いた。