第七話:大脱獄事件(前編)
極東亜刑務所には、東アジアだけでなく、東南、南、時には西アジアからも犯罪者が送られてくることがあります。
ヘリコプターの中から、その施設を確認する。
「どう?」
運転しているのは愛歌だ。ホントに万能な奴だな。
まさかヘリも免許も持ってるなんて。
「地獄絵図って感じ」
「でしょうね」
東京湾の沖にある極東亜刑務所、日本最大の刑務所にしてアジア唯一の異常犯罪者専用刑務所。
大量殺人鬼や、頭イっちゃってる奴とか、存在をもみ消されたのとか、そういうのが東アジアを中心にたくさん送られてきては収容されている。
さっきの警報はそこに誰かが侵入したことがきっかけで集団脱獄が勃発した、という知らせだった。
既に多くの囚人が海路空路で脱してしまっている。
「海岸には警察が待機しているらしいから、あなたは首謀者を捕まえて」
「愛歌は?」
「これをどこかに停めて、加勢するわ」
何言ってんだと思ったが、愛歌は自分にできないことは言わないだろう。
「無茶はすんなよ。ヤバくなったら呼んでくれ」
「もちろん。その時は早く助けに来てよ、騎士様」
「俺は騎士じゃなくて兵器だ」
仮面を着けて下に降りて、一人の脱獄者を踏みつける。
その横を走り去っていく奴に青い弾を飛ばす。愛歌の開発したブルーボム。粘性の液体で対象を捕縛できる。
「ダメじゃないか、こんな時間にお外に出ちゃ。次はインペルダウン送りだよ。レベル6な」
そんな事をしているとすぐにペックから報告があった。
『侵入者の物と思われる足跡を発見しました』
「おっけい」
走って跡を追っていき建物に入った。そこは管制室だった。
「血の匂い……」
そこにいた職員の中に生きている者はいなかった。
匂いから来る嫌な記憶を振り払い、痕跡を追う。階段を降り、地下に入った。
「ヤバい犯罪者さんって、こんな地下に部屋が必要になるほどいるんだな」
まぁ、アジアの東側全域からヤバい奴を集めてるって話だから広くもなるか。
そして、1つの広い部屋に入った。
「待っていたよ、ノクティルーカ君」
そこには山高帽を被った40代から50代程の細身の男性が立っていた。
見るからに胡散臭い男だ。
「おっさんが事件の犯人?」
『アニメだったらベテランの声優さんでしょうね、羨ましい』
愛歌が仮面のスピーカーから言った。敵の声聞いて出た感想それかよ。
「ってか愛歌聞いてたのか?」
小声で訊いた。
『必要な時にはサラが繋げてくれるわ』
そこまで判断できるAIって怖くね?
『とりあえず、できるだけ話を聞きだして』
俺そういうの苦手なんだけど……、やるっきゃないか。
「見た目の割りにアクティブだね。大丈夫? 腰痛めてない?」
「ご心配どうも。私はこう見えて丈夫なのでね」
もしかしてこいつも強化人間か?
「で? 俺を待ってたってのは、なんで?」
「私は君のファンでね」
『うわぁ、悪役っぽいセリフ。そういうの、もう古いよ。ねぇ?』
知るか。
「君を勧誘したくてね」」
『はいでた。悪役のあるあるゼリフ第一位。"私の仲間になれ"』
「さっきから実況どうも」
確かに親の顔より見た悪役ムーブだ。
「勧誘するなら、ちゃんと口説いてくれよ」
愛歌の指示通り会話を続ける。
「人間は弱すぎる、そう思わないかね?」
「あーだから、人類を強化人間にして更に進化させるとか、それが目的? もうそんな使い古された悪役ムーブ流行らないよ、って俺の友達なら言うと思うね」
『正解』
これまたどうも。
「ふむ。近いが、われわれの目的は少し違う」
「っていうと?」
「もし人間が自分の体の異常、そう、癌のような病気や欠損などの怪我を、自らの力で回復できるようになるとしたら、人類にどれだけの益をもたらせると思う?」
「医者の価値が下がるかな」
『気にするとこそこ?』
それが実現できるなら、人類の永遠の夢といえるだろう。
「我々リィナスエイジの目的は、それを人を強化するという道から実現を目指している。実はもう実現目前でね。君なら、わかるだろう? これは人類をより上位の存在へと進化させるものだと。例えば君のようにな。どうだ? 私たちの仲間にならないかね」
『リィナスエイジ……、その名でもう十分だわ。捕まえて』
「その命令を待ってたんだ」
こっそり武器を起動する。




