第五話:銀行強盗
愛歌と組んで二か月が過ぎた。あの頃は随分と暑かったが、もう肌寒い日が増え始めている。
そんなある日曜の昼、俺は愛歌の指示でとある銀行の様子を反対の屋上から伺っていた。
外では複数のパトカーが止まっている。
「日本で銀行強盗なんてまた随分と珍しいな。ドラマか、でなきゃ芸人のコントでしか見たことないぞ」
『現金なんて化石を狙ってる時点で大した犯人じゃなさそうね。ハッキングして、データ改ざんしたほうが効率的だと思わない?』
「……」
愛歌ならそれができちまうんだろうな。
たとえ世利長家がどれだけ落ちつぶれても、愛歌はピンピン生きてそうだ。
『人質を何人かとっているようね』
それは面倒だ。
『監視カメラのハッキングが完了した。犯人は……、あれ? 一人?』
「へえ。一人でここまで騒ぎを大きくしたのか」
『特殊な武器を持っているみたい。気を付けて』
「了解」
『建物の構造がスキャンできた。東側の路地に窓があるから、そこからより中がよく見えると思う』
言われたままそちらに向かった。
人質が待機させられているようだ。
「犯人が一緒にいないぞ」
『金庫に行っているのかも。チャンスよ』
「おっけ」
階下に降り、人質を逃がす。
警察が入ってくる前に犯人を捕まえようと奥へ進んだ。
「しかし、随分な荒れ具合だったな」
まるで猛獣が大暴れしたみたいな。
『映像から犯人が特定できたわ。千野弦悟、31歳。殺人の罪を犯し、服役中に火事で死亡したと書かれているけど……」
「つまり自分に偽装した全く別の奴を殺して本人は出てきてたのか? どうなってんだ、刑務所のセキュリティは」
『誰かが手引きしたのかもね』
困ったものだ。
大きな金庫の前に着くと、目を疑う光景があった。
扉が壊されていたのもあるが、その様子が妙だったからだ。
「なあ? これって……」
『ええ』
爆破したり、機械を使って破壊したという様子じゃない。
力技で扉を引っぺがしたという様子だ。巨大な金属の塊を、だ。
何かの機材を使えば可能なのかもしれないが、そんな機械なんて一人で持ち運べるものではないだろうし……。
などと考えていたら、中から大柄の男が出てきた。
「もう来たのか。やっかいだな」
俺を見るなり舌打ちしてきた。
「悪いけど話してる時間はないんだよね。拘束させてもらうよ。ヴェノムファング」
両の人差し指、中指の先に搭載された高出力のスタンガンを起動する。
そして超スピードで後ろに回り込み首筋を突こうとしたとき、強い衝撃を感じ体が吹き飛んだ。
「っ?! なんだ?!」
『大丈夫?!』
胴を殴られたとこまでは認識できた。
しかしどうせ俺にダメージを与えるほどの攻撃じゃないだろうと無視した。結果がこれだ。
『今のは最大想定殴打ダメージ300%。威力は4t』
「トン?! 単位あってんのか?」
『ええ、合ってるわよ。ゴリラ並ね』
マジか。ゴリラってすごいな。
「こちらも時間が無いんだ。悪いが殺していくぞ」
そう話した男はさっきとは違い右全体がガントレットのようなもので覆われていた。
あれで金庫破壊したのか……?
『早めに無力化して。危険よ、そいつ』
「言われなくても」
少し手荒になるが、あれだけ強ければ体も頑丈だろう。
そう思って攻撃しようとしたときの事、男を挟んで俺の反対側から警察が数名入ってきた。
人質が出てきたことで突入してきたようだ。
「ちっ。まずはうるさい羽虫を駆除しなくちゃなっ!」
そう言って男は後ろを振り返り警察を攻撃しようとした。
「まずい」
あれを生身の人間が喰らえば大怪我じゃすまない。
そう思い、急ぎ自分に強化魔術をかけ警察と男の間に割り込んだ。
そして……。
「あ……」
「あ、ががが……」
気づいた時には、俺の腕が男の体の心臓あたりを貫いていた。
男と警察の距離を離そうと軽く突き飛ばしただけのつもりだった。しかし魔術で強化されたことと、焦りで力が制御しきれなかったのだ。
命を奪ってしまった、その重みが数か月ぶりに心にのしかかる。
『白! 逃げて!』
愛歌の言葉で我に返った俺は、警察に捕まる前に急いでそこを脱出した。
ここまでの二ヶ月の間の出来事も書こうかと思ったんですけど、ストーリーから大きく脱線するなと思ったので、それはまた別の機会に。