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3 このめちゃくちゃ健康優良児め!!!

 ◆◇◆◇◆



『全く問題ないわ。元々夢幽病はもう治っているけれど、念のため薬を常備しておけって周りがうるさいだけだから。また会えるのを楽しみにしてる。 貴女の友人より』


 私宛に届いた手紙を見て、ホッと安堵の息を吐く。治療薬を注文してくれていた彼女に「事情があって少し納品が遅れる」と言う手紙を送ったけれど快く返事を貰えたのだ。私は手紙を()()()の鍵付きの文箱にしまった。私の肉体に入っているローレンス様は手紙を勝手に読んだりはしないだろうけど、一応ね。


 ローレンス様の姿になった私は、そのままオーク家の客ということにして滞在している。

 だって彼のふりをしてアルダー伯爵家に戻っても流石に彼の家族には見抜かれてしまいそうだもの。それに夢幽病患者のための薬を作りつつ、平行して元に戻るための薬の研究もしなければならないから。


 あの日、ローレンス様が馬車で待たせていた従者は私達が入れ替わったことを知らない。「リディア嬢と一緒に過ごしたいから暫く滞在する事にした」と言ってアルダー家への言付けを託したら、理解不能という顔をしながら帰って行った。そりゃそうよね。直前まで婚約を解消するつもりでここに来たんだもの。


 ただ、その言付けを聞いたアルダー伯爵夫妻、そして彼のお兄様は大層喜んだみたい。「何日でも居ろ」という趣旨の手紙とローレンス様の着替えや必要なもの、そして滞在費用代わりの我が家への贈り物を沢山詰めて馬車で送って来たわ。やっぱり私との婚約ってローレンス様本人以外には歓迎されてるのよね……。


「う、うう……」


 そのローレンス様は今、真っ青な顔をして長椅子に寝そべっている。


「まあ、何ですか月のものくらいで! 肉体自慢のアルダー伯爵家も大したことありませんね!」

「なんだと! くそう……」


 セーラの挑発にまんまとのせられ、私の身体に入ったローレンス様は長椅子から身を起こした。


「知らなかった……女性は毎月、こんな辛い思いをしていたのか……」

「まあ人によりますし、なんだったら同じ人でも月によっては軽かったり重かったりしますから」

「そ、そうなのか……女性の体とは不思議なものなんだな……」


 私達が入れ替わった日の翌々日、私の身体は生理(月のもの)が始まってしまった。私は他人よりそれが重めで毎月憂鬱だったんだけど、今月はローレンス様に肩代わりして貰えてラッキーだった。オマケに彼は本当に健康自慢だったみたいでとっても身体が軽いの。ローレンス様の身体万歳!


「ふふ、私、ローレンス様と結婚して一生このままでもいいかもしれないですわ」

「い、いや!! それは困る! 頼むから早く薬を完成させてくれ!!」


 ローレンス様はまたブスな顔をした。うーん。確かにこのブスな表情の自分と子供を作るのは結構イヤかも。仕方ない。


「わかりました。できるだけ尽力しますわ。ですからローレンス様も激しくない程度に体を動かしてくださいね。辛いからってゴロゴロしていると、余計に長引きますわよ」

「わ、わかった……じゃあ散歩でもしようかな」


 彼は立ち上がって2~3歩ドスドスと男らしく歩いてから「おっと、いけない」と歩き方を改めた。すっと背を伸ばし、ちゃんと内ももに力を入れて淑女らしく綺麗な歩き方をする。


「まあ、もう歩き方もマスターされましたの?」


 ローレンス様とセーラは同時に得意げな顔をした。


「まあな、俺は美しい女性を何人も見て来たからこんなの簡単だ!」

「私の教え方のたまものです!」

「ああ、セーラの『馬に乗る時の様に足の内側に力を入れろ』ってのはいいアドバイスだった……あ!!」


 最後にとんでもなく大声を出されたので、セーラが「お嬢様の姿ではしたない!」と怒る。


「すまん、だがマズいぞリディア嬢!! 今週末は友人たちと馬で遠乗りをする予定だったんだ。今思い出した!!」

「え!? そ、それは無理です!」


 元々インドア系の私は馬になんて数回しか乗ったことが無い。それもお父様やお兄様が相乗りしてくれただけ。一人で馬に跨るなんて!


「急いで断りの連絡を入れてください! 体調不良とか何かで!」

「無理だ! 俺は今まで3日以上寝込んだことがないから今から週末まで体調不良なんて誰も信じてくれない!」


 このめちゃくちゃ健康優良児め!!!


「え、えーと、じゃあケガをした事にすればいいじゃないですか。頭にガラス瓶が落ちたのはホントの事ですし!」

「そうだな。軽症だが頭を打ったから念のため馬は乗らないでおく、という事にしよう」


 ローレンス様はそう言うとさらさらと手紙を書いて友人に出された。ふう。これで一安心だわ。


 ……と思ったら、そうは問屋が卸さなかった。彼の友人から返信がオーク伯爵家(うち)宛に来たのだ。


「な、なんでアルダー伯爵家(うち)じゃなくてこっちに直接返信が来るんだ!?」

「……ローレンス様、手紙は我が家の使用人が代行で運びましたけれど……まさか、便箋もオークの家紋が入ったものを使ってませんよね?」

「あっ」


 ローレンス様は頭を抱えた。ああもう、うっかり屋さんなんだから!


「どうしよう……フィンリーから『遠乗りから帰った後にカードかチェスでもしながら一杯飲もうぜ』って」

「それも断ればいいじゃないですか」

「『飲むのも無理なくらい大変なら、そっちに見舞いに行く』とも書いてある」

「そっちって……」


 オーク伯爵家(うち)に来るつもり!? 確か彼の最も親しい友人のひとり、フィンリー・ウォルナット様は名の知れた侯爵家のご令息だ。普段はわざと目立たぬようにしているため伯爵家としても力をあまり持たない我が家より、かなり格上の家の人間の訪問を無下には断れない……。ローレンス様は私を拝むように頼みこんできた。


「頼む! 上手く俺のふりをして一杯だけ付き合ってきてくれ!」

「えええ……」



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